第12話 私の初恋はまだ続いている
もうすぐで、私たちが乗っている観覧車は中間地点である頂上を通ろうとしていた。
アオくんのおかげで、私は誕生日に最高に幸せな時間を過ごすことができた。
そんな楽しい一時もあと少しで終わってしまう。
伝えよう。
この幸せな時間が終わる前に、私の想いを全力で彼にぶつけよう。
「「…………………」」
私たちは夕日に照らされながら、お互いに見つめ合っていた。
今思えば、私がアオくん以外の人に恋心を抱いたことはなかった。
ずっとアオくんのことだけを想ってきたから。
アオくんと出会ってから今日まで、私の初恋はまだ続いている。
辛かった時も、悲しかった時も、嬉しかった時も、どんな時だって、気が付くと私の隣には必ずアオくんがいた。
最初は泣き虫で私だけを頼っていたアオくんが、いつの間にか私が彼を頼る側になるくらいに男らしくなっていた。
私の話をいつも最後まで聞いてくれたり、私が悲しんでいるのを気づいて笑わせてくれたり、困っていることがあればすぐに助けてくれた。
かっこよくて、優しくて、頼りになる男の子。
私はそんなアオくんのことが────────
「「 好きです 」」
ついに言った。
と思ったら、その言葉には私の声とは似ても似つかない男らしい低い声が入り混じっていた。
「「 え…………? 」」
今、被った?
「アオくん、今なんて言ったの……?」
「佳奈こそ…………」
あまりの驚きに、お互いに呆然と見つめ合う。
そしてしばらくした後、私たちは思わず吹き出して笑った。
「じゃあもう一度、俺から先に言わせて」
アオくんは一度深呼吸をして、私の方に穏やかな目を向けた。
「俺は佳奈のことが好きだ。十年以上前からずっと」
顔全体が熱くなる。
今までに味わったことがないような嬉しさが、体の底から込み上げてくる。
自然と出た涙が、静かに頬を伝う。
「じゃあ、今度は私が言うね」
私は涙を拭き、笑みをこぼしてアオくんの目を見る。
「私もアオくんのことが好き。十年以上前からずっと」
私とアオくんが恋人同士なのかどうかの答えは、「好き」という言葉を聞いただけで十分に分かった。
私たちはお互いに引かれ合うように顔を近づけ、そっと目を閉じ、唇と唇を重ねた。
あぁ、これがキスか。
沈黙した空間で、柔らかな感触と共に時間がゆっくりと流れていく。
この時をずっと夢に見てきた。
アオくんの私を想う気持ちが、十分すぎるほど伝わってくる。
こんなに幸せでいいのだろうか?
当たり前だけど、私には今までにも誕生日があった。
そう、今日は十六回訪れた誕生日のうちのたった一回でしかない。
だけど、こんなにも充実した時間を過ごした日は、今日が初めてだ。
アオくんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
「っ………………」
アオくんの唇が離れ、私は閉じていた目をゆっくりと開けた。
「「………………」」
お互いに目が合う。
私は急に恥ずかしくなり、目を逸らした。それは、アオくんも同じだったようだ。
私は自分の唇を手で触った。
彼の唇の感触と温もりが、まだはっきりと残っている。
「ずっと不安だった…………」
突然、アオくんはそんなことを言った。
私は彼の方に再び視線を向ける。
「俺たちは本当に恋人同士なのか、ずっと確かめたかったんだ。だけど今日、やっと知れた」
「うん」
私は深く頷き、彼の顔を見つめながら「アオくん」と呼んだ。
そして私は満面の笑みを浮かべて、こんなにも幸せな時間をプレゼントしてくれたこの人に感謝の言葉を口にした。
「今日はありがとう。大好き!」
アオくんは顔を赤らめて手で顔を隠し、小さい声でこう言った。
「ど、どういたしまして…………」
私は照れているアオくんを可愛いなと思いながら、しばらく見つめていた。
本当にありがとうね、アオくん。
♢ ♢ ♢
「ん〜楽しかったぁ〜!」
観覧車を降りたあと、私は盛大に背伸びをした。
「満足してもらえたようでよかった」
