#5
「……星奈?」
徹が私の顔を覗きこんでいた。
「え、ああ。うん。どした?」
「どした?じゃないよ。ぼーっとして。なんかあった?」
「そうだな、色々あったよ。」
徹といつもデートで使う公園。座り慣れたベンチ。隣に徹がいることが、徹とここにいられることが、何よりも嬉しい。
スッキリと晴れた空を見上げる。上を向いていないと涙がこぼれてしまいそうだ。
「色々?」
不思議そうにする徹。それもそうか。さっきまで話していたのに、急にこんな態度になっちゃったら驚くよね。
「そう。色々。」
「話してくれる?」
「うん。その前にちょっとだけ大事な話。」
「大事な話?」
「うん。」
伝えたいとずっと思っていたこの想い。
「あのね、徹。愛しているよ!」
徹は目をぱちくりさせていた。
「うん。わかってる。俺も愛してるよ……って、星奈?なんで泣いてるの?」
堪えてなんていられなかった。決壊してしまったダムみたいにドバドバと涙が出てくる。視界が滲んで何も見えなくなる。
「あのね、あのね、言いたいこといっぱいあって。ちゃんと言わなきゃいけないことなの。それでね、だから……。」
──ぽん。
頭の上にあったかい手が置かれた。涙を拭って前を見ると、徹が優しく笑っている。
「ゆっくりでいいよ。」
そう言うと、あやすように私の頭を撫で始めた。私は一つ頷く。そしてゆっくり息を吸って、吐いた。
「徹、詩乃のことが好きなんだよね?」
「えっ……。いや、でも、星奈も好きで、詩乃はなんというか。」
「いいから聞いてて。」
「うん。」
「私、詩乃みたいに可愛くないし、全然女子力もないよ。それはわかってる。でもね、徹を好きでいる気持ちは負けない。徹のこと一番好きなのは私なの。ずっとそうでありたいの。だから、他の子のとこなんて行かないで。私がずっとそばにいるから。だから、私だけを見ていてよ。」
強く、強く抱きしめられた。
「ごめん。」
「ずっと一緒に居てほしいの。私以外のところ行って欲しくないの。」
「俺、ちゃんとここにいる。俺は、星奈の隣にいる。」
「うん。徹のこと、離したりしないんだから。」
そう言って、徹の背中に手を回し強く抱きしめた。徹のあったかさが胸の奥まで染み込んでくるようだ。
「大好きだよ。愛してるよ。ずっとずっと一緒にいたいよ。離れたくなんかないよ。だから、だから……っ。」
鳴き声を我慢することが出来なくなってしまった。わんわん泣いた。涙が後から後から溢れ出す。顔が涙でぐちゃぐちゃになるのも気にせずに泣き続けた。心の奥底から溢れ出した感情と、言葉にならない言葉が、涙となって流れ出る。
どれくらい泣いたのだろうか。ようやく落ち着いてきた頃には太陽が西に傾いていた。
「落ち着いた?」
こくん、と頷く。
「何があったか、話してくれる?」
もう一度、頷く。
「パラレルワールドってわかる?」
「SFでよくあるやつだよね?」
「そう。あれ、ほんとにあるんだよ。この話嘘なんかじゃないから。」
「ちゃんと聞くからさ、話してよ。」
さて、どこから話そうか。やっぱり最初から話さないといけないのだろうな。でも最初にひとつ言えることがある。
「うん。私、いろんな世界に行ってきたの。私が徹に振られた世界もあったし、私立ちが出会わなかった世界もあった。付き合わなかった世界もあったし、徹が詩乃と付き合ってる世界もあった。でもね、どの世界に行っても私はずっと徹のことを想ってたの。ずっとずっと好きなの。だから今私がここにいるの。」
徹の手を取って話し始める。
「これは、私が徹の隣にずっと居たいっていうわがままから始まった話なの。だからもう一度言わせて。」
一息置いて笑っていう。
「徹、愛してるよ。」
さあ、物語を語り始めよう。
あなたに贈る愛で始まり、愛で閉じる物語を。
長い、長い物語を。
鏡の向こう側で 天野蒼空 @soranoiro-777
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