第21話 新入部員
神樹姉弟が雫の家に行った日の翌月曜日、神樹姉弟が登校するとまたしても掲示板の前に人だかりが出来ていた。
しかし今日はいつもと違い、2・3年生よりも1年生が多く集まっていた。
「そうか、今日で1ヶ月か」
楓の言う通り、本日で楓達1年生が入学してから丁度1ヶ月経っていた。
と、言うことは新入生の学園順位が発表される日である。
掲示板の前に1年生が多くいるのも頷けるというものだ。
「一応確認しとくか?」
「そうだね。」
神樹姉弟が学年順位を確認するが、変動はなく、最後に確認した時と変わらない順位であった。
「ま、こんなもんだよね。」
「順位が変わるようなこと何もなかったしな。」
そう言って神樹姉弟は掲示板の前を後にし、教室に向かった。
神木姉弟が教室に着くといつも元気に挨拶をしてくる男の声が聞こえない、そう
友人の挨拶が聞こえないことを不思議に思い、楓は周囲を見渡すと自分の席に座って思案顔をしている弾を見つける。
珍しい友人の思案顔に、楓は心配になり声をかける。
「どうしたんだよ弾、変な顔して考え事なんて」
「ん?、……あぁ楓か別になんでもねえよ。」
いつものように軽い調子で弾に声をかけるが、弾は心ここに在らずといった様子で返事をする。
楓達のやりとりを見ていた紅葉もいつもと様子の違う弾のことが心配になり、楓に耳打ちする。
「一体どうしたの弾君、全然元気ないんだけど。」
「知らないよ、なんかあったのか?」
「う~ん、……あっそうだ!学年順位の件じゃないの?思ったよりもいい順位じゃなかったとか、そんな理由で元気がないんだと思うよ。」
「そんな理由でこいつがこんな風になるかな?」
「まあ試しに聞いてみなよ。」
紅葉にせっつかれ、楓は弾に質問する。
「なあ、もしかして学園順位のことを考えているのか?一体何位だったんだよ。」
「……588位だよ、てか順位は関係ねえよ。」
強いとも弱いとも言えない、なんとも微妙な順位であった。
しかし、弾は学園順位のことは関係ないと言い、また思案に暮れその様子は放課後になるまで変わることはなかった。
~~放課後~~
放課後になると、一日中思案顔をしていた弾が「よし!」と気合を入れ、楓の方を向く
「楓!頼みがあるんだ!。」
「な…なんだよ急に。」
「俺をお前のとこの部活……総合武術部に入れてくれ!」
弾の急な頼みに戸惑う楓
「お前、武術系は柔道部に入ったんじゃないのか?」
「あそこはもう退部したよ……。」
そう言いながら遠い目をして空を見上げるように上を向く弾、見上げた先は教室の天井だ。
「退部ってなんかあったのか?先輩のいじめにあったとか?」
「いや、先輩達はすごくいい人達だったよ、俺の相談にも乗ってくれたし。」
「じゃあなんで、やめる理由なんてないじゃないか。」
「いや、あったんだどうしても柔道部を止めなければならない理由が……」
深刻な顔をする弾、その様子に楓も真剣な眼差しを向ける。
「柔道部には女っ気がまったくなかったんだよーょーょー!!」
弾のその悲痛な叫びは魂の叫びとも呼べるものであった。(本人からすれば)
弾の魂の叫び(自称)を聞いた楓は、朝からの俺の心配を返せと言いたかったが、それを弾は許さずにしゃべり続ける
「先輩たちは本当に良い人達さ、だけど柔道部は男女で部活が分かれているんだ、女性部員が一人もいないんだ、せっかくの高校生活そんなのってあんまりだろ。」
「そんな理由で退部したのかよ、よく無事だったな。」
「ああ!こんな俺のこんな悩みを聞いても、怒るどころか優しく送り出してくれたぜ!」
楓は、それは単に呆れられただけじゃないのか、と思ったが口にするのは面倒くさいので止めた。
