第12話 空走る他推行きます!
それでは空走るの他推行ってみましょう。
今回、当初締め切りまで1週間を切ってからの新作追加が多くて、しかも終盤は傑作連発でした。そのことから考えると、筆致企画開催期間は3週間では少し短くて、もう少し執筆期間があった方がいいかも、という感じみたいですね。
幸い締切も一週間伸びましたからまだ書かれていない特に常連のみなさま方は是非ご参加を。
カッコ内は前がアオイ、後ろがツカサで、その二人の関係です。ネタバレになりそうな部分ありますがご容赦ください。
まずはお題をストレートに消化したお話から。
〇 野々ちえさん(表現者女と劇作家男)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918576347
第三者ツムグの視点から描く天才女優アオイと天才劇作家ツカサが邂逅したお話。野々さんにしては少々珍しい熱血ストレート系のお話になっています。最後の天気雨をバックにしたアオイの行動とその描写が秀逸。語り手を第三者にしたのが効いています。このラストシーンは歴代筆致企画屈指の名シーンですね。ちなみにわたしはBGMに「雨に唄えば」がリフレインしました。
〇 新巻へもんさん(ランニング愛好家妻とその夫)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918853270
ご自身が走るの苦手、という新巻へもんさんが放つ渾身のストレート爽やか切ない系。これは素晴らしい。さらりと書いてありますが、いろいろ設定を吟味されたことが行間から読み取れます。アオイとツカサが夫婦という設定も珍しいですが、他にも読んでいると「ああなるほど、だから〇〇なのか」というポイントがたくさん見つかります。設定の細部でリアリティを出すところ、とても勉強になります。おススメです。
〇 kinomiさん(女性型アンドロイドとその雇い主の男)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918806640
SFで爽やか切ない系の話に持って行ったkinomiさん。「機械が心情を持てるのか。人間の心情、感情とは何か」というSFでは普遍の大テーマがベースになっています。よく読むと実は葵の成長ストーリーになっているところがポイント。このアンドロイド葵は純粋に応援したくなりました。
〇 西木草成さん(運動苦手な妻とマラソン愛好家夫)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918504215
今回の指定プロット、「パートナーを失った悲しみ」を正面から書いた作品が意外と少なかったのですが、西木さんのお話は冒頭が詞のお葬式のシーン。ここまで真正面から悲しみに向き合った作品は見当たりません。ともすれば避けてしまうところですが、逃げずにきっちり書ききった点、見習わないといけませんよね。でもそこを書いたからこそ後半の葵が前向きになれたところで読者としてとても嬉しくなれるものです。おススメの一作です。
〇 東海林春山さん(陸上の高校生女子と同級生ロードレーサー女子)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918597953
こちらは爽やかな青春ものの東海林春山さん。「走る」を共通点にした女の子同士の親友という設定です。葵の一人称語りで話を進めるとどうしても「走れなくなった」苦悩を書かなくてはいけなくて湿りがちになるのですが、苦悩の部分を最低限に抑えることに成功しています。ポイントは脇役で出てくるロードレーサー仲間の佑くんと、詞からのメッセージ。力強く前を向いたシーンで終わるの、いいですよね。描写がとても丁寧ですがくどさは感じません。お上手です。
〇 涼月さん(娘とその父親)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054920976874
これはコロンブスの卵。ありそうでなかった親子の設定が出色です。この設定一発で指定プロットのすべての要素が無理なく無駄なく展開できていますよね。いやお見事でした。細かい表現や描写にはまだ洗練の余地がありそうですが、この設定を思いついたところが非凡な才能です。個人的に表現や描写は練習で向上できるものと思っています。
続いて明るいお話。このプロットはあえて狙わないと明るいお話にはならないのですが、工夫を凝らして明るい話に持って行った猛者たち。傑作ぞろいです。
〇 和希さん(高校生バンド女子と同級生バンド女子)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918662806
ガールズバンドを舞台にちょい百合の和希さんのお話。序盤から詞の手紙の内容と回想シーンが平行して進むという構成が斬新です。百合系にふってありますが、それはどちらかというと味付け程度で、ほとんどの場面が明るい雰囲気の普通の高校生の学園ものになっています。全体的に軽くて湿り気の少ない和希さんの筆致の特徴で、2万字の長さを感じさせません。
