第22話 新入部員再び、ライバル付きで 1

 雫が総合武術部に入部してから数日が経ち、楓達の魔法の技術は確実に上達していた。

 と言っても未だに身体強化魔法の出力調整ばかりやらされているのだが、神樹姉弟は基礎の重要性を知っているため、不満を言うことも、思うこともなかった。

 あのジンも素直に雫や神樹姉弟の言うことを素直に聞き、着実に魔力のコントロールと氣の習得を進めていた。

 そんなある日の部活動中、雫が神樹姉弟の身体強化魔法の上達具合を見て


「みんなの身体強化魔法の訓練はもうこれくらいで大丈夫でしょう、後はいつも言っている通り、自宅での訓練とマナの回復は欠かさないようにしてね。」


「「はい(おう)」」


 返事をする3人の顔には、達成感と次はどんな魔法の訓練をするのだろうという期待がこもっていた。

 そんな三人の眼差しを受け、雫は口を開く


「次の訓練は防御魔法の訓練よ!」


「まじかよ」

 

 雫の言葉に不満を表したのはジンであった。

 ジンの実家、テラヴァルカ家は英国の盾と呼ばれるだけあり、防御魔法を得意とする家系だ。

 当然テラヴァルカ家の長男であるジンは、防御魔法については幼いころから嫌という程教え込まれており、魔力のコントロールを上達させた今では、わざわざ雫に教えてもらう必要性を感じなかったのだ。

 そんなジンの心境を悟ったのか雫は


「今のジン君には防御魔法よりも氣の訓練が必要だから、今からしばらくの間は新藤君に付いて氣の訓練をしてね。」

 と言ってジンを防御魔法の訓練から外し、氣の訓練を新藤の下で行うように促す。

 新藤もここ1ヶ月の訓練おかげで、氣のコントロールを自在にできる程の実力となっており、現在は氣を習得していない他の部員の訓練監督をしている。

 ちなみに魔法習得に関しては、本人曰く、「俺は氣一つを極めたいから魔法は必要ないよ、と言うか魔法はどうも合わない気がする」と言う理由で断っていた。

 ジンは元々新藤の実力を認めている節があったため、雫の指示に「おう」と素直に返事をして新藤の元に向った。


 雫はジンが新藤の元に向っていったことを確認すると、「よし」と一言発し、神樹姉弟を見る。


「それじゃあ今から防御魔法について教えるけど、まずは私のお手本を見ててね。」


 雫はそう言うと、両手を広げて自身の目の前に出す。

 すると半透明な青色の四角いガラスの様なものが出現する。


「これが防御魔法の基本、魔力盾よ。楓君これを思いっきり叩いてみて」


 雫の指示に楓は「はい」と答え魔力盾を強めに叩いてみる。

 すると鉄を叩いたような感触がして、驚く


「すごいな……、こんなに薄いのに鉄みたいに堅い、それにピクリとも動かない」


「面白いでしょ、この魔法もイメージが重要で、盾の形だけでなく、出現させる場所にちゃんと固定させるイメージをしないと発動した瞬間、地面に落ちちゃったり、敵の攻撃で移動したりするから実戦で発動させるときには十分気を付けてね。それじゃあ早速やってみて。」


 楓は両手を自身の前に出し、魔力の盾が手の前に出るようにイメージするが中々イメージが固まらずに四苦八苦する。

 その様子を見ていた雫が


「イメージが固まらないなら、イメージを声に出すと魔法の発動がしやすくなるわ、これを詠唱と言うんだけどね、詠唱に決まった言葉は無いから自分がイメージしやすい言葉を選ぶと良いわよ。」


とアドバイスをする。

 楓は(詠唱ってなんか恥ずかしいな)と思いながらも実践してみる。

 

「盾よ我の眼前に現れよ。」


 そう言った瞬間、雫が発動した時と同じような形の盾が現われると同時に、楓の横から「プフッ!」という空気が噴出した様な音が聞こえ、楓が音のする方向を向くと紅葉が腹抱えて笑いを必死に堪えていた。


