第7話結果
美咲と合流した俺は一緒に廊下を歩いていく。
隣で歩いている美咲の表情はどこか不安を隠しているように思えた。
それが気になるが俺はそれを切り出せる事ができない。
こんなところで臆病を発揮しても意味はないと思う
が。
「悟君。さっきのあれはなんだったの?」
不意につかれた俺は声が出ず、体が驚きで少し浮いた。
その場に止まり、前後左右を確認して話す。
「あぁ、あれは木嶋にとどめを刺してきたんだ」
美咲の顔はどんどんと悪くなって行く。
…木嶋の事を思っているのか?
そう思うが俺の予想とは思いもかけない方へ行く。
「あんな事をしてネットに感づかれたらどうするの!」
「え?」
「多分、悟君のことだから小さい声でいかにも励ましているような感じでやったと思うけどそれを見ていた身としてはもうドキドキで」
「あれ?木嶋の事が可哀想とかの感想かなって思ったけど全然違うな」
「なんで、あんな奴に同情しないといけないの。あんなのは全部自分に返ってきた物なんだから」
「ふっはははははは!」
「何笑っているの?こっちは心配してるのに」
「いや、美咲の考えが予想とは全然違くて。でも安心したよ。これで意思は疎通出来てると確信を得られたからな」
「はいはい。で、木嶋君にはバラして良かったの?」
俺の笑いを蹴るような乾いた返答をしてきた。
…美咲が変わっている気がする。
気がするだけだが明らかに美咲は変わっていた。
考え方、行動、言葉遣い、それらが分かりやすいぐらいに。
「大丈夫。もう、明日には学校へ来られないと思うからな。おそらく家族の誰とも話せないと思うし」
「そう。なら安心した」
美咲はそっと胸を撫で下ろすかのように安堵の吐息を吐き出す。
それから俺達はまた歩き出して行く。
…全く心配していなかったなんて。まぁ、それが今の俺達には必要な事か。
そう思っていると再び美咲の話かけてくる。
「で、私のクラスはどう片付けるの?」
「そうだな。同じ感じでいいと思うけど」
「分かった。明日カメラを仕掛ければいいのね」
「あぁ、頼む」
そんな感じの話をしているといつのまにか生徒玄関に到着していた。
美咲は相変わらず靴に細工をされており、酷い状態になっている。
「それ、大丈夫か?」
「もう慣れたからいいよ。あいつらを潰せると思ったら嬉しくなってくる」
「いいねぇ。その気持ちでやり返したらいいんだ」
俺は美咲グータッチを交わしてそれぞれの道へと帰っていった。
「さぁ、木嶋を終わらせてやる」
俺の帰り道ではその気持ちしか感じなかった。
木嶋への復讐。それがどれほど嬉しくそして楽しかったか。
あの地面に落ちて行く姿が今になっても忘れられない。
いつしかあの感覚が俺を支配していた。
………………
「はぁ、はぁ」
夕暮れの時間。
学校の教室で頭を下げて蹲っている木嶋がいた。
鳴上の言葉、それが今どれほど彼を追い詰めたのか。
それは計り知れないものがあった。
既に彼を取り巻く者はおらず、協力してくれる者もいなくなった。
証拠に今日1日1回も言葉を交わさず、これに近寄ってくることすらなかった。
彼は今日の出来事から自分のした事の重大さに気づき鳴上に謝る。
どれだけ殴られてもいい。
どれだけ蹴られてもいい。
その思いで頭を下げた。
……きっと許してもらえる。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
短い時間であったがあの笑いながらの話、そして言葉。
今の彼の精神状態を壊すのに十分あった。
「か、帰らないと…」
彼はふらつく足取りで教室を出て行き、帰宅の帰路に着く。
もう学校にいる生徒は彼だけだったのだろう。
話し声が全く聞こえてこなかった。
生徒玄関で靴を履き替えて門を出る。
「ひっ!」
彼は風でなびく草木に驚いた。
いつもであったらこんなことに驚くはずもないが、
彼の精神状態を考えるとあり得ることだった。
全ての動きが自分への軽蔑した目線。何かしら自分のことについて話している。
そう思えて仕方がなかった。
「や、やめろ。やめろぉぉぉぉ!」
彼はその場から逃げるように走っていった。