〇 夏頼さん(自動車部大学生女子と同じ部の女子)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918616767
こちらは大学の自動車部を舞台にした夏頼さんのお話。テンポよく進む構成で、前半の弱小自動車部のどこかけだるい雰囲気と、後半のアツいレースシーンの対比がいいですよね。このレース大会は詞が亡くなった後に開催されているのですが、詞の没後のシーンをきっちり書いているところが素晴らしいです。今回の参加作、詞の没後、手紙を読んで決意を新たにするところで終わる小説が多いのですが、夏頼さんはあえて決意を新たに臨んだレースシーンとその結末までをしっかり書いています。これは素晴らしいですね。読後にスカッと達成感が残ります。おススメの一作です。
〇 岡本紗矢子さん(中学生女子と同級生)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919111418
いやあ、これも素晴らしい。ちゃんと指定プロットを丁寧になぞっているのですが、JCが一生懸命走り回る姿がお話のメインです。あーちゃんこと葵を応援したくなる話になっています。葵にそうまでさせるのは、つーちゃんこと詞の死後のメッセージによる指示が的確だからなんですよね。メッセージの方法もその内容も絶妙です。またあーちゃんつーちゃんと呼び合うところもなかなかのツボでした。岡本さんの着想には脱帽します。構想の勝利ですね。イチオシの一作です。
そして笑えるお話。ある意味、変態でないと書けない笑える怪作の数々です。
〇 シロクマKunさん(大人の女性と幼馴染男)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919031441
これは傑作。真の意味で明るくて楽しいラブコメです。絶賛です。とにかくあのプロットからひたすら楽しいラブコメに持って行ったセンス、タダモノではないです。最後すこしほろりとするところも素晴らしい。いやあ、これはお見事でした。そして確かに喪服のエロさは異常ですよね。絶賛の一作、楽しいお話を読みたい人、必読です。
〇 アメリッシュさん(婚活中の男とそのアオイにできた始めての彼女)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222162
笑笑笑笑。いや、なんていうか、純粋に抱腹絶倒できる作品が読めるとは思いませんでした。面白すぎます。というか笑っている場合じゃないですよ。アオイ、もっとしっかりしろよ、常識で考えれば分かるだろ、と突っ込みたくなりますが、恋は盲目とはよく言ったもんです。この指定プロットで人が死なない構成に持って行ったのは賞賛しかないですよね。まじ、降参しました。おススメしづらい面もなくはないんですが、とにかく面白いです。
〇 ふづき詩織さん(ペンギンメスとペンギンメス)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918484895
笑笑笑笑。いや、抱腹絶倒度ならこちらのふづきさんの作品の方が上ですか。ppシリーズも四作目になるとだんだんペンギン語のルビが饒舌になってきていて、ひそかにふづきさん、ペンギン語上達してるんじゃないかと思ってしまいます。もしかしたら日夜、鏡の前でペンギン語練習してるのかと。そこまでやってこそ真の作家ですよね。実情を想像すると泣けてくるふづきさんのppシリーズですが、よく読むときらりと光る鋭い描写が随所にちらばっています。そういう上手い描写や表現を参考にしていくべきですね。でも、それよりも前に笑える……。
〇 竹神チエさん(セミのオスとセミのオス)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918508285
笑笑笑笑。竹神さん、どうしちゃったんですか、と思わず口にしてしまいました。ちゃんとタグに正気です、と断り書きがありましたけどね。毎回ほんわかした雰囲気の少しあやかし系のお話でご参加される竹神さんですが、今回はド迫力な勢いでセミ!もうプロットとか筆致とかすべてをなぎ倒す勢いでセミですよ、セミ。これを企画が始まってから24時間たたずにぶん投げてくるところがなんとも言えないです。勢いで圧倒するのもたまにはありですよね。でも次は同じ手には乗りませんよ?とはいえ今回は完全にやられてしまいました。わたしの負けです。笑
この他にも、伏線の張り方が最高に素晴らしい杉浦ひなたさんのストレート系とか、おすすめしづらいけどとにかくガマンして最後まで読んでほしい山帰来ヲネさんとか、みずみずしい描写でするっと読ませるもここさんとか、もはや脱線するのが当たり前の暗黒星雲さんとか。
今回の紹介は参加の少ない方を優先したのですが、常連さんの作品も読むだけで世界旅行に行った気分になれる蜜柑桜さんとか、アツいバトルもの薮坂さんとか、熱血青春系演劇ものいいのすけこさんとか、もちろん企画主ゆあんさんとか安定して面白かったです。
ああ、やっぱり今回も全数紹介すればよかったですね。
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