最錠銀子は人間のクズである

 最錠銀子は人間のガワを被った何かだ、とよく言われる。女性に対する褒め言葉としては最低ランクだと思うが、全て彼女の言動に原因があるので同情の余地は一切ない。


「有り金全部置いて、私の視界から消えなさい」


 初対面の村人に投げかける彼女のお決まりの台詞。この程度は序の口。


「コイツ殺しても何も落とさないのか。湿気た奴。ペッ!」


 深い森の中で道に迷い、助けを求めてきた旅人を棍棒で殴り倒した時に放った言葉だと思う。


「ガキが……ぶち殺すわよ?」


 進路をブロックする子供をドスの利いた声で脅すのは日常茶飯事。


「あなた誰だっけ……?まあいいか、高く売れそうね」


 背中預けて戦った仲間と1週間ぶりに再会した時には、奴隷として売却する方法を真剣に模索していた。この時ばかりは、さすがの俺でもドン引きしたものだ。


 以上、エピソードを少し並べただけで、彼女の人となりが理解できると思う。


 最錠銀子は人間のクズだ。筋金入りの守銭奴で、他人に対する思いやりはなく、命を奪うことに何のためらいもない。


 捕まって裁判になれば死刑確定だが、残念なことに反省の機会に恵まれることなく、今でものうのうと暮らしている。もちろん核戦争によって治安が崩壊したわけではなく、彼女のようなクズが大手を振って歩くことができる世界が存在するのだ。


 それがゲーム実況。


 実況の世界ではクズであることに問題はない。むしろ多少クズである方が面白い。最錠銀子のリスナー、通称『銀子番』も辛辣な暴言を楽しみにしている部分は確かにある。


 だが……俺は古参のリスナーだから知っている。彼女は最初からそうではなかったのだ。

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バーチャルライバー最錠銀子のロールプレイ 羽ノ浦鴨 @paperplan

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