進化の海嘯

@oroti0

第1話 竜苑

スマホに目を移す。佐藤リントは、ゆっくりと指を動かして画面を変える。

彼の見た目を言い表すなら、黒い髪の比較的小柄な少年というのが一番合っている。

快晴。

都会のビル群の中にあるやや大きな広場。竜苑前公園と言われる場所だ。

木陰のベンチに腰掛ける。

ここに来た理由は特にない。ただ散歩程度で外に出てきたのだ。木漏れ日が肌に降りそそぐ。あまり日が強いと不快だが、今日は程よい日光が差し込んでいる。


はらり、と葉が落ちてくる。葉は目の前を回るように落下し、足もとに着地した。

続いて背後の樹の上から羽ばたきが響く。

「ん?」

リントは振り返る。木の下から上に目線を移していく。木の上の方は葉が茂っていて、何かが居るのか確認しようにもよく見えない。


突然風が吹く。そう強くはないが、葉がまた数枚舞い散る。

-何かが飛んだ。木の葉の隙間から、鳩ほどの大きさの動物が飛び出した。

それは、振り返ったリントの背後-つまり正面-に降りてきた。


再び振り返る。

そこには、小さな恐竜が立っていた。

ホソコウモリリュウ。えーと…確か、学名は…Yi qi …だったっけ?

記憶を巡らせる。

もふもふとした灰色の羽毛に包まれた体は、鳩と大差がないように見える。

ホソコウモリリュウと目が合う。

スマホを翳す。カメラアプリを起動させ、しっかりピントを合わせる。

乾いたシャッター音。

驚いたのか、恐竜はぴくりと動いてそのまま停止する。リントの背後を注視し、緊張しているようだ。

カメラに反応したわけではないのだろうか。

騒音が後ろから聞こえてくる。


時折ぶつかって並木の葉を大きく散らしながら、緑と白の体を持つ巨大な生物が突進してくる。人を襲っている様子はないが、その迫力からか何回か悲鳴が聞こえてくる。


ベンチの脇を巨大生物が駆け抜ける。猛烈な風が起こり、葉が一斉に散る。

それはそのまま直進して竜苑前公園の外へ消えていった。


確かに見た。

あれは。

ハナトゲトノサマリュウ-“Alioramus”。


リントは、あれが自由に徘徊しているという恐怖と、身近に大型恐竜が生活しているという感動に溜息をついた。

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