サイレンはもう鳴らない

七夕ねむり

第1話

 何を見てるのと真知子はいつも言う。

真知子を見てる。私がそう言うと、彼女は困ったみたいに笑ってそれからとびきり長いキスをする。私は毎度こうしていると、私が誤魔化しているのかそれとも誤魔化されているのかわからなくなってしまう。


私たちは鼻先までそれに浸りきっているのに、まだ気づいていない振りをする。もうすぐ沈んでしまうのに、まだ泳ぐ準備をしていない。それどころかするつもりすらなくて、ただ爪先から頭の天辺までひたひたに浸かりきるのを諦めている。


「あきちゃんのその目が好きよ」


ぶくぶくと瞼の上までそれは侵食してきた。


「 」


彼女がひっそりと呟いた。それは静かに私の頭上まで上昇し、忽ち辺りはそれしか見えなくなった。

溺れてからのことは、溺れてから考えればいいとどこかで私の声がした。この上なく安心して目を閉じる。遠くで真知子の声が聞こえる。

澄んだ麻薬みたいな声だと思った。

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サイレンはもう鳴らない 七夕ねむり @yuki_kotatu1

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