第4話 時代は刻々と変わっている
最近、電子部品、特に半導体が入手し辛くなっている。納期問い合わせに対し、無回答の業者もいるし、回答があっても無回答に等しい内容も多く、9ヶ月掛かるなどという物もある。
商社の知り合いに訊ねたところ、それには複数の要因が絡んでいるとの事であった。
先ずは、肝心のウェハー供給が足りないらしい。コロナによる需要落ち込みを懸念し生産調整をしていたところへ、意外な需要が持ち上がっているためのようだ。
意外な需要とは、コロナによりリモート会議が増加、至るところでサーバーが過負荷状態になり、サーバー入れ替えや増設を余儀なくされているらしい。そのための電子部品供給に、各社追われているとのことだった。
そんな中、思いの外自動車業界の立ち直りが早く、そちらからも車載用半導体を強烈に催促されているらしいが、全く追い付けていない。
元々車載向けは、各自動車会社の落ち込みを予測し、前工程からしっかり生産調整を始めていたのだ。
半導体は、そもそも製造の足が長い。仕込みから製品出荷まで、半年は掛かる。それを急にくれと言われても、物理的に対応できないのだろう。
最近の半導体は、自前でハブを持たず、外部へ製造委託するケースも増えている。それが台湾の、ある有名企業に集中している事も、生産が追い付かない理由として上がった。
長期化するような深刻な問題ではないらしいが、今の要求に対応するのが大変なようだ。
こんな風にコロナの影響は、意外なところへ及んでいる。大きなオフィスが不要になったというのも、その一つだろう。
これまで当たり前だった会社への出勤、同じフロアの上で一緒に働くという事が、見直されつつある。これで5Gが完全普及すれば、実際に顔を合わせて仕事をするのと変わらない好環境を、リモートでいつでも実現できるようになっていくはずだ。
リモートでも問題ないことが分かれば、出勤不要、顧客との会議もリモートとなり出張も減る。
これで影響を受けるのが、輸送カンパニーやホテル業界となる。
通勤の足となる電車、バスは需要が減少し、現在計画されているリニア新幹線は、本当に必要なのかと言われ始めている。航空会社は、一部あるいは会社全体を統合しないと、この先成り立たないのではないだろうか。そして首都圏を中心とする不動産関係にも、影響が出ると言われる。オフィスの在り方が見直されているからだ。
仮にオフィスが縮小すれば、警備会社にも何らかの影響が出るという具合に、こうした変化に合わせて、また何かが変わっていく。
おそらくこの5年や10年は、ビジネス環境が目まぐるしく変わり、目に見える変化が起こっていく。
このようなコロナ渦の影響以外、潜在的な改革の流れみたいなものがある。日々技術革新が進んでいれば当然だが、そこへ規制という外圧が加わる事の影響も大きい。
ハードの世界では、益々半導体優位になりそうで、バッテリーのような基幹部品、センサー類、通信機器も注目すべき分野となる。ソフトではAI等が頭角を表しそうな予感がある。
当面のメジャーキーワードは、エネルギーとITらしいが、AIはITと密接に関わり合う。
エネルギー関連で騒がれている筆頭は、自動車業界と電力業界だろう。
これまでの内燃機関は駆逐されていく運命らしいが、各自動車会社は、電気自動車へ舵を切る事を模索している。いや、これをやらないと車を売れなくなるのだから、実現は必須だ。
こうなると、石油資源に携わる会社は大きな影響を受けるだろうし、自動車の部品メーカーにとってもただ事では済まない。
電気自動車の部品がこれまでのエンジン車と大きく異なるのは当たり前だが、全体の部品数が、大幅に減るようだ。
構造がシンプルになれば技術的な参入障壁は下がり、大手ITメーカーが、想像を絶する自動運転搭載の電気自動車を売り出す可能性は高い。実際A社やG社が具体的な動きを見せているし、日本のT社は、G社の驚異を臆面もなく語っている。
少し前、携帯は北欧のN社が圧倒的に強かったが、スマートフォンの誕生で、携帯メーカーの勢力図はまたたく間に塗り替えられた。
そんな事をいくつか目の当たりにすれば、自動車の世界に同じ事が起こらないとは限らないと考えるのが普通である。
