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皇帝「そ、その声は」


声 「久しいな。青年よ」


皇帝「おお、神様、お久しゅうございます。

   あなた様のお力添えで、私はすべてを手に入れることができました」


声 「よいよい。それでは契約履行と行きたいのだが、

   よろしいか?」


皇帝「け、けいやくりこう? どういうことでございますか?」


声 「契約したであろう? 授けた力の代価を払うと」


皇帝「そ、それは聞いておりませぬ!」


声 「あれ? 言い忘れていたか? すまぬ、すまぬ」


皇帝「い、言い忘れ? それは困りまする」


声 「いやぁ、悪い。わし意外とぬけてるからなぁ。

   でもここまでの力を授けたんだ。

   代価をわしがもらってもいいだろう?」


皇帝「……確かに、返し切れないほどの御恩でありまので。

   わかりました。代価をお支払いいたしましょう!

   余は今、余りあるほどの富と権力を持っております!

   いかような代価もお支払い…」


声 「魂だ」


皇帝「…は?」


声 「おまえの魂をよこせと言ったんだよ」


皇帝「な、なにをおっしゃる」


声 「わしにとっちゃ、富と権力なんかもらっても、

   無意味なんだよ。

   欲しいのはお前の魂なんだよ!

   散々、わしが授けた力で美味しい思いしただろ!

   いいからお前の魂をよこせ!」


語り「皇帝は困惑しました。

   この声は、確かに以前聞いた神の声でしたが、

   口調が全然違うのです。

   彼はすぐに気づきました」


皇帝「……貴様、何者だ」


声 「は?」


皇帝「貴様、神ではないな!」


声 「いや、そうだけど」


皇帝「やはり! 余は騙されんぞ!

   神を語る不届きものめ!

   成敗する!」


語り「皇帝は鞘から剣を引き抜きました。

   彼は未だに世界最強の力を持っていたのです」


皇帝「さぁ、正体を現せ!」


声 「……お前、ホント浅はかだな」


    暗転。


    ゆっくりと明転。


語り「皇帝は、かつての青年になっていました。

   そして立っていたのは、

   とある日の深夜。

   とある都会の、とある大きな交差点でした」


青年「…こ、ここは」


語り「青年の記憶にある場所。ここは彼の家路でした。

   ただいつもと違う風景が広がっていました。

   パトカーによって道路は封鎖され、

   救急車が止まっています。

   そして血だらけで倒れた男性に、

   救急隊員が処置を行っていました。

   その男性は、青年でした」


青年「な、なんで。なにが」


声 「時間は全く進んでなかったんだよ。さっさと気付け」


語り「青年が声のする方へ振り向くと、

   そこには恐ろしい化け物がいました」


青年「お、お前は」


悪魔「お前ら人間の認識で、悪魔って言う存在だよ」


青年「あ、あの声は」


悪魔「わしは一言も、神様って言ってねえぞ。

   あくまでお前の勘違いだ」


青年「そ、そんな」


悪魔「ついでに言うとな。今のお前は魂だけの状態だ。

   肉体の方はまだ意識があるが、

   肋骨が内臓を突き破ってる。

   長くはねえよ」


青年「お、俺はお前に殺されたのか?」


悪魔「そいつは違う。あくまで、命運でお前は死んじまう。

   あるきスマホなんかしてっからだよ。

   青信号でも左右確認って、学校で習わなかったのか?」


青年「そ、そんな、じゃあ異世界での出来事は」


悪魔「あんな、お前に都合のいい世界なんて、

   あるワケねえだろ!

   全部、わしが魅せたまやかしだ」


青年「な、なんでそんなひどいことを!!」


悪魔「ひどい? 心外だな。

   わしほど心優しい悪魔はいねえぞ。

   なぜならお前の薄ーーーぺっらい人生の最期に、

   最高の悪夢ゆめを魅せてやったんだぞ?

   どうせこの先、生きてても、

   何も変える勇気もなく、

   何も踏み出すこともなく、

   只々、流されていくだけの人生。

   たまに宝くじでも当たらないかと考えるだけ。

   そんな奴の最期に、最高の人生を与えてやったんだ。

   感謝はされど、非難される謂れはないね」


青年「そんな…そんな」


悪魔「さて、種明かしはすんだ。

   さっさとお前の魂をわしによこせ。

   何の役にも立たなかったお前の人生を、

   わしの糧にしてやる」


青年「…いやだ。いやだ。死にたくないぃぃいぃーーーー!」


悪魔「じゃかあしい!」


語り「悪魔は、青年を一飲みしてしまいました」


悪魔「…ゲップ。

   まぁまぁの絶望と恐怖の味だな。

   だが物足りんな。

   ただの薄っぺらい魂のままよりはマシだが。

   ……次はもうちょっと絶望と恐怖を与えてやるか」


語り「そう言うと、悪魔は姿を消しました。


   そして、次の日、とある交番の掲示板。

   管轄内の交通死亡者数に、

   数字が一つ加えられましたとさ。


   どこにでもいて、どこいでもいる悪魔は、

   さまよえる魂を探し回っています。


   もし次に、あなたの前に現れたなら、


   その甘言に騙されぬようご注意を」

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異世界戯曲 Snowsknows @snowsknows

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