目を瞑り情報を遮断し耳を掌で隠して音を遮断しながら。
今は彼の吐く息のことしか分からない。
足がパンパンになるほど、心臓が痛くなるほどに走る。
そうしていないと彼は彼でいられなくなってしまうと思ったからだ。
その後電車に駆け込み、椅子に丸くなり、情報と音を遮断しながら座る。
側から見ればおかしい人だと思うがそうしないと何か自分に対しての話をされていると感じてしまう。
額には汗をかき、喉が乾く。
「早く着いてくれ」
その思いしか今の彼の中にはなかった。
改札を抜けて我先にと走る。
もうすぐで自分が待ち望んでいた家に着く事ができる。
そして、この自分に対する目線を逃れる事ができる。
その思いで自分を待っててくれる家に帰っていった。
「た、ただいま」
「お帰り」
その言葉を聞いた途端彼は力が抜けて行き安堵の気持ちでいっぱいになった。
…もう大丈夫。もう助かる。
改めて自分の親は安心でき、いつでも自分の味方だと思えるようになった。
そして、彼は家族団欒の場所である居間に向かっていき、安らぎを得ようとする。
「母さん、今日の夕飯は何?お腹すいたよ………ひっ!」
「あぁ、今日はね生姜焼きよ」
「なんで母さんまで俺の敵に回るんだ」
「どうしたの?」
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ」
「どうしたの庸介、大丈夫?」
「ち、近づくな。俺は何も悪くない。なにもわるくないんだぁぁぁ!」
「ちょっ、庸介?どうしたのかしら、作り方をスマホで見てただけなのに」
彼は再び、あの感覚に襲われた。
自分を軽蔑する目に。
「なんだよ、母さんまで俺の事を」
彼の目には大粒の涙が溢れてきた。
それは止まる事を知らず、さらには嗚咽なども続けてくる。
体は震えておりもう、何もかもが信じれなくなってしまった。
夕飯の呼び出しも聞こえているが足が動かない。
全てをぶちまけて涙が枯れるまで泣いた。
ようやく泣き終わり、疲れ果てた彼はすぐさま眠りにつくのであった。
母親も息子が眠りについている様子を見て、夕飯を残しておき、彼を眠らせた。
「庸介!ご飯よ!」
その声で目を覚ました彼はおもむろにベッドから起き上がりスマホを手に取る。
寝起きだったせいかよく状況を把握できていなかったのが彼の人生を変えてしまうことになる。
「ん?お知らせが届いてる」
そのお知らせ欄を開きウェブサイトに目を通す。
「!?なんだよこれ?」
その瞬間彼の体は震えを取り戻して汗が頬をつたるのが分かる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸が乱れてスマホを投げ出して頭を抱えて丸くなる。
「なんでだ。なんでこんな事を」
スマホのお知らせ、スカイページは彼の2つ目の動画が流れていた。
2つ目の動画にはこれでもかというほどのコメントが流れており、寝起きだった彼はそれをもろに見てしまい、再び精神状態がおかしくなってしまった。
全てが歪んで見えてそこからともなく笑い声が聞こえてくる。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
彼は何もないところに枕を投げて反撃を始める。
しかし、笑い声は止まらない。
母親はいつまで経ってもこない息子を呼びに行こうと部屋に向かいドアを開ける。
「いい加減に下に来なさい」
「だまれぇぇぇ!」
彼は実の母親にも反撃し倒してしまう。
母親は急な出来事に驚き、慌てて扉を閉める。
そして、身の危険を感じたのか下へ避難して机の上でかしこまる。
「一体どうなってるの?」
……………
「天気良好」
そう言って勢いよく家を出て行くのは悟である。
既に爆弾をまいた俺の気持ちは晴れやかで今日1日が楽しみで仕方なかった。
「今日の結果で全てが決まる」
そう思いながら湧き上がる気持ちを表現するように軽い足取りで学校へ向かっていった。
自称Sと自称Mのカップルによる学校壊滅物語 円楓 @10mauma6
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