よって各自動車メーカーは、コネクテッドカーの取り組みも顕著であり、実際市場へ出回っている製品には、既に実現した多くの機能が搭載されている。
コネクテッドとは、車とインターネット世界の接続により、様々な便利で安全に寄与する仕組みを取り入れた車だ。
今後電気自動車が主流になれば、ガソリンスタンドはどのようなサービスを提供すべきか、よくよく考えておかなければならないだろう。実際この業界は、既にじわりと変化を遂げている。例えば日本国内のガソリンスタンド数は、全盛期に比べて半数になっている。理由は規制や法律の変化、若者の車離れ等も関係しているが、車両側の改善、改革によるガソリン需要の落ち込みも関係なくはない。
軽自動車メーカーは、大型バッテリーの搭載スペースと居住空間の両立に頭を痛めているらしい。居住空間を広く取る事で需要を開拓してきただけに、この問題は軽自動車メーカーにとって大きな問題となる。解決策を見いだせなければ、廃業へ追い込まれる可能性もある。
しかし、そこへ小さな高効率バッテリーを持ち込めば、商談成立は難しい事ではない。
つまり、そうしたチャンスが、どこにでも転がっている時代がやってくるとも言える。
電力については、風力、水力、波力、地熱、太陽電池などの活用が、積極的になっていきそうな気配だ。
エネルギーミックスの掛け声の元、火力発電の割合は、全体の50%強が目標となっている。しかし火力の中で石油の割合は現在でも少なく、石炭と天然ガスが主流だ。石油の比率は、今後益々引き下げられる。
このような潮流は、やはり石油資源を取り扱う国や会社に、大きな影響を与える。大手石油メジャーは、試練の時代を迎えている。
ITは言わずもがなで、既に色々なサービスが提供されている。
かつてCDの登場によりレコードが消えてしまったが、現在は音楽ストリーミングサービスで、CDを購入する必要がなくなった。4Gサービスで、常にストリーミングサービスを利用できるため、音楽データをセーブしておく必要もない。これが5Gになれば、サービスは益々多様化していく。
キャッシュレスの時代も、既に身近に到来している。キャッシュレスと言えば、単純に支払いを思い浮かべるかもしれないが、サービスの可能性はその領域にとどまらない。
例えば個人間取り引きや、オフライン決済など、まだまだサービスの可能性が広がっていく。国際間も含め個人取り引きが自由にできるようになれば、銀行の重要度は減る。もしかしたら、全てが仮想通貨決済になり、銀行は不要になるかもしれない。キャッシュレス化の広がりで、現在のメジャーカード会社も、何らかの対応を考えておかなければならないだろう。
これだけ個人にインターネットが行き渡ると、一つの特異なサービス登場で、現在の勢力バランスが、一瞬で塗り替えられる可能性は高い。
それ以外にも、全ての物(例えば家電、車、家のセキュリティシステム等々)をインターネットで繋げて、AIで効率よくコントロールする事や、AIを活用した投資アプリ、自動運転システム、インターネットセキュリティ等、世の中で考えられている新しいビジネスが無数にある。
新しい世界が開拓され普及すれば、そこにまた、新しいサービスの要素が生まれ、可能性が広がる。
そして、そうした可能性に、積極的に投資しようという気運も高まっている。
日本は小さな島国でありながら、世界3位のGDPを誇る国だ。これは戦後の経緯と人口数といった条件を考慮すれば、驚異的な事かもしれない。
ただし、昨今の目まぐるしい変化に対応できなければ、あっという間に取り残されてしまうだろう。そうなれば日本経済は、現在の財産を食いつぶした後に、下降線を辿るばかりとなる。
これまでの国内メジャー会社の一部が衰退を見せ始めている中、指をくわえてじたばたしているだけでは、手遅れになる。
こうした変化に頭がついていかない経営者は、直ぐに退いた方が、社会のためかもしれない。
これは、政治家も同様だ。判子撤廃、ドキュメントのデジタル化などと騒いでいる場合ではない。新しいビジネスの下地を、法律も含めて整備するのが急務となる。せめて銀行の硬直化は、どうにかしなければならないだろう。
日本はどこへ 秋野大地 @akidai
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