第6話実行
「やるだけの事はやった。さぁ、結果は?」
俺はそう言い家を出て、学校へ向かっていった。
驚くほどに緊張はしていなかった。
理由としては、気分が晴れたとでも言っておこうか。
おそらく俺の気分がまだ曇っていたのならここで足が震えているだろう。
今日の天気は良好。
これは完全に俺の感覚だが良いと思う人もいるだろう。
雲が7割、青空が3割。
他の人は青空が良いと言うかもしれないが今の俺にはこれが1番良い。
そう思いながら歩みを続ける。
学校に着き、生徒玄関をくぐる。
そして、教室へと向かう。
…他の反応はまだ無い。
これがここに来て俺を慌てさせる要因となった。
しかし、その心配も薄々消されていく。
「いつもとは違う」
そう感じることができたからだ。
俺の教室へと向かうに連れて静かになっていく。
他の教室はうるさいが、次第に俺の足音が鳴り響くようになっている。
そして、意を込めて教室の中へと入っていく。
「これだ。これが俺が見たかった光景なんだ…」
目の前の光景はまさに俺と美咲が見たかったものであった。
その光景とはクラス1人1人がスマホに食いつきそれぞれ頭を下げたり、抱えたりしているものであった。
そして、そのいじめの主犯は顔を青くして、その場をじたばたしているだけでその取り巻き、女子グループも同じようなことをしていた。
いじめの主犯が俺を見つけると、
「さ、と、るー!」
と言いながら近づいてきた。
「な、なんだよ」
「お前だろ!これをやった奴は!」
「何がだよ?」
「これだよ!これ!」
胸ぐらを掴んでいる主犯がスマホを見してきた。
「これは…」
スマホには俺をいじめている映像が流れていた。
それも、学校が始まって下校するまでの間だった。
そして、コメント欄には、
「こんなことよくできるな」
「こいつには人の心ってものがないのかよ」
「本当本当、こいつは生きてる意味なし」
「死んだほうがマシ」
「はいはーい、こいつの住所特定完了。今からここの住所に皆さん行きましょう!」
「はい、一生ネットの晒し者確定草」
「ご愁傷様」
このようなことがごまんとかかれていた。
スマホを持っていた手は震えている。
「おい、これお前がやったんだよな?今すぐに消してくれよ」
「ちょっと待ってくれ。俺はお前に昨日スマホを壊されたんだぞ。その俺が出来るわけがないだろ」
「そんなわけないだろ!なぁ、お前だよなぁ!」
再び胸ぐらを掴んでくる。
威勢を張っている割には手が震えており、顔が青ざめたままだった。
…失った者はこのようになるのか。
そう思いながら掴んでいた手を離し、そいつから離れて席に向かった。
「おい!待てよ!どうにかしろよ!」
「だから、俺じゃないって!どうやってこれをあげるんだよ!スマホのない俺が」
そう言い席に座り、ホームルームを待った。
しかし、早すぎたのか担任がまだ来ない。
仕方ないので、本でも読んで待っていようかと思っていたら、木下さんが振り返り、
「なんか凄いことになっちゃったね」
心身複雑そうに話してくる。
「本当だね」
「でも、これ私にも書かれているんだよね」
「そうなんだ」
俺がそう言うとスマホを俺の顔の前に取り出し、コメント欄を見してきた。
…これも俺の見たかった光景なんだ。
そこには、
「こいつら、クラスメートがいじめられてるのになんで助けないの???」
「確かに、自分は関係ないとか思ってるんじゃない?」
「ここ!このシーン見てよ!誰も振り向きもしないWWW」
「それよりも山口君が可哀想だよ」
「何言ってんだよ?こいつはこれが罪滅ぼしみたいなところがあんだろうが!」
「それは正しい」
「そんで、この委員長は何やってんだよ?何もしてないくせに正義の味方ぶりやがって」
「それ。こいつ本当にうざいわ」
このような自由に自分の思った事が書かれていた。
だが、おそらくこいつらは住所特定はされないだろう。
したところで面白くないからだ。
面白いのは主犯、木嶋康介とその取り巻き、女子グループの主犯、斉藤佳苗とその取り巻きだけだろうからな。
「私、委員長失格なのかな?」
俯き、悲しそうな顔をしている木下さんが俺に話してくる。
「分からない。俺には」
そう言い、顔を逸らした。
俺は今ネットから守られているからここで、擁護するような言動をしてはいけない。
