第10話 私はある決断をする。

アオくんから遊園地に誘われた。


「よ、よっしゃあぁああああ!!」


私がそれを了承すると、アオくんは無邪気な子供のような笑みを浮かべて喜んでくれた。私はチケットを両手に持ちながら、アオくんの様子を見て嬉しい気持ちになった。


「よかったぁ~。頑張ってアルバイトをして買った甲斐があったよ」

「え?アルバイト??」


私はその言葉を聞き逃さなかった。


「アオくん、バイトしてたの?」

「あぁ、うん。誕生日のお祝いのことはサプライズにしたかったから、バイトのことも黙ってた」


全然知らなかった。

私なんかのためにそこまでしてくれていたなんて。


「ほら、前に帰り道で俺が美香さんって人に声掛けられたことあっただろ?あの人、俺のバイト先の先輩なんだ」


アオくんからさらに驚くべきことを聞かされた。


「え、そうなの!?」

「う、うん…………そんなに驚くこと言ったか、俺?」

「じゃ、じゃあ、美香さんとはバイト先の先輩後輩以外の関係はないの?」

「ん?変なことを聞くな、お前。当たり前だろ」

「そ、そうなんだ…………」


つまり私は、早とちりをしていたというわけだ。

ほんと、バカだな私…………。


「あの人には佳奈の誕生日のことでたくさん相談に乗ってもらったから、感謝しないとなぁ」

「そうだったんだ……」


とりあえずよかった。美香さんはアオくんの彼女じゃなかったんだ。

あれ?だとしたら、アオくんは誰から最初にお揃いのものを貰ったの?

私はアオくんのかばんに付いているものに視線を向ける。


「イルカのキーホルダー、ちゃんとずっと付けてくれてるみたいだね」

「うん。お前から貰ったもう一つのお揃いも今でも家に飾ってるぞ」

「え?もう一つ?」


どういうこと?

私がアオくんにお揃いのものをあげたのって、この前が最初じゃないの?


「ほら、小さい頃にガラガラくじで俺が駄々をこねたやつ」

「ガラガラくじ?…………あ!!」


思い出した。

確かあれは、九年前にアオくんの家族と一緒にお出かけをしたときだ。

当時、子供の間ではきゃっぴーくんという、ゆるキャラが人気だった。

私もアオくんもそのキャラが大好きな一人だった。


「佳奈ちゃん、見て!きゃっぴーくんのぬいぐるみがある!」

「あ、ほんとだ!ねぇねぇお母さん、あれ欲しい!」


私の家族とアオくんの家族でショッピングモールに来ていたとき、そこではガラガラくじがやっていて、当選商品の中に小さなきゃっぴーくんのぬいぐるみがあった。

私はお母さんに頼んで二回くじを回した。

すると、運が良いことに両方当たりを引くことができ、私はぬいぐるみを二つ手に入れることができた。


「佳奈ちゃん、いいなぁ。よし!僕も絶対手に入れてやる!」


そう言ってアオくんも二回くじを回したが、両方とも白玉が出てしまい、ポケットティッシュを二つ貰っていた。

アオくんは明らかに落ち込んだ様子でそれを見つめていた。


「僕もぬいぐるみが欲しい。ねぇねぇお母さん、もう一回やりたい!」


アオくんはおばさんにお願いするが、それ以上は回すことはできなかった。

アオくんは泣きながらその場で駄々をこねていた。

私はそれを見ていられなかったので、ぬいぐるみの一つをアオくんに差し出した。


「アオくん、これあげる。二つもいらないから」

「…………いいの?」

「うん」


アオくんは私からそっとぬいぐるみを受け取り、それを嬉しそうな表情で見つめていた。




「あぁ、そんなこともあったね…………」

「懐かしいなぁ。あれも一応お揃いのものって言うよな」

「ごめんアオくん…………」

「ん?」

「私、あのぬいぐるみ、いらなくなったからもう捨てちゃった」


まさか、アオくんがあのぬいぐるみをまだ残しているとは思わなかった。

成長するにつれてきゃっぴーくんへの興味はなくなり、部屋を整理するときに捨ててしまった。


「マジか…………。それじゃあ、お揃いとは言えないな」

「本当にごめん」

「まぁいいよ。それでも、あのぬいぐるみは佳奈から初めて貰ったプレゼントとしてこれからも残しておく」


アオくんは、私が忘れていた思い出までもずっと覚えてくれていたんだ。

それなのに私は、確認もしないで誤解したままアオくんを避けてしまった。

最低だ、私。


「ごめんなさい……」


涙が溢れる。


「え、なんで泣いてるの?謝る必要ないって。あの古いぬいぐるみを未だに持っている俺がおかしいんだから」


私はしばらくの間、ずっとアオくんの前で泣いた。


これからは、アオくんを信じよう。

アオくんから逃げるようなことはもう絶対にしない。

そして明日は────



私はその日、ある決断をした。









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