下
8
皇帝「そ、その声は」
声 「久しいな。青年よ」
皇帝「おお、神様、お久しゅうございます。
あなた様のお力添えで、私はすべてを手に入れることができました」
声 「よいよい。それでは契約履行と行きたいのだが、
よろしいか?」
皇帝「け、けいやくりこう? どういうことでございますか?」
声 「契約したであろう? 授けた力の代価を払うと」
皇帝「そ、それは聞いておりませぬ!」
声 「あれ? 言い忘れていたか? すまぬ、すまぬ」
皇帝「い、言い忘れ? それは困りまする」
声 「いやぁ、悪い。わし意外とぬけてるからなぁ。
でもここまでの力を授けたんだ。
代価をわしがもらってもいいだろう?」
皇帝「……確かに、返し切れないほどの御恩でありまので。
わかりました。代価をお支払いいたしましょう!
余は今、余りあるほどの富と権力を持っております!
いかような代価もお支払い…」
声 「魂だ」
皇帝「…は?」
声 「おまえの魂をよこせと言ったんだよ」
皇帝「な、なにをおっしゃる」
声 「わしにとっちゃ、富と権力なんかもらっても、
無意味なんだよ。
欲しいのはお前の魂なんだよ!
散々、わしが授けた力で美味しい思いしただろ!
いいからお前の魂をよこせ!」
語り「皇帝は困惑しました。
この声は、確かに以前聞いた神の声でしたが、
口調が全然違うのです。
彼はすぐに気づきました」
皇帝「……貴様、何者だ」
声 「は?」
皇帝「貴様、神ではないな!」
声 「いや、そうだけど」
皇帝「やはり! 余は騙されんぞ!
神を語る不届きものめ!
成敗する!」
語り「皇帝は鞘から剣を引き抜きました。
彼は未だに世界最強の力を持っていたのです」
皇帝「さぁ、正体を現せ!」
声 「……お前、ホント浅はかだな」
暗転。
ゆっくりと明転。
語り「皇帝は、かつての青年になっていました。
そして立っていたのは、
とある日の深夜。
とある都会の、とある大きな交差点でした」
青年「…こ、ここは」
語り「青年の記憶にある場所。ここは彼の家路でした。
ただいつもと違う風景が広がっていました。
パトカーによって道路は封鎖され、
救急車が止まっています。
そして血だらけで倒れた男性に、
救急隊員が処置を行っていました。
その男性は、青年でした」
青年「な、なんで。なにが」
声 「時間は全く進んでなかったんだよ。さっさと気付け」
語り「青年が声のする方へ振り向くと、
そこには恐ろしい化け物がいました」
青年「お、お前は」
悪魔「お前ら人間の認識で、悪魔って言う存在だよ」
青年「あ、あの声は」
悪魔「わしは一言も、神様って言ってねえぞ。
あくまでお前の勘違いだ」
青年「そ、そんな」
悪魔「ついでに言うとな。今のお前は魂だけの状態だ。
肉体の方はまだ意識があるが、
肋骨が内臓を突き破ってる。
長くはねえよ」
青年「お、俺はお前に殺されたのか?」
悪魔「そいつは違う。あくまで、命運でお前は死んじまう。
あるきスマホなんかしてっからだよ。
青信号でも左右確認って、学校で習わなかったのか?」
青年「そ、そんな、じゃあ異世界での出来事は」
悪魔「あんな、お前に都合のいい世界なんて、
あるワケねえだろ!
全部、わしが魅せたまやかしだ」
青年「な、なんでそんなひどいことを!!」
悪魔「ひどい? 心外だな。
わしほど心優しい悪魔はいねえぞ。
なぜならお前の薄ーーーぺっらい人生の最期に、
最高の
どうせこの先、生きてても、
何も変える勇気もなく、
何も踏み出すこともなく、
只々、流されていくだけの人生。
たまに宝くじでも当たらないかと考えるだけ。
そんな奴の最期に、最高の人生を与えてやったんだ。
感謝はされど、非難される謂れはないね」
青年「そんな…そんな」
悪魔「さて、種明かしはすんだ。
さっさとお前の魂をわしによこせ。
何の役にも立たなかったお前の人生を、
わしの糧にしてやる」
青年「…いやだ。いやだ。死にたくないぃぃいぃーーーー!」
悪魔「じゃかあしい!」
語り「悪魔は、青年を一飲みしてしまいました」
悪魔「…ゲップ。
まぁまぁの絶望と恐怖の味だな。
だが物足りんな。
ただの薄っぺらい魂のままよりはマシだが。
……次はもうちょっと絶望と恐怖を与えてやるか」
語り「そう言うと、悪魔は姿を消しました。
そして、次の日、とある交番の掲示板。
管轄内の交通死亡者数に、
数字が一つ加えられましたとさ。
どこにでもいて、どこいでもいる悪魔は、
さまよえる魂を探し回っています。
もし次に、あなたの前に現れたなら、
その甘言に騙されぬようご注意を」
異世界戯曲 Snowsknows @snowsknows
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