第11話 俺の初恋はまだ続いている

「え、デートに誘えたの!?やったね蒼生くん!おめでとう!」

「ありがとうございます」


バイト先のファミレスに着くや否や、俺は休憩室にいる美香さんに顔を出し、今日の出来事を説明した。


「これも全て美香さんのアドバイスのおかげです」

「私は大した事してないよ。そのほとんどは、君自身が頑張って勝ち取ったものなんだから」


美香さんにそう言われ、本当に佳奈と遊園地に行けるんだなという実感が強くなった。


「そっか、俺はやっと…………」


たくさんの喜びが込み上げてくる。

自分が今どんな表情をしているのか、鏡を見なくても分かる。


「すごく嬉しそうだね。佳奈ちゃんのことがどれだけ好きなのかが伝わってくるよ」

「明日が来るのをずっと待ち望んで働いていましたから」

「蒼生くん、私と一緒に帰る時も佳奈ちゃんのことを楽しそうに話してたもんね」

「そうでしたね。本当に明日が楽しみです」


俺は更衣室で店員の制服に着替えた後、休憩室のドアノブをひねった。


「それじゃあ俺、接客してきます」

「蒼生くん」


休憩室を出ようとした時、後ろから美香さんに呼び止められた。


「明日、楽しんできてね」


美香さんはそう言い、俺は大きく頷いた。


「はい!」


いつもと変わらない明るい風景のファミレス。

でも、俺にとってはいつも以上に明るく、それこそ眩しいくらいに輝いていた。




   ♢   ♢   ♢




ついにこの日がやってきた。

俺は佳奈の家に到着すると、震える手を抑えながらインターホンを押した。


『はーい、今行くね』


しばらくすると扉が開き、中から佳奈が出てきた。


「お待たせ、アオくん」

「…………っ…………!」


俺は彼女の姿を見て、思わず目を見開く。


「この前に買った服を来てみたんだけど……ど、どうかな?」


佳奈は白のブラウスに黒色のフレアスカートを纏っていた。

思えばここ最近、彼女の制服と部屋着の格好は見てきたが、外出着はしばらく見ていなかった。


「お、おう……か、可愛いな…………」


俺がそう答えると、佳奈は顔を赤くして下を向いた。


「あ、ありがとう…………」

 