「アオくんには今度何かお礼しないとね」
「いいよそんなのは。俺が佳奈の誕生日を祝いたかっただけだから」
「そういうところがイケメンなんだよ、アオくんは」
私がアオくんを褒めると、彼は満更でもない様子だった。
「佳奈」
「ん?」
アオくんは唐突に私の名前を呼び、ポケットから小さな箱を取り出して私に差し出してきた。
私はそれが何なのかわからないまま、箱を受け取った。
「何これ?」
「俺からの誕生日プレゼント」
「えっ」
思いも寄らないサプライズに、私は呆気にとられてしまった。
「……いや、でも、遊園地に連れて行ってくれて、ぬいぐるみも買ってもらったし、アオくんからは十分いろんなものを貰ったよ」
「それはそれ、これはこれ。いいから、開けてみて」
こんなにたくさん貰っていいのだろうかと思いながらも、私は言われるがままにその箱を開けた。
そこには、淡い朱色の金属でできたネックレスが入っていた。
私がそれを見て呆然としていると、アオくんは服の中から箱の中のネックレスと同じものを取り出した。
「俺とお揃いだな」
アオくんはニッと笑って、首にぶら下げているネックレスを見せてきた。
その無邪気な子供のような笑みにつられ、私は顔を綻ばせた。
「こんなことされたら、もっと好きになるに決まってるじゃん」
私は箱からネックレスを取り出し、早速首につけた。
「すごく似合ってる」
「ありがとう」
ただの幼馴染の関係だったら、普通はここまでしてくれないだろう。
だけど────────
私たちは付き合っている。
今日は、それが実感できる一日だった。
「それじゃあ、もう遅いし帰ろうか」
「うん」
私は頷き、アオくんの隣に並ぶ。
「はい」
すると、アオくんが左手を私の前に差し出してきた。
私は何も言わずにそっと彼の手を握り、手を繋いだまま自分たちの家へ帰った。
♢ ♢ ♢
あの日以来、私とアオくんの距離は確実に近づいた。
「夏休み、アオくんはどこに行きたい?」
「そうだなぁ……やっぱり定番の海かな」
ある夏の日の放課後、私たちは教室に残って夏休みのデートプランを考えていた。
「私は海よりプールの方がいいかな。海だと体に砂が張り付くから嫌なんだよね」
「プールか……うん、じゃあそれにしよう」
「え、いいの?プールより海の方がいい理由とかがあったらちゃんと聞くよ」
「いや、どっちでもいいよ。佳奈の水着姿が見られれば俺はそれでいいし」
「あぁ、それが目的だったんだ…………アオくんのエッチ」
「彼女の水着姿を見たいと思うのは、彼氏として当然だと思うんだけど」
アオくんの口から出てきたフレーズに私は思わず反応してしまい、顔を赤らめた。
「今の体型にあまり自信ないから、当日アオくんは目隠ししてね」
「それじゃあ水着姿見れないし、泳げないじゃん…………」
「うそうそ、冗談」
今からダイエットしないとなぁ…………。
まぁでも、頑張れる気がする。
「じゃあ、アオくんのために新しい水着買っておこうかな。当日楽しみにしておいてね」
「ああ、首を長くして待っておくよ」
私たちはお互いに見つめ合い、くすりと笑った。
「じゃあ、プールに決定ね」
私はかばんから手帳を取り出し、そこに予定を書き込んだ。
「あ、俺もうすぐバイトだからそろそろ帰らないと」
「あぁ、そうだね。じゃあ、帰ろっか」
私たちは荷物を整えて席を立った。
「はい」
アオくんは、いつものように左手を私の前に差し出してきた。
私はその彼の手をいつものようにそっと握る。
そして、私たちは手を繋いだまま通学路を並んで帰った。
どこにでもいるカップルみたいに。
私──水篠佳奈には彼氏がいる。
その相手は──────
「アオくん」
「ん?どうした?」
「これからもよろしくね!」
アオくんと一緒なら楽しいことが待っている。
そんな予感がした。
俺/私の初恋はまだ続いている ムラコウ @kakeru01
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