第23話 新入部員再び、ライバル付きで 2
楓とシャオロンの二人が感情のままに口喧嘩を行った結果、試合と言う形で喧嘩(物理)をすることになったのだが、楓もシャオロンもその性格上、今回の様に自分から喧嘩を吹っ掛けるようなことはほとんどない。
成り行きで試合をすることになったのだが、周りの人間はもちろん、当事者である本人達もなぜこんなことになったのだと、戸惑っていた。
二人が試合場の開始線に着くと、楓の方に雫が近づいて行き、眉をひそめながら「はぁ」と呆れ混じりのため息をつく。
「楓君、貴方らしくもない。どうしてこんなことになってるの?」
雫の質問に、当事者である楓も困惑した様子で口を開く
「自分でも良く分からないんです。
「……喧嘩の理由はさておき、一応聞いておくけど、試合を止めるつもりは……。」
ないの。そう雫が言う前に楓は
「ありません。なぜかは分かりませんが、ここで一回
と食い気味で雫の言葉に
そこには、この試合だけは絶対に止めないという意思が明確に表れており、雫は再び「はぁ」とため息をついた。
「――わかったわ。それなら止めないけど、相手の
「はい!」
そう言って雫は試合場の外へ出て行く。一方、シャオロン側には咲が付いて話をしていた。
「……シャオ君、…どうしても楓ちゃんと戦うの?私のお友達なのに……。」
泣きそうな顔になる咲に、小狼はまっすぐと目を向けて答える。
「咲、僕もすまないと思うがここで引き下がるわけにはいかないんだ。どうしてかは分からない、もしかしたら
咲にはシャオロンの言っていることの意味が分からなかった。
しかし、咲とシャオロンは1ヶ月程の短い付き合いではあるが、その人となりは理解しており、シャオロンが戦いを好むような野蛮な性格ではないことも知っている。
なによりもシャオロンの真剣な目と、言葉から、これはシャオロンにとって必要な戦いなのであるのだろうと咲は理解した。
「……わかったよ。だけど…二人ともケガはしちゃだめだよ。」
「ありがとう。咲」
そう言うと、咲も試合場の外に移動する。
試合場には楓とシャオロンの二人だけが残り、お互い対戦相手の方に向き直った。
「試合の開始と決着方法は?」
シャオロンが楓に尋ねる。
「開始はいつでも、決着はギブアップもしくは、戦闘続行不能状態になった方の負けでどうだ?」
「分かった。」
そう言い終わると同時に二人とも構を取り、更に氣を体に循環させ、身体強化魔法を発動させる。
シャオロンは赤色の、楓は青色の魔力を纏い、楓の身体強化魔法を見てシャオロンが口を開く
「
シャオロンがそう言うと同時に、炎で出来た槍が出現し、楓めがけて飛んで行く。
すると、楓は初めて見る魔法に驚いた様子も見せずに、構えをとったまま
二人の様子を見ていた雫とジンは驚愕する。
楓にはまだ基本の防御魔法しか教えていない、それなのに楓はシャオロンと同じように属性の付与された防御魔法を
属性を付与する魔法は基本魔法に比べ習得難度が高く、それを先程まで基礎防御魔法すら詠唱をしなければ発動出来なかった楓が、いとも簡単に無詠唱で発動させたのだ。
「どういうことだジフタリア!、あいつはまだ基本魔法しか使えないはずだろ。」
「私にだってわからないわよ。」
混乱する二人を
楓の発動させた氷の壁に炎の槍が衝突し、互いの魔法が相殺され消滅する。
すると、すでに間合いを詰めていた小狼の蹴りが、楓に向って振り下ろされる。
「甘いよ。」
楓はそう呟き、シャオロンの蹴りを金剛身を使用した右手で受け、空いた左手で袈裟切りに閃刃を放つ。
しかし、その攻撃をシャオロンはギリギリのところで躱し、楓との距離を取り口を開く。
「流石だな
「
「言われるまでもなく!」
二人はそう言うと再び戦闘を再開する。
この時、二人の意識は非常に曖昧なものになっていた。
自分の意識は確かにあるが、