「で、
「一人いるだけでも十分だよ、それにこれから入部する人もいるだろうしな。」
「
弾の動機が不純すぎたため、楓は念のため弾にそうそう退部させないぞと凄みを効かせて釘を刺す。
弾は楓の凄みに若干怯むが
「応!決めたからには絶対辞めないぜ、男に二言は無しだ!」
「わかった、それじゃあ部活に行くぞ、紅葉もいいか?」
「大丈夫。」
そう言って教室を後にし、武道場に向かう三人。
最後尾にいた紅葉は「はぁ」とため息を吐く
「馬鹿が増えた。」
楓達3人が武道場に着くと意外な人物がそこにはいた。
「あら、楓君達こんにちは。」
楓達に気付いた雫が挨拶をする。
「あー、雫先輩がいる~。」
「……雫先輩なんでここに」
「なんでって……、失礼しちゃうわね。私がここにいたらいけないの?」
そう言って不機嫌そうな態度をとる雫に、楓は慌ててフォローする。
「そ……そんなことないですよ、総合武術部の部員でもない雫先輩がいるのが不思議だっただけです。決してここにいて欲しくないなんて思ってないですよ。」
楓の慌てようが可笑しかったのか、雫は「フフフ」と小さく笑い、
「ごめんなさい、冗談よ。怒ってなんかいないわ。」
不機嫌な顔から一転、笑顔になった雫に、楓はまたからかわれたことに気付き「勘弁してください」と一言、
「楓君の反応が可愛いからつい、ね。」
そう言いながら楓にウインクをする雫、すると楓の足元から何かが走り抜け、雫の目の前まで来ると雫の方に飛び上がる。
「わっ」と驚きながらも雫はそれ見事にをキャッチ、それは銀色のモフモフ……コウだった。
ワン(ご機嫌麗しゅうですぞ姫)
「コウ、お前部屋に置いてきたはずじゃあ。」
コウは楓の霊獣であるが、流石に学校に動物を連れてはいけないと、今朝楓の部屋に置いてきたはずであった。
ワン(主、甘いですぞ、私めは霊獣、こんな風に姿を隠すこともできるのです。)
すると、コウの姿が消え、再び現れたのは楓の足元であった。
「そんなことが出来るなら最初から言えよ。そうしたら素直に連れて来たのに」
ワン(いやいや、なにせ久方ぶりの顕現だった故、思い出したのは主が出かけた後でした。)
そう言いながらワンワンと笑う?コウ、妙な空気になった場を元に戻すように雫は「コホン」と咳払する。
「コウ君のおかげで話が脱線したけど元に戻すわね。今日私が総合武術部に来たのはここに入部するためよ」
「え……なんでですか?」
「それはもちろん、楓君達を鍛えるためよ。同じ部活の方が鍛えるのに都合がいいからね。」
「こっちは願ったり叶ったりですけど、今まで所属していた部は退部してもよかったんですか?」
「問題ないわ、私、武術系の部はほとんど通ってなかったんですもの。」
「そうなんですね。」
「ちなみにもう新藤君には入部届を渡してあるから、これからよろしくね。」
そう言って握手を求める雫に、楓は握手を返す、
「よろしくお願いします。」
「それじゃあ早速練習の準備しましょう。」
「「「はい」」」
返事をした声は3つあった楓と紅葉……、楓が横を向くとグッドサインでドヤ顔をした弾の姿があった。
その顔にはな、俺の言った通りになっただろ、という心の声がありありと出ていた。
その後準備を終わらせた楓達の訓練が始まったのだが、楓達と弾の能力差ははっきりしていたため、楓、紅葉、ジンの3名は雫の指導の下で訓練を行い、弾はというと……、新入部員が増えたことでテンションの上がった新藤の指導の下、地獄のトレーニングをすることになり、部活初日から死にそうになる思いをしていた。
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