なぜなら既に2本目を撮っているからだ。
…………
「美咲。お願いがあるんだけど」
「何、悟君?」
「明日、朝早く学校に行ってカメラをセットしてきてくれないか?」
「え?悟君の教室に?」
「そう。あいつらにはまだ地獄を見せてやりたいんだ」
「分かった。あと、その顔やめたほうがいいよ」
「そうか。分かった」
俺は美咲に言われた通りに顔を元に戻した。
逆にどんな顔をしていたのか俺が知りたい。
「ところで、どうやって天罰を下すの?」
「俺をいじめているシーンを全て撮り、編集してスカイページに投稿する。今の高校生には人気なところにあげればすぐに広まるだろう。そして、クラスの奴が見て、ネットの批判を高校生が浴びる。すると、住所特定されて、さらに上手くいけば就職活動もままにならないだろう」
「凄いね。でも、悟君も何か書かれたりしないのかな?」
「大丈夫だよ。そこで今日一芝居打ってきたから」
そう言うと俺は木嶋によって破壊されたスマホを取り出して美咲に見した。
「上げる動画には俺がスマホが破壊されているところも映る。それを見れば流石に俺を叩こうと思う人はいないと思うし、俺がやったこととはバレない。既にスマホが壊されているんだからな。そして、2本目の動画で奴らは終わるだろう」
「まさかスマホを壊されても復讐するとは」
「本気になった人間は怖いものだぞ。あと、美咲をいじめている奴らもこれが終わったら同じようにしてやるぞ」
「でも、いいのかな?」
「いいんだ。人をいじめるって言う事はこう言う事も代償についてくると言う事を教えてやるんだ。この学校に。そのために俺達は動くんだ。」
俺は立ち止まり美咲の目を見て話した。
美咲は最初は目を逸らして下を向いていたが、ついには俺の目を見て覚悟を決めた。
「分かった。私達でやろう。この学校を潰すために」
「…なんか今のカッコ良かったよ」
「やめてよ。恥ずかしくなってくるから。…待って本当に恥ずかしくなってきた」
…………
そして、担任が教室に入ってきてホームルームが始まった。
クラス中はこのスカイページの事について言及されると思っていたのだろうが案の定担任は何も言わなかった。
それに驚いたのかクラス中全員が担任に疑問の顔を投げつけていた。
しかし、本当に何もなく終わり1限目の準備が始まっていこうとする。
「おい!悟!やっぱりお前がやったんだろ?これはやく消せよ!」
「俺じゃないって言ってるだろ!何回言えば分かるんだよ!」
「うるせぇ、こんなに身元がバレてんだぞ。こう言う時間に俺の家に押しかけていたとなるといても経ってもいられないんだよ!」
「お前達が俺をいじめたりするからだろ?そんな事をしなければこんなおおごとにはならなかったはずだ」
「黙れ!第一お前が木下と仲良くしていなかったらこうなってはいなかったんだ」
興奮している木嶋が俺の胸ぐらを掴んで息を荒くして話してくる。
目には涙を浮かべ、もうすぐこぼれ落ちそうになっている。
「は、離せよ!」
俺は木嶋の手を振り切り木嶋と離れた。
「まだ、接着剤を椅子につけた事と俺の大事な鞄をズタズタにした事がバレてなくて良かったな」
「え!木嶋君そんな事までしてたの?」
それを聞いた途端突然木下さんが立ち上がった。
木嶋はそれを聞いて俺の方に近寄ってくる。
「てめぇ!」
「うぐっ!」
俺は木嶋の拳を頬に受けて吹き飛んだ。
そして、馬乗りになって俺の顔をこれでもかと思うほど殴ってくる。
「絶対に許さないからな!」
完全に怒りに差配された木嶋の拳を受け続けている。
唇が切れたり、口の中が血の味で覆ったりいていて痛みはここに集中している。
「やめな!木嶋!」
俺達に駆け寄ってきて離れさせたのは斉藤でそれに釣られて取り巻きも木嶋を押さえつけている。
それを見たこのクラスの女子生徒が教師を呼びに行こうとするが、
「やめろ!これを教師に言ったらあんたもただじゃおかないよ!」
と脅しを入れて教師を呼びにいくのをやめさせた。
木嶋はまだ怒りが収まってはおらず今すぐにでも押さえを振り切ってこちらに向かってこようとしている。
しかし、斉藤や取り巻きの説得が相まって木嶋は落ち着きを取り戻し席に戻っていった。
「大丈夫だった?顔にアザが出来てるよ」
「大丈夫だよ。これくらい」