ちくしょう、可愛すぎだろ。

俺、遊園地に着くまで保つかな……………。


「と、とりあえず、行こうか」

「あ、うん、そうだね」


そうして俺たちは、二人で電車に乗って遊園地に向かった。

休日ということもあって、遊園地は子供連れの家族やカップルで溢れ返っていた。


「すごい人の数だな…………」

「ここ人気だもんね。私、初めて来たから今日はすごく楽しみ」

「そうなのか。じゃあ、期待に応えられるようにちゃんとエスコートしないとな」

「頼りにしてるよ、アオくん」

「ああ、任せろ!」


俺は入場口で貰った遊園地のマップを広げ、現在地を確認する。


「ここから一番近い乗り物はこれだけど、佳奈は何に乗りたい?」

「うーん……アトラクション、いっぱいあって迷っちゃうね」

「何でもいいよ。ここから遠く離れたやつでもいいし」

「…………あ、私、これ乗りたい!」

「どれどれ…………げっ」


佳奈が指差した場所は、この遊園地の名物であるジェットコースターだった。


「これ、相当怖いらしいけど、大丈夫なのか?べつに俺は大丈夫だけど」

「うん。私、絶叫系得意だから」

「そうでした…………」


俺は素直に諦め、佳奈の隣に並んでジェットコースター に乗った。

乗り物は容赦無く俺たちを揺らし、あまりの恐怖に俺は佳奈にしがみつきたい思いに駆られた。


「し、死ぬかと思った…………」

「アオくん、泣きそうになってたね。はい、お水」

「なってないから。ありがとう」


俺は佳奈からペットボトルを受け取り、ベンチに腰を下ろして水を口に運ぶ。

その様子を笑みを浮かべて楽しそうに見つめる佳奈。


「何?」

「アオくんと二人っきりで遊ぶの久しぶりだなぁって思ったの」

「あぁ、そうだな。そんな日に初っ端からかっこ悪い姿を見せちゃったな」

「アオくんはかっこいいよ」

「え?」


佳奈の言葉を聞き、俺は水を飲もうとしていた手を止めて彼女の方に視線を向けた。


「だって、私のためにバイトをして、ここに連れて来てくれて、私のことを優先して苦手なことを一緒にやってくれるんだもん。今のアオくんは、十分にかっこいいよ」


なっ…………。


心臓が凄まじい勢いで高鳴る。

何かの病気にでもかかってしまったかのように急激に顔全体が熱くなる。


「そ、そりゃあ、お前の誕生日だからな。俺は全然かっこよくなんかない」

「あ、もしかして照れてる?」

「て、照れてない!」

「うっそだぁ〜。顔が真っ赤だよ」

「周りの空気に当てられただけだよ」


佳奈さんは俺をからかって楽しんでいらっしゃるようだ。まぁいいけど。

俺は彼女が笑う姿を見て、微笑ましい気持ちになった。


「ほら、もう回復したから次行こうぜ」


俺は話を逸らし、佳奈を連れて出来る限り多くのアトラクションを回った。


「さっきのやつすごかったね」

「確かに。俺、今までのアトラクションの中であれが一番好きかも」

「私も一緒。次はどうする?」

「そうだな……。一通り回ったし、土産コーナーでも見に行こうか」

「さんせー!」


俺はマップを見て、土産コーナーがある場所へ佳奈を連れて行った。


「すごい!こういう所って見るだけでも楽しいよね」


そこには、この遊園地限定のお菓子やグッズが数多く揃えられていた。


「せっかくだし、何か欲しい物とかないか?」

「え?いいよいいよ、私が自分で好きな物買うから」

「今日くらいはカッコつけさせてくれよ。この日のためにバイト頑張ったんだから」

「…………じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言った佳奈は土産コーナーの中を隅から隅まで見て、一つの商品を手に取って俺のところに持ってきた。


「これ、買ってもらってもいいかな?」


佳奈が手にした物は、ここの遊園地のオリジナルキャラクターのぬいぐるみだった。


「いいよ」


俺はそのぬいぐるみを持ってレジで会計をし、佳奈に渡した。


「はい、どうぞ」


佳奈は俺からぬいぐるみを受け取ると、無邪気な子供のように明るい笑顔を浮かべてこう言った。


「ありがとう、アオくん!」


その彼女の表情を見つめながら、俺は喜びを噛み締めた。


「どういたしまして」


土産コーナーから出て辺りを見渡すと、外はすっかり夕焼けの色に染まっていた。

楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。


「ねぇねぇアオくん、最後にあれ乗ろうよ!」

「ん?」


佳奈が指差した方向を見ると、そこにはアトラクションの中で一際目立った大きな観覧車があった。


「ああ、そうだな」


俺たちは観覧車のある方に歩いて列に並んだ。

しばらくすると俺たちの順番が来て、二人で観覧車の中に入った。


「わぁ、見て見てアオくん!人があんなに小さく見えるよ」

「ほんとだ。俺たちが大きくなったみたいだ」


上へ上へと昇っていくに連れ、人の大きさが小さくなっていく。


「夕日、綺麗だね」


それを聞いて窓を覗くと、はっきりとしたオレンジ色の夕日が空に浮かんでいた。


「うん、すっごく綺麗だ」


夕日を眺めながら、静かな時が流れていく。


「…………………」


俺は佳奈の方に視線を向けた。

すると、彼女も俺の方に視線を向けていた。


「「…………………」」


お互いに目が合う。


今思えば、俺が佳奈以外の人に恋心を抱いたことはなかったな。

ずっと佳奈のことだけを想ってきたからな。


佳奈と出会ってから今日まで、俺の初恋はまだ続いている。


辛かった時も、悲しかった時も、嬉しかった時も、どんな時だって、気が付くと俺の隣には必ず佳奈がいた。

そして、彼女が側にいるとき、俺はどんなことでもやっていける気がした。

彼女はいつも笑顔を振りまいてくれた。

可愛くて、暖かい、ひまわりのような笑顔。

本当に可愛くてしょうがないんだ。今までずっとその笑顔に救われてきたんだ。



だから、俺はそんな佳奈のことが────────




「「 好きです 」」




夕日が、俺たち二人を穏やかな明かりで照らす。

俺と佳奈が乗っている観覧車は、とうとう頂上へと達した。




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