人間とロボット
そよぎ
第1話
君は自分以外の人間が人間ではなくロボットなのではないか?などという想像をしたことがあるだろうか。突然で申し訳ない。ただ僕は物心ついたときからこの想像に取り憑かれていた。
多分、その原因はハカセにある。
ハカセは僕が生まれる前からロボットの研究をしている。
ハカセとは僕と一緒に暮らしている人のことだ。
本名は知らないし、僕とどういう関係なのかも分からない。実の子供、もしくは親族ではないことは確かだ。小さい頃の記憶がほとんどないが、昔、養子縁組届の紙がハカセの机の上にあったのを見た。
ハカセは自分のこと語らない。ミステリアスでとても優しい人だ。
お前を引き取ったのは人間というものを観察したかったからだ、というのがハカセの口癖だが、興味本位で子供一人を育てるのはとても大変だし、ハカセの細やかな気遣いから自分は大切にされているのが分かる。
気がついたらハカセのことばかり語ってしまった。
話を戻そう。
…なんだっけ?
あぁ、そうだ。
周りの人が人間ではなくロボットなのではないかという想像の話だ。
いつからそんな想像をしていたんだっけ?
多分、思い出せないくらい昔のことだろう。
とにかく僕は周りの人間を本当に人間だという証明をしたくなった。
証明するにはどうすればいいのだろう。
…そうだ。中身を確かめればいいのだ。
どうやって中身を確かめればいいのか?
うーん。
あ、分かった。解剖すればいいのか。
…待て待て。そんなことをしてはダメだ、ダメだ。
ワタシは何を考えている?
ここはどこだ。
…ここはハカセ、のところだ。大丈夫大丈夫。
僕は正気だ。
そうだ、水でも飲んで落ち着こう。
…
ふぅ。で、なんの話をしていたんだっけ。
そうだ。人間の話だ。
人間を解剖することが僕の目標だ。
…ワタシは何を考えているんだ!妻も娘もいるんだぞ!?
…妻?娘?誰だ誰だ知らない知らない知らない知らない。
落ち着こう。
良いことを思いついた!
ハカセのことを考えればいいんだ!
ハカセは穏和で恐ろしくて優しくて憎くて…
違う違う!!ハカセは恐ろしくなんてない!
優しい人だ!!
…あれ?ミステリアスな人だったっけ?
まぁいい。ミステリアスで優しい人ということだろう。
大分落ち着いた気がする。
ここはどこだったっけ?
辺りを見渡す。ベットとトイレと机と椅子とドアがあるだけの簡素な部屋。机の上には包丁がある。
思い出した。ここはハカセの隣の部屋だ。
そう、そうだ。ハカセに連れてこられたんだ!
だから安心だ。大丈夫だ。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。
何が大丈夫なんだろう?
分からない。でもハカセが大丈夫だと言ったのだ。
ハカセの言うことは絶対正解だ。
いや、本当にそうか?
ハカセの言うことを信じていいのか?
ハカセは殺した。ワタシの目の前で殺した。
…何を?何を殺した?ハカセは何を殺した?
分からない!なんなんだ!
この不安の正体は!ハカセのところなのに!
安心なのに!大丈夫なのに!
…分かった!自分の正体が分かったぞ!
そうだ!思い出した!!
僕はロボットだ。ハカセに作られたロボットなのだ!そうすると、全て説明が付く!このあやふやな記憶も、変な妄想も、あやふやな記憶も変なもうそうもあやふ
…
ワタシは誰だ。
あぁ、思い出した。
少しだけ、思い出した。
でも、ロボットだったら嫌だから、ロボットかどうか中身を確認しないと。
ワタシは机の上の包丁に手を伸ばした。
…
「あぁ、また失敗だ!」
小さな部屋の中で男は頭を抱えた。
男が先ほどまでじっと見つめていたモニターには自傷行為を始めている40代後半くらいの小太りの男が映し出されている。
ありえないくらいの血の量。中年の男がまもなく死ぬであろうことは明白だ。
はぁ。
快楽殺人者を生み出すことがこんなにも難しいとは思ってもいなかった。
とりあえず、今回の反省をしよう。
中年の男、コバヤシの目の前で娘と奥さんを殺して精神崩壊を起こさせた所までは良かった。
ハカセの設定や、コバヤシと博士の生活の設定が甘かった。もっと強い暗示をかけなければ。
あと、テロに使うらしいから、使いやすいように誰でも暗示をかけられるような機械が必要だろう。
…課題は山積みだ。
はぁ。多額の報酬に目がくらんだ自分がバカだった。こんなにめんどくさい仕事だとは…
まぁいい。受けた仕事は果たさなければ。
…とりあえずこの死体処理を依頼しないと…。
面倒だが、仕方がない。
男はぶつぶつ呟くと、見るも無残な姿のコバヤシが映るモニターをプツッと消した。
人間とロボット そよぎ @soyogi
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