「わ我って、眼前って……プフ!中二病みたい。」


 紅葉の指摘に恥ずかしさが爆発したのか、楓は顔を真っ赤に染め


「仕方ないだろ!、これが一番イメージしやすかったんだから!、――そういうお前はどうなんだよ」


「私?私は、ほれ。」


 そう言って紅葉が片手を広げて出すとあっさりと半透明で黒色の盾が出てくる。


「な!、そんなあっさり」


 楓の驚き様に、紅葉は「エッヘン!」と自慢げに胸を張る。


「雫先輩これって別に手前に出す必要ないですよね?。」


「そうね発動だけなら特に問題はないわ、ただ他魔法の場合は手を使った方がコントロールがしやすかったり、魔法の出現場所を決めやすいという点もあるわね。」


「そうなんですね。あと盾の色が違うのは得意属性の違いですか?」


「そうよ、紅葉ちゃんの得意属性は土だから黒色ね。ちなみに他の属性は水は青色、火は赤色、風は白色となっているわ。」


「へ~」


と言いながら感心する楓、紅葉は何か思いついたようで「それなら」と前置き質問する。


「盾のイメージをしたら盾の形をした魔法が発動出来るなら、どんな形でも魔法は発動できるんですか?」


「そうね、別に防御魔法にイメージする形の制約はないわ、盾の強度も込める魔力量によって変わるだけだしね。ただ出現させる盾大きさに関しては大きければ大きい程多くの魔力を消費する上に、強度も同じ魔力量なら大きさが小さいものの方が強度は高くなるわ、要はケースバイケースで使い分けられるようにすれば良いってことね。」


「「分かりました。」」


そう神樹姉弟が返事をすると雫は満足げな様子で「うんうん」と頷き


「それじゃあ引き続き防御魔法の訓練をして、楓君は無詠唱でできるようになれるまでは、防御魔法発動を何度も繰り返すこと、紅葉ちゃんは防御魔法の形や大きさ、強度の出力調整の練習ね。」


「「はい!」」


 10分後、総合武術部の面々がそれぞれの訓練を行っていると、武道場の入口が開かれ一組の男女が入ってくる。


「失礼します。」


「し……失礼…します。」


 最初に挨拶をしたのは、暗い茶色の髪をした中肉中背の容姿の整った男子生徒で、男子生徒に続いて挨拶をしたのは、明るい茶色ショートカットで、紅葉と同じ位の背丈をした可愛い顔の女子生徒だった。

 突然の来訪者達に部長である新藤が対応する。


「見たところ1年生の様だけど総合武術部ウチに何か用かな?」


 新藤の問に、男子生徒は一礼し


「部活動中に失礼します。僕は1年C組のワン 小龍シャオロンと言います。入部希望で来たのですが、部長はいらっしゃいますか?」


と丁寧に要件を告げる。


「俺がこの部の部長の新藤だが、この時期に入部希望なんて珍しいな。」


「それは咲……、彼女からこの部には強い人がいると聞いて、強い人と一緒に研鑽できれば、と思いまして。」


 そう言いながらシャオロンは女子生徒に目をやる。


「彼女が?、君、総合武術部ウチに知り合いでもいるのかい?」


 新藤が女子生徒に問いかけると、女子生徒は怯えた様子でシャオロンの後ろに隠れるように回り込む。

 

「こら!咲、部長に失礼だろう。ちゃんと自己紹介しないと。」


「で……でも、初めて会う…人だから……怖い。」


 そう言って女子生徒は益々小さくなり、シャオロンは「ハァ」とため息を吐く


「初めて会うからちゃんと自己紹介しないと駄目なんだよ。すいません、彼女は僕と同じクラスの上木かみき さきと言います。彼女も入部希望者です。」


「カミキ……もしかして楓達の親戚か何かかな?」


 新藤の問に咲はコクンと小さく頷き、新藤は魔法の訓練をしている神樹姉弟に声をかける。

 

「おーい神樹姉弟きょうだいお前達の親戚が来てるぞ〜。」


 すると咲の存在に気付いた、神樹姉弟が咲の元に駆け寄ってくる。


「あ!咲ちゃん、久しぶり〜。入学してから全然会えなくて気にしてたよ〜。今日は一体どうしたの?」


「にゅ……入部希望でシャオロン君と…一緒に来たの。」


 楓はシャオロンと聞いて、どこかで聞いた名前だなと、自身の記憶を思い返す。


「シャオロンって、……あの掲示板に載ってた王小龍か?」


「そうだが君は?」


 シャオロンの言葉には先程までの丁寧さはなく、むしろ敵意めいたものがあった。

 それは楓も一緒で、シャオロンとは初対面であるというのに、なぜかシャオロンを見た瞬間から、こいつは気に入らないと言う気持ちが湧き上がって来ていた。


「神樹楓だよ。」


 楓はそう乱暴に言い放ち、二人の間には張り詰めた空気が流れ始め、新藤が慌てて二人の間に割って入る。

 

「どうしたんだよ、二人とも初対面だろ?、なんでそんなに敵意剥き出しなんだよ。それに王君は入部希望なんだろ?」


「そうですけど。」


「そうなら今日から同じ部活仲間になるんだから仲良くしないと。」


「「それは無理です。」」


 二人の言葉が同時に重なると、益々二人のボルテージが上がり間に入っていた新藤を退け、


「被るな」


「そっちこそ」


お互いに睨み合う形となり、正に一触即発の空気となる。

 すると二人の間の空気が限界を超えて、ついに爆発し、

 

「「勝負しろ」」


とお互いが宣戦布告し、よく分からない理由で楓とシャオロンの勝負が行われることとなった。


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