第20話 雫先生の魔法授業〜実践編
「とにかく、薬の件については私の方で調べてみるから、楓君達は魔力のコントロールに集中しましょう。」
何者かは不明であるが敵である可能性がある以上、いつかはコウルキウスの顕現に気付かれる。
そうなってしまった場合、楓達が攻撃を受ける可能性は大きく、楓達は最低でも魔法に対する防御方法を知らなければならない。
雫はそう判断し、魔力のコントロール訓練を再開する。
「分かりました。次は何をすればいいですか?」
「そうね、次は実際に魔法を使ってみましょう。二人とも自分自身の中に氣とは違うものの存在は分かるわね?」
「「はい」」
「それが魔力よ。では次に魔力を全身に纏わせるイメージをしてみて。」
「イメージですか?」
「そう、魔法の発動に最も大切なのはイメージなの、より具体的にイメージが出来ればそれだけ魔法の精度と効果が上がるのよ。」
神樹姉弟は、雫の指示どおりに魔力を体に纏わせるイメージをする。
すると神樹姉弟の体の周りにオーラのようなものが出て来た。
雫は神樹姉弟が纏っているオーラを確認すると
「それが、基礎魔法の一つ身体強化魔法よ。どう、少し動いて見なさい。」
神樹姉弟は「「わかりました」」と返事し、恐る恐る体を動かしてみる。
すると、氣を使用した時とは違う妙な感覚に襲われる。
「これ、何か妙な感覚ですね。迂闊に動こうとするとすっ飛んで行きそうです。」
「そうなの、だから慣れるまでは、少しずつ動くようにしてね。」
雫の注意を受け、楓は以前ジンと話した時のことを思い出す。
あの時ジンは、氣による身体強化と魔法による身体強化の違いをパワードスーツに例えて説明していた。
確かにジンの言った通りまったく違った。
氣による身体強化はあくまで自身の身体操作の延長で行えるが、魔法による強化はアシストを受けてる感覚、自身の力の強弱に関わらず、常に一定の力が加えられている状態であると言えるのだ。
(これは慣れないとまともに動けない。)
楓がそう考えていると、ドオン!という激突音が道場内に響く、何事かと楓が音の発信源に目をやると、雫が道場の壁際でひっくり返っていた。
楓は「ハァ」とため息を吐き、呆れながら紅葉に声をかける。
「大丈夫か~、紅葉。」
「楓、すごいよ!物凄い勢いでぶつかったのにまったく痛くない!」
案の定ケガもなくはしゃぐ紅葉に、眉を八の字に曲げた雫が
「紅葉ちゃ~ん。一応ウチの道場は頑丈に建てられているけど、何度もその勢いで激突されると壊れちゃうから注意してね。」
と優しく注意すると、紅葉は「えへへ、ごめんなさ~い。」と笑って謝った。
~~30分後~~
雫はまたしても神木姉弟に驚かされていた。
先程まで身体強化魔法の感覚に苦戦していたにもかかわらず、既に通常の動きと遜色のない動きが出来る様になっていたからである。
身体強化魔法は確かに魔法の基礎と呼ばれているが、それは発動するのが一番容易い魔法というだけであり、発動後の身体操作のコントロールに関しては、通常の魔術師でも数日から1週間程かかり、更には体に纏わせる魔力量によって効果も変動する。
そのため、魔術師の間では「身体強化魔法の習熟度合いによってその魔術師の実力が分かる。」と言われるほど重要な位置に属している魔法でもある。
神樹姉弟の身体強化魔法はまだ一定の出力でしか発動していないが、その異常とも言える適応力により、出力調整も容易にできるようになれると予想できる。
雫は、しばらくの間は身体強化魔法のコントロールについて教えるつもりであったが、神樹姉弟の成長速度の早さが予想以上であったため、カリキュラムの変更を決めた。
「二人とも!、とりあえず身体強化魔法はそれ位で良いわ。これからはお家に帰ってからもなるべく身体強化魔法を使うようにしなさい、だけど出力調整の練習をする時は気をつけるのよ、下手をするとお家の壁に穴を開けることになっちゃうからね。」
「雫先輩はお家の壁に穴を開けちゃったんですか〜?」
紅葉の質問に雫は顔を背けて答える
「わ……わわわ私が、そそ……そんな失敗するわけないでしょう。」
