バーチャルライバー最錠銀子のロールプレイ
羽ノ浦鴨
バーチャルライバーの秘密
変な悲鳴を上げる女性って、たまにいるよね?
「ぎょえええええええ~」
女性の甲高く、しかしどこか気の抜けた悲鳴を聞いた時、俺は雷に打たれたように体を硬直させた。
教室の後方の席で何かが起こった。
生徒達が思わず振り向いて、悲鳴の主と原因を知ろうとする中、俺一人だけが痺れたまま動けない。じっと黒板の先の亜空間を見つめていた。
指からシャープペンシルがずり落ちる。握力がなくなったわけではなく、ペンを持ちながら振り返るというタスクを実行できるほどのメモリが、脳みそに残っていなかった。それほど悲鳴が俺に与えた影響は大きかった。
何が起こったのかは分からない。ただ、誰の悲鳴なのかは分かる。
いや、分かってしまった。不可抗力にもだ。決して悪気なんてないし、もちろんストーキングなんて考えたこともなかった。胸を張って善良な人間だと主張するつもりはないが、それでも最低限の常識は持ち合わしていると自己評価していた。
だけど……悪魔の突然の誘惑には勝てなかったんだ。迷いとか、そういうの以前に瞬時に理解してしまったからだ。
なんの取り柄もない俺、高校一年生の
俺はぎこちない動きで振り返り、悲鳴の主を探る。幸いにも授業中にあるまじき態度を晒していてくれていたので、すぐに判別することができた。一番後ろの席の女生徒が、ノートを丸めて頭上でブンブン振っている。窓から侵入したスズメバチを追い払おうとしているんだろう。
高橋……なんだっけ?
高校に入学して3週間しか経っていないから、まだクラスメイトの名前は覚えきれていない。高橋さんとも話した記憶はない。友達って、まずは同性の男から増えていくもんだしな。別に普通のことだ。
普通ではなく、尋常でない焦りを見せながらスズメバチとチャンバラを繰り広げる高橋さんの額から汗がこぼれ落ちて、ビーズのように輝いた。長く垂らした前髪が揺れ、クルクルと回るパッチリとした瞳が覗く。自己紹介の時は『並』という評価を下した覚えがあるのだが、驚いたことに前髪の内側には整った顔のパーツが隠されていたようだ。詐欺もいいとこだろう。
俺は無性に嬉しくなり、固まっていた表情筋が緩んでニヤけ面を晒した。
正直期待はしていなかった。ぶっちゃけブスだと思っていた。でもそれでも良かった。実際会ったら、たとえ世界一のブスでも俺の気持ちは変わらない自信があった。
だって俺は彼女のガワのウチが好きなのだから。
レアドロップに喜んで、アイテムを全ロストして泣き叫ぶ。そして町の住人には手当たり次第八つ当たり。しまいにはブチギレてリスナーに暴言を吐く。
そんな人間くさい面を魅せてくれる彼女に俺は惹かれている。彼女の声がすでに生活の一部だ。俺は彼女のゲーム実況に完全に心を奪われたんだ。
だからこの2年間、何千回と聞いた独特の悲鳴を聞き間違えるわけがない。イントネーションが完璧に同じだ。絶対に自信がある。間違っていたら、教室の窓から飛び降りてもいい。
クラスメイトの高橋さんはバーチャルライバーの
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