ドラゴンライダー

あかいかわ

ドラゴンライダー(完結)

 どこかに間違いが潜んでいる気がする。


  *   *


 午後九時十九分。ダイニングはしんとしている。食器を片付けたテーブルの上にノートパソコンを広げ、わたしはその画面をじっと見つめている。ときどきマウスのホイールを転がす。お酒を飲みたい気分だけど、我慢する。じゃあ紅茶を、と思いついて立ち上がる。思い出す。ティーバックは切れている。買い忘れたのだ。座り直して画面を見つめる。ディスプレイの白い光。どこかに間違いが潜んでいる気がする。

 作品はもう出来上がっている。手直しもした。何度も読み返した。あとは提出用フォームを通してデータを送るだけでいい。午前中のうちにそれをしようとした。でも、何故か思いとどまって、最後のボタンを押さなかった。外へ出かけ、買い物をしながらふいに焦りのような気持ちに襲われた。まだ気づかないだけで、あの作品の中には何か致命的な間違いがあるんじゃないか。あのまま提出してはダメじゃないか。

 そしてティーバックを買い忘れた。

 家に帰ると息子が心配そうな顔で尋ねた。ママ、どうかした? 顔色が悪いと息子は言った。何でもないよと笑いながら答えつつ、わたしは動揺していた。心がざわついて、どうしてそんなにも心がざわつくのか、わからなかった。


  *   *


 昼食にそうめんを茹でた。

 食べながら息子は言った。おれ、明日から学校へ行くよ。夢中になってそうめんをすすっている素振りを見せて、息子はわたしと目を合わせなかった。うん、とわたしはうなずいた。一瞬だけのぞき見るように向けられた息子の視線。わたしは気づかない振りをした。

 半分ほど自分の皿を残して、これ以上食べられないと息子は言った。お腹いっぱい。残してもいいよとわたしは言った。小さくうなずいて立ち上がると、自分の部屋へ戻っていった。ゲームの続きをやるのだろう。

 わたしの分を食べ終え、息子の皿を手元に引き寄せた。箸を持ち、でもその動きは止まった。静止したまま、わたしはぼんやりと考え事をした。自分が何を考えているのか、よく理解していなかった。食欲はもうなかった。捨ててしまおうか。でも、結局無理してすべて食べた。気持ち悪くなって、洗い物もそのままにソファの上に寝転がって目を閉じた。そのうちに眠りに落ちてしまった。


  *   *


 息子はやせ型で、背も低い。

 食も細い。好き嫌いも多いが、それ以上に食べられる量自体が少ない。無理に食べさせても戻してしまう。同年代の子供たちがすくすくと大きくなる中で、ひとりだけ時間が止まったみたいに小さいままなのだ。

 ネグレクトを疑われたこともある。

 ある日児童相談所の職員が聞き取りに来た。

 何かが間違っているのだろうかと気を落とした。育て方に問題があったのだろうか。頑張ってきたつもりだった。でもそれだけでは足りなかったのかもしれない。わたしのせいで息子はちびすけのままなのかもしれない。ダイニングの椅子に座って目を閉じていると、いつの間にか息子がそばにやって来て、肩に手を触れた。振り返る。ママ、可愛い。目が合った息子は真剣にそう言った。目を逸らさず、笑みも浮かべず。わたしは微笑んで、爽太はカッコ良くなるよ、と答えた。表情を固くして、すぐに自室へ引っ込んでしまった。

 そのうしろ姿を見て、思った。ああ、本当にチビでガリガリなんだな。涙がこぼれた。もっと食べさせなくちゃ。少しの間、料理の勉強をした。効果は上がって、最近ご飯が美味しいと息子は褒めた。

 でも、残すのだ。これ以上食べられないと箸を置く。いいよ、残りはわたしが食べるから。息子は小走りに自分の部屋へ去っていく。ゲームの続きをしたいから? それもあるかもしれない。でもきっと、心苦しくてここに残れないのだ。

 その後も息子はちっとも大きくならなかった。

 どうしたらいいのだろう。答えを知りたいと思った。なんでもいい。仮にそれがわたしにとって致命的なものであったとしても、揺るぎない答えを知りたいと切に願った。


  *   *


 作品をもう一度読み返す。間違いを探すため。でもすでに、目に付く誤字や脱字はなくなっている。物語の中のどんな些細な矛盾でさえ取り払われている。もちろんこの短い文章の中に、大した矛盾は含みようがないのだけれど。

 それなのに不安は消えない。作品自体は気に入っている。それもすごく気に入っている。とても心地よい物語。所詮は若い頃夢中になったファンタジー小説の模倣にすぎないけれど、大好きなものをきっちりと込めることのできた、確かな手応えを感じている。わたしが夢見た世界が、ちゃんとそこに存在している。なかなかに満足のいく水準で。

 文章を目で追っている間は、満たされた気分になる。ドラゴンと少年。古い剣と牧草。水晶、夢に現れた少女。そういったモチーフが浮かび上がって、楽しくなる。それらと戯れているだけで心が躍る。細部の描写と遊びながら、物語はなだらかな起承転結を経てラストシーンに至る。少年と少女はドラゴンの背に乗り、敵のアジトから逃げる。迫る追っ手。手に汗を握る脱出劇。ようやく振り切ったところで、バランスを崩した少女がドラゴンの背から滑り落ちる。全力で追いかける少年とドラゴン。地面は近い。少年と少女、ふたりの伸ばした手が固く繋ぎ合わされる。少女は助かる。

 少女は助かる。

 それが間違いだとでも言うのだろうか? その結末が気に食わないから、何かが間違っているような不安に取り巻かれるのだろうか? ありきたりな、陳腐なお約束に反発しているとでも言うのだろうか?

 そんなはずはない。強くそう