第8話 全ての真実 episode.F
砂利を踏み締めた音が鳴る。
ザリ、ザリ、と一定の間隔で近づいてくる音は、しかしその音を鳴らす者の気配を微塵も感じさせない。
場所は旅の一座の裏方、興行で名を知らせるポリナストリスクの芸人たちが、見世物の準備をしている。すぐ向こうから響く熱狂の渦は、それを盛り上げる彼らの熱意に拠るもの。芸のお披露目の直前まで練習を繰り返す人、新人にアレコレと指導する人、道具の整備に余念がない人、三者三様多種多様な者たちの中で、警備を務める者はしきりに目線を泳がせていた。
左前方……誰もいない……
右前方……誰もいない……
目を凝らし、耳を澄まし、誰もいないことを確認する。月明かりは何にも遮られず、松明と街の鉄灯は石煉瓦の壁まで照らしている。見えない訳じゃない、音は聴こえるのだ。確かに誰もいない誰か来る筈もない方向に人の歩く音がしている。
ザリ、ザリ…………フッと、音が止まった。
「すまない。怪しい者ではないんだ、だから通らせてくれ」
すぐ隣を横切った声に、身構えながら振り向く。緊張に走った鼓動が更にもう一段跳ね上がるような音を鳴らし、全身から冷や汗が噴き出す。慌てる様に突き出した拳は、一瞬き前に話しかけてきた男の声を目掛け、勢いよく空を切った。
警備を務めていたマークス・フォブランは、旧・人類連合軍所属の退役軍人である。対魔王軍を目的とした超国家的な軍事組織である連合軍は、当然“魔王討伐のための切り札”である勇者の補助をその任に含めていた。かつてそこに所属していたマークスであれば……否、所属していなかったとしても、誰しも彼の声を聞き間違える事は無いだろう。だからこそ、一連の驚きと緊張の中に、安心のような納得があり、だからこそ、マークスには彼の行動に晴れない不可思議を抱いた。
今更なにを忍んでこんなところに来たのか
その理由は暫くして衆愚に明かされる事となる。
平和な世界の後始末 春豆風 @HALtouhu
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