World hero project

シャンパンルビノ

第一話:ファイアーエッジ(アルマ編第一話)

 少女の過去はあまりにも複雑だった、アストロニア大陸中心にある祖国アストロニアは、毎年大雪が降る厳しい自然とそれによって生まれる雄大な雪景色が有名だったが政党派閥の争いが内戦に発展しその純白な絨毯は灰と赤い血に染まった。

 そしてその内戦によって彼女は両親を失い孤児院に預けられるがそこでも悲劇は起こることになる。

 孤児院は過激派テロリストの標的にされた。彼らは「売国奴には死を」を題目に次々と孤児院の人々を次々と殺害していく。

 彼女に銃口が向けられた時、突如として黒い甲殻が彼女を包み込み複数の銃弾から彼女を守った、結果的に彼女は後から来た傭兵部隊に救助され。その時の傭兵の一人であった男性が彼女の義理の父親になった。

 

 時は流れ彼女はアールテラ大陸の西に位置するエルステンドという小さな国に移り住んでいた、というのも父親のカルロスが傭兵業から足を洗いたいと言ったところ、エルステンドの王、テンドスタークに声をかけられ。

 名目上は国に雇われてる形で住み着くことになったのだ。

 彼女自身も「黒粒子」と呼ばれる粒子が彼女の力の原因だと判明し、その黒粒子の力を良いことに生かせないかとエルステンド自警騎士団と呼ばれる組織に所属、義理の母であり、組織のリーダーでもあるフィルディアの元で訓練とパトロールと多忙な毎日を過ごしていた。

