綿密な設定と精巧な筆致に裏打ちされた美しい世界観――

中世ヨーロッパの皇子兼騎士が男性の絶滅した異世界に転移してしまうお話です。

コミカルなタイトルとは裏腹に、内容は細部まで丹念に作り込まれています。

主な舞台となるのは、異世界の王国≪ルナティア≫。物語序盤では、王国の生活様式から神話に至るまで、キャラクターを通じて詳細に描かれており、あたかもそのような王国が実在するかのような錯覚すら覚えます。こうした設定は全てオリジナルのものですが、現実の神話や歴史的事実をベースに作られているので、すんなりと理解が進むでしょう。

各キャラクターの特徴もよく書き分けられています。主人公の騎士としての立ち振る舞い、王女の天真爛漫で好奇心旺盛な性格、侍女の献身的で慈愛溢れる姿、そして、それらの立場を超えた男女の在り様が、文章を通じて鮮明に浮かび上がってきます。物語が進むに連れて変化する〝顔〟を見せるキャラクター達は、どれも魅力的です。

こうした美しい世界観を根元から支えているのは、書籍作品でも類を見ない巧みな筆遣いです。正確かつ堅実な文体で、特に場景描写に磨きがかかっており、臨場感溢れる作風に仕上がっています。また、比喩や第三者視点を取り入れた印象的な一文が所々に差し込まれているのも、作品のレベルを高めている特徴です。

総評すると、高い文章力と確かな設定に支えられた異世界転移物と言えるでしょう。特に、文章をじっくりと読み込むことがお好きな方にオススメの一作です。時間の空いた休日のお昼、リンゴ酒片手に読んでみてはいかがでしょう?