ガム噛む?
リョウ
ガム噛む?
広いレストランだが混んでいた。僕の座るボックス席の向かいには相席の客がいた。僕は食事していたけれど、彼は何を頼むでもなくガムを噛んでいた。
「あの、何か頼まないんですか?」僕は尋ねた。
人の生活や嗜好に首を突っ込むのは気が引けたが、しかしガムばかり噛んで時間を潰すばかりではつかえてる客にも迷惑だ。僕だって急用があるから、パソコンで仕事しつつ急いで食べてる。
「いいんだよ」男は自分の態度が至極当然であるかのように振る舞った。
「でもガムばかりって」
「ガムじゃ駄目かい?」
「いや、駄目じゃないですけど」僕が何を言おうと、彼は聞く耳を持ってくれそうにないから、尋ねるのは諦めた。
「あんたもガム噛むかい?」
「結構」僕は断固拒否した。
「もったいないねえ」
「どうしてです?」僕は少々苛立ってきた。パソコンの作業に集中したかった。
「あんた、この店初めてだろ? あんただけだぜそうやって普通に食ってるの。周り見てみろよ。全員ガム噛んでるよ。ここはな、まずガムを噛むところから始めるのがマナー――いや儀式なんだ。それから食事をするんだ。どうしてかって? そりゃあんた、このガムは料理が格段に美味くなる調味料だからさ。だからあんたみたいなのは珍しいよ」
「でも僕はガムなんて、初めに貰わなかったですよ」
「初めにガム配る店なんてないだろう。ネットで調べんだよ、みんな」男は僕のパソコンを指した。
僕はパソコンを閉じた。
「ガム、貰えます?」
ガム噛む? リョウ @koyo-te
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