 そんな彼女はある日運命的な出会いを果たす、その日彼女は国から呼ばれ巨大な城の中に入ることとなった、そこで今の夫であるイーサンと出会う。

 彼は城の中にある警備員御用達の小さなカフェのマスターをしていた。

 道を訪ねる予定だった彼女は彼の優しげな雰囲気に惹かれて、用がなければそのカフェに通うようになった。

 実はイーサン自身もアルマが気になっていたらしく、二人は意気投合、今では二人は結婚している。

 が、この話はまた別の機会に


 この話は彼女を始めとする様々なヒーローが、世界を股にかける戦いに身を投じる話だから。



 太陽が高く登り昼と呼ばれる時間にそろそろ入ろうとしていた頃、自身の家の庭に出たアルマは大きく伸びをした。

「いやぁ…休日って素晴らしい…」

 社畜めいた台詞を吐きながら彼女は自身の長い銀の髪を纏め、持ってきたゴムで縛り始める。

「おや、アルマさん。今起床ですか?」

 アルマが声をした方を向くとそこには、茶髪の青年が椅子に座りアルマを見ていた。

「んあれ、イーサンって今日は休みだったっけ?」

イーサンと呼ばれた青年は手帳を広げながらこう答えた。

「今日は休みですね、しばらくは休みが続きそうです。

珍しいですね、休みが重なるなんて。」

イーサンがニコッと笑う、つられてアルマも笑顔になる。

「今日は一日何しよっかなぁ!」

アルマは自宅の周囲を見渡す。

見渡す限りの木々だ、アルマ達の自宅は森の中の開けた小さな原っぱの中にある。

エルステンドの町から少し離れたところにあるこの森は元々貴族の領地だった、その貴族がかなり昔に建てた複数の小屋を安値で売却したらしい。

あまり利便性が良くなかったからか今まで売れなかったのだが、アルマ達は自分たちの結婚祝いにその小屋の一つを購入、それを改修し自宅にしているのだ。

「私は今日は久々に読書をしようかなと思っています。アルマさんはどうしますか?」

そう言いながらイーサンは、目の前の机の上にある、本の山を指差した。

「私は…じゃあ私も久々に本読もうかな、なんかおすすめある?」

そう言いながらアルマはイーサンの向かい側の椅子に座る。

「そうですねぇ、これなんかどうでしょう。」

 イーサンは[最後の騎士]と書かれた本をアルマに手渡した。

 アルマもこの本の内容は知っている、かなり昔の戦争で当時最強と呼ばれていた量産型ギアード「Knight-mk13」に乗っていた兵士の悲劇を描いた作品だ。

 アルマ自身、戦争を経験した身として気になるところがあり、以前から読みたかった有名な小説だった。

「戦争物かぁ、まあいいや」

 ゆっくりとページをめくり読み始める。

 ふと気がつけば今の平和な環境に慣れていた自分が、周りと比べかなり特殊な環境で育ってきたのだと実感する。

 やはり平和が良い物だと噛みしめながら再び小説に目を落とした。

 その時、突如として携帯が鳴りはじめた。

アルマが慌てて取り出して見ると、発信主は父親であるカルロスだった。

 普段あまりカルロスから電話が来ることがなかったため、慌てて通話を繋げる。

「父さんどうしたの、珍しいね」

「いや…そのだな…」

カルロスは申し訳なさそうにいった。

「すまんアルマ、しばらく会えそうにない…」

「え?」

近いうちにイーサンと共に会いに行こうと話していたのだが。

「急に外せない用事が入ったんだ、一週間ぐらい家には帰らない。」

 カルロスが用事があって家を開けるとはなかなかに珍しいことだったため、アルマは思わず理由を尋ねた。

「なんでさ?」

「理由は詳しくは言えない、簡単に言えば国絡みの依頼が来たんだ、国王から直接」

「えぇ?!」

「そういうことだ、危険な任務じゃない、まあ無事に帰ってくるさ。」

「そう言って父さん、平和的に解決する依頼今まであった?」

「…まぁ…大丈夫だろ、じゃあな。」

「ちょっと?!」

 通話が切れてしまった、一時期カルロスは傭兵として活動していた。その時の経験を生かし、現在は名目上、国に雇われた形で学校の教師をしている。

 国が名目上ではなく、その形を利用して依頼を出してきたのだ、間違いなくただ事では無い。

「もぅ父さんったら…人を不安にさせるのは相変わらずだなぁ…」

 イーサンが訪ねてきた

「カルロスさんからですか?」

「え?あぁ、うん。」

 カルロスなら大丈夫だろと心の中で思っている自分がいた。どんな依頼かはわからない、カルロスが言う通り平和的に解決する依頼かもしれない。

 ただこの不安な気持ちはどうも治らなかった。


 次の日アルマは上司であるフィルディアに呼ばれ自警団本部に顔を出していた。

 ドアをノックすると中から「どうぞ」と声が聞こえる。

「おかあs…フィルディアさん、伝えておきたいことがあるとのことですが…」

 普段の癖が出かけたが、慌てて直しながら中に入ると、長い金の髪を後ろにまとめた一人の女性、フィルディアが大袈裟なため息を吐きながら書類を整理していた。

「お前、自警団に入って何年目だ?」

 急に訪ねられアルマは慌てて答える。

「5、6年です」

「5、6年も所属しててその癖はまだ治らないのか、仕事中はお母さん呼びはやめろと毎日言っている気がするが…

まあ良い、今はその話はどうでも良いんだ」

「はぁ…」

 アルマがよくわからず適当に謝るとフィルディアは先程より大きくため息をついた。

「最近は世の中が物騒でな、世界各地で悲惨なテロ事件が後を経たない。

エルステンドは相変わらず平和だが、国王が一応パトロールを強化しとくようにとの事だ。

アルマは昨日休みだったから個人的にな。」

 それを聞いたアルマはふと疑問に思ったことを口にした。

「それだけだったら電話で済ませられたんじゃないですか?」

 フィルディアは頷いて話を続けた。

「ああ、本題は別にある。

今のは一応伝えておこうと思ってな。

で、本題だが。」

フィルディアは一旦話を区切り息を吸った。

「君をファイアーエッジの一員に加えようと考えている。」

「え?!」

 ファイアーエッジとはエルステンド自警騎士団の中で優秀だと認められた人のみが所属できる。いわばエリート部隊だ。

 ファイアーエッジが活動を始める時は、国の非常事態時のみであるとされているため。あまり表立った活動は知られていないが。

 自警団に所属している人からすればそこに所属しているというのは大きなステータスであり、憧れだった。

 そして目の前にいるフィルディアも、そのファイアーエッジに所属している1人である。

 アルマ自身もファイアーエッジには憧れを抱いていたが、唐突にその一員になれると言われても驚くことしかできなかった。

「良いんですか?そんな唐突に…」

 アルマは突然のことに驚き、思わず訪ねた。

「いや、君の力は充分に見させてもらったよ。

以前アルマにやらせた特別訓練あったろ?あのきついやつ。」

 おそらくフィルディアが言っているのは、アルマが半年ほど前に受けた一週間に及ぶ耐久訓練の事だろう。

「あぁ、あの地獄みたいな…」

 その一週間の訓練でアルマは7カ所を骨折し、本気で死ぬんじゃないかと思っていた。

アルマは思い出すだけでも嫌だと思わず身震いする。

 実際その訓練は申告制だったが、アルマ以外に申告したものは途中で離脱したか、酷い人は自警団を抜けた。

「あの訓練はファイアーエッジに所属するための通過儀礼だよ、私もかなり辛かった。

 で、君はあの訓練を無事…とは言えないが突破して、見事力を示した。

 そして訓練を突破したと共に後もう一つ理由がある。

 アルマ、君の黒粒子の力だ、自警団には君と合わせて二人しか黒粒子の力を扱えるのはいない。

 その力は扱い方を間違えれば危険だが、君はその力を人のために使うと自警団に入った時に誓ってくれた。」

 フィルディアは真っ直ぐな目でアルマを見つめる。

 アルマは思わず唾をのんだ。

「ファイアーエッジに所属する気はないか?」

「はい!」

 ほとんど即答だった。

 良い返事だとフィルディアは笑い、机からあるものを出した。それは燃え上がる赤い刃を描いたバッチだった。

「とは言いつつもファイアーエッジが活動するのは非常事態の時のみだ

これは胸ポケットの中に入れておくと良い」

 フィルディアはアルマの胸ポケットの中にバッチを入れた。

「話は以上だ、これからも頑張ってくれ」

 アルマがありがとうございましたと深々と頭を下げて部屋から出ようとすると。フィルディアが慌てて声をかけた。

「あぁアルマ!

すまない、一つ聞き忘れていた事が」

 アルマは振り返り訪ねた。

「はい?なんでしょう」

「いや、カルロスから連絡は受けたか?仕事でしばらく家にはいないらしい」

「ああ、はいその事なら」

 アルマは頷いた。

「ならよかった、今度こそ話は以上だ

すまないな呼び止めて。」

 フィルディアは謝りつつ書類仕事に戻った。アルマ自身も失礼しましたと挨拶しながら部屋を後にする。

 特に仕事は無かったためそのまま買い物しながら帰ったのだが、その足取りは心なしか軽かった。

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