二人ともその感覚に戸惑っていたが、それよりも楽しいという感情が上回っており、今はその感覚に身を任せていた。
シャオロンの隙のない烈火のような蹴りの連撃に、楓は防戦一方になる。
「相変わらず足癖悪いなぁ、おい!」
そうシャオロンに毒づくも、シャオロンも楓の防御の堅さに攻めあぐねていた。
「そう言うお前もいい加減攻めたらどうだ、防御ばかりでは俺は倒れんぞ。」
楓を挑発するシャオロン。
「わかってる――よ!」
楓はその挑発に乗るように大振りの拳撃を放ち僅かであるが隙が出来てしまう。
シャオロンはその拳撃を躱し、楓に出来た隙を突くように膝蹴りを繰り出した。
「隙あり!」
シャオロンの膝蹴りが楓の脇腹に直撃する。
――が楓にはダメージはない、金剛身で完全に受けきっていたようだ。
「そんなもんねえよ。」
楓はそう言うと腰を低く落とし、渾身の一撃を放つ準備をする。
シャオロンは楓にうまく誘われたことに気付き、舌打ちをすると自らの腹部何重もの防御盾を展開させる。
「神木流、金剛砕」
楓の渾身のボディブローが、シャオロンの展開した幾重もの防御盾を破壊し、腹部に突き刺さる。
シャオロンは、そのまま後方に吹っ飛び、そのまま倒れるかと思われたが、空中で体勢を立て直し片手で腹部を抑えながら着地する。
「防御盾をすべて破壊されたか、……なんという威力だ。」
「その一撃を喰らって立っているんだ。嫌味にしか聞こえねえよ。」
「そちらの手は出し尽くしたようだな、ではこちらの番だ。」
シャオロンがそう言うと、自身にかけていた身体強化魔法を解く、
身体強化魔法を解いたシャオロンの姿を見て、楓は何かを察し驚きの表情を見せる。
「まさか!」
「そのまさかだよ。」
その時、シャオロンの体を炎が包んだ。
しかし、シャオロンは何事でもないように構えを取り、楓はその姿を見て警戒を強める
「――属性強化か。」
「
その刹那、シャオロンの姿が消え、次の瞬間には楓に蹴りを叩きこんでいた。
「ぐぅ」
楓は顔を歪めながら、蹴り飛ばされ、次の瞬間には反対方向に蹴り飛ばされる。
それを何度か繰り返すと、シャオロンの攻撃はピタリと止んだ。
すると、楓はその場に膝をつき、目の前には炎を纏ったシャオロンがいた。
「俺の勝ちだ、諦めろ。」
シャオロンはそう楓に告げる。
しかし、楓は再び立ち上がり構えを取った。
「
シャオロンが再び楓に攻撃を開始しようとしたその時、楓は呟く
「これが奥の手だよ、――金剛砕、神槍。」
次の瞬間、倒れていたのは、シャオロンであった。
~~~~~~
シャオロンが目を覚ますと、目の前には咲の顔があった。
「……起きた。シャオロン君、大丈夫?」
咲が心配顔で、目覚めたばかりのシャオロンに体調を尋ねると、未だぼんやりとする意識の中、シャオロンは「ああ」と短く応答する。
「……よかった。」
シャオロンの返答を聞き安心したのか、咲は笑顔でそう言った。
咲の笑顔を見て、シャオロンは意識がはっきりしてきたのかあることに気付く、後頭部に柔らかいものが当たっていること、咲の顔が妙に近いこと、そう、シャオロンは先に膝枕をされていたのだ。
自身が膝枕をされていることに気付くとシャオロンはバッと起き上がり、咲に正対する。
その顔は真っ赤になっており、非常に初々しいものであった。
「やっと起きたかよ。」
シャオロンが声のした方向に顔を向けると、いたるところに包帯や絆創膏を貼った楓がいた。
楓の顔を見た瞬間、シャオロンは自身が試合に負けたことを自覚した。
「負けたよ。」
そう言いながら握手を求めるシャオロン。
その態度には、楓と初めて会話をした時のような敵意は全く感じられず、むしろ友好的な雰囲気を纏っていた。
それは、楓も同じなようで、シャオロンから差し出された握手に素直に答える。
「正直ギリギリだったよ、傷も俺の方が多いしな。」