そう返した時に教師が入ってきて授業が始まった。
意外にも拳が多くそして痛かったため口の中の血が止まらず少しだけ焦るがこれは必要な犠牲と考えるとどうでも良くなってくる。
クラス中の全員は全く集中できておらず質問をされても「分かりません」で返す者が多かった。
その後の授業も同じように進んでいき、昼休みに突入した。
いつもだったら笑い声が鳴り響いているが今日はそんな事はなく1人1人別々に弁当を食べていた。
すると、教室の外から美咲がこちらを呼んでいたので俺は呼ばれるがままに教室の外へと向かっていった。
この前と同じように管理棟の4階の奥へと向かいそこで美咲と弁当を食べる。
「悟君。スカイページの動画が多分ほとんどのクラスで話題になってるよ」
「そうか」
「そうかじゃなくてもしこれがメディアにバレたら…」
「バレないよ」
俺はキッパリと美咲に言った。
「なんでそんな事が言えるの?」
「校長が揉み消しているから。いや、厳密に言うと校長のお父さんがまた消してると思う。言ってただろう、校長が「お父さんにお金貰おう」ってそのことから考えるとこんな事校長のお父さんに掛かれば簡単にもみ消す事が出来るんだよ。だから、俺達が今やってる事は心配いらない」
「な、なるほど」
「ただ、心配になってくるのがこの後なんだよ。学校を潰そうと考えても校長のお父さんが揉み消そうとしてくる。つまり俺達がどれだけ騒いでも無駄になるんだよ。まぁ、今はこれは考えなくてもいいか」
「凄いね。悟君は」
「え?なんで?」
「だってあの会話だけでこれだけ考える事が出来るんだよ。頭の回転も速いし」
「人間はなんだってやれるんだよ。自分が本気に思った事は」
俺はそう言い弁当を食べ始めた。
美咲も俺に続いて弁当を食べている。
「とりあえず、昨日も言ったけどこれが終わったら次は美咲のクラスをやるぞ」
「分かった」
そうこうしていたら昼休みが終わり5限目の授業のためにそれぞれの教室へ帰っていく。
「じゃあ、帰りの時に」
そう言い残して教室の中に入っていった。
クラスの雰囲気はまだ通夜のような感じて誰とも話しておらずシーンと静まり返っていた。
木嶋に関してはもう全てが終わったような顔をしており、なんにも感情が出ていなかった。
おそらくスカイページのコメント欄を見たのだろう。
…まぁ、因果応報と言うし何も悪いとは思っていないのでいいけど。
「私達どうなっちゃうんだろうね?」
「え?あぁ、そうだね。でも、人生は長いんだしまだまだこれからだよ」
「そうかな」
それほど悩んでいるのだろうか?
人格否定されただけで木嶋のように終わってはいないはずだけど…。
そして、5限目の授業が始まった。
何も変哲もなく受けており、そのまま6限も終わっていった。
ホームルームもそのままの流れで終わっていき下校時間となった。
クラスの雰囲気は悪いままで全員とぼとぼと帰っていく。
俺は準備があるので色々何かしている様子を演じて帰るのを遅らせている。
そして、全員いなくなったところで準備をしようとした時木嶋がやってきて俺の方に近寄ってきた。
「な、なんだよ?」
俺が問いかけた瞬間に木嶋の姿は見えなくなった。
すると、下で地面に頭を擦り付けて土下座をしていた。
「どうしたんだよ?急に」
「今までの事を許してくれ!ここでどれだけ俺を殴ってもいい!だから、だから頼む!」
俺は突然の事で驚いたが木嶋の土下座という行為でどれだけ追い詰められているのが分かった。
自分のやった事がどれほど大きかったのか。
そして、もう取り返しがつかない事を理解したと言う。
俺は木嶋と同じぐらいにしゃがみ肩を叩いてやった。
「木嶋。もう顔を上げてくれ」
そう言うと木嶋は顔をゆっくりと上げてこちらを希望の瞳で眺めてくる。
「さ、悟。ありがー」
「誰が許すかよ。バーカ。お前はこれから落ちぶれていくんだよ。一生ネットの遊び物となってな。そして、ネットの世界で腐り続けていろ」
俺の目には希望から絶望に変わっていく木嶋の顔が見えていた。
そして、木嶋が地面に倒れ込んだ。
俺はカメラを取って教室から出て行く。
「じゃあな。木嶋」
俺は美咲と一緒に帰っていった。
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