雫は、以前身体強化魔法の練習中に自室の壁に大穴を開け、こっぴどく叱られた時のことを思い出し、動揺しながらも先輩としての威厳を保つための見栄を貼るが、動揺が表に全開で出てしまっていた。
すると、雫の動揺を察した紅葉が、ニヤニヤとしながら雫に近づく
「雫せんぱ〜い、どうしたんですか〜、そっぽなんか向いちゃって。もしかして嘘ついちゃってます〜?。」
紅葉の指摘に、雫は思わず体をギクッ!と跳ねさせてしまう。
「あれあれ〜、どうしたんですか〜?」
「ナンデモナイヨ、ウソナンカツイテナイワヨ。」
動揺を隠そうと必死になり、カタコトになる雫。
紅葉は日頃から雫にからかわれてばかりのであったため、ここぞとばかりに雫に意地悪をする。
その表情はとても楽しそうであったが、突然背後から頭にチョップを叩き込まれる。
紅葉が「いたぁ!」と言いながら頭を手を当て背後を向くと、ジト目の楓がいた。
「気持ちは分かるけどいい加減にしろ。誰にだって失敗はあるんだからあんまり攻めるなよ。」
楓のフォローに雫は、楓君はやっぱり天使と感動を覚える。
「雫先輩」
「なぁに私の天使ちゃん。」
感動のあまり雫の心の声が漏れたようだ。
「天使?」
「な…なんでもないわ、どうしたの楓君。」
「今日のところはこれで終わりですか?」
「いいえ。二人にはこれから身体強化魔法を使った模擬戦をしてもらうわ。」
「俺と紅葉がですか?」
「いいえ、
「2対1でですか?」
「そうよ」
笑顔でそう答える雫に、それはあまりにも俺達のことを舐めてないか?、と思う楓、そこに更に雫は追い打ちをかける。
「二人とも
雫の言葉により、楓だけではなく紅葉もカチンと来たのか、場の空気が一気に張り詰める。
しかし、雫の顔は依然と笑顔のままである。
「後悔しても遅いですよ。」
「大丈夫、学園3位の実力を見せてあげる。」
「開始の合図は?」
「いつでもどうぞ。」
雫がそう言った瞬間、神樹姉弟は己の
((か……体が動かせない。))
それどころか、喋ることも出来なかった。
困惑する神樹姉弟に雫は
「動けないでしょ?、これが今の貴方達と私の力の差よ。どう、降参する?」
と言うが、そこは負けず嫌いの神樹姉弟。
それからしばらくの間、降参せずにどうにか動こうと試みる。
結局、神樹姉弟は降参するまで動くことは出来ず、それなりに自分達の実力に自信のあった神樹姉弟のプライドはズタボロであった。
「一体何をしたんですか」
自分達が何をされたのか分からなかった楓は雫に質問する。
「それはね、これよ。」
雫はそう言うと自らの腕と手を大きく広げる。
すると雫の手と手の間に細い糸のようなものが見えた。
「糸……ですか?」
「そう正解。これは私が魔法で創り出した糸を氣で補強したものよ。これで楓君達の体を縛ってたの。」
「でも、何も感じませんでしたよ。」
「それは、隠蔽魔法を使って糸を見え
卑怯……とは言えなかった。
神木流は実戦を想定した武術であるが故、奇襲、だまし討ち、使えるものはなんでも使う、だからこそ神樹姉弟は常に警戒を怠らない。
当然、今回の模擬戦が始まる以前、もっと言えば自宅の部屋を出てから警戒をし続けていた。
それなのに雫の攻撃に気付くことすら出来なかった。
「どう?魔法の怖さは分かったかしら?」
神樹姉弟は頷くことで肯定する。
「分かったみたいね。今日の魔法の授業はここまでよ。これからも厳しく行くから覚悟してね。」
最後に雫は笑顔でそう言った。
〜〜〜〜〜
神樹姉弟は鏡花の屋敷を出て帰路についていた。
「なんか今日はマナの巫女とか、魔法とか、色々濃かったね。」
「そうだな……。」
「雫先輩……、本当にすごい人だね。」
「そうだな……。」
「私達、雫先輩みたいに成れるかな?」
「成るだけじゃ駄目だろ、超えないと。」
「そうだね……。あぁー!明日から頑張るぞ!」
そう言って自身に喝を入れる紅葉。
楓もそんな紅葉を見て、強くなるのだと固く決心したのであった。
「そういえばコウ君は?」
「あ゛、忘れてた。」
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