「それでも君の勝ちだよ、……
「神樹 楓だ、こちらこそよろしくな。」
そう言って二人が握手を交わしていると、雫が二人に近づいて来る。
「仲良くなったところで悪いけど、二人とも、何があったの?。試合中まるで別人の様だったわよ。」
「それは……」
楓がどう説明したら良いか考えていたところ、シャオロンが「僕が説明するよ」と名乗り出る。
「僕たち二人に起こったこと……。おそらく前世の記憶の流入だと思います。」
「まさか。」
雫が信じられないといった表情になる。
「そうとしか、考えられません。僕はまだ属性強化が使えないのに試合中なんともなしに使えた。……それは今考えれば驚くべきことです。しかし、試合中僕はそんなこと少しも思わなっかった。おそらく神樹君にも同じ様なことが起きていたはずです。」
シャオロンの言葉に納得する雫。
「確かにそうね、楓君も未だ教えていない魔法を使っていたし。」
「恐らく僕らは前世で強い因縁でもあったのでしょう。それが原因で初めてあった時に記憶の流入が起こった。そうでなければ、初めて会ったはずの僕らの言動に説明が付きませんしね。」
シャオロンと雫の会話を聞いていた楓は、困惑しながらも二人に質問する。
「あの……、前世の記憶の流入って一体どういうことですか?。」
楓の質問に、シャオロンが答える。
「魔術師は、魔力の源であるマナを取り込むときに魂をマナの変換機として使用するだろう。記憶っていうのはなにも体だけに保存されている訳ではなく、魂にも保存されているんだ。だから魂を意図的に使用する魔術の中には極稀に前世の記憶を呼び覚まされる者がいるんだよ。今回、神樹君と僕が感じたあの奇妙な感覚は、恐らく前世の記憶が呼び覚まされてのことだと考えられるんだ。」
「……なんとなく分かった気がする?」
楓のなんとも言えない返答にシャオロンは「はは」っと笑う。
「僕自身もなんとなくそうだろうな、程度の認識だからそこまで気にすることはないよ。それに記憶の流入で結構な収穫があったんじゃないのかい?」
「まあな。」
楓はそう言うと、シャオロンとの試合中に使用した氷の魔法防御壁を発動させようと集中する。
すると、試合中程の速度ではないものの、楓の目の前に氷の魔法障壁が出現する。
楓は魔法障壁を解除する。
すると楓の目の間にあった障壁が、跡形もなくスッと消滅する。
「これ以外にも、格闘中の動きとか結構参考になった。」
「
「
「そう、今はね。記憶の流入があった時に、ちょっと気になる言葉をお互いに使っていたからね。その辺は僕が調べてみるよ。」
「分かった。何か分かった時は教えてくれよ。」
「もちろん。」
シャオロンがそう言うと、雫が
「
と言い、自分にも教える様にとシャオロンに釘を刺す。
「
そこで、本日の部活動はお開きになった。
~~~~~
部活が終了し神樹姉弟は帰路についていた。
「まさか楓が、『神槍』を使うとは思ってなかったよ。あれ……まだ未完成の技だったよね。」
紅葉は、楓がシャオロンとの試合で最後に使った技のことを話す。
「あの状態だから成功した、っていうのもあるけどな。今回の一番の収穫は神槍を使えたことだな。あれのおかげでだいぶ完成に近づいた。」
「確か相手の意識の外から攻撃する技だっけ?」
「正確には相手が意識の隙を突いて放つ、防御も避けることも出来ない高速攻撃だけどな。」
「やっぱり完成の鍵は魔法?」
「そうだけど、やっぱりってことはお前もか?」
楓の質問に紅葉は「フフ」っと笑い
「
そう言って走り出す紅葉、楓は呆れながら「なんだよそれ。」と言って紅葉の後を追いかけるのであった。
分離世界の英雄譚 種子島 蒼海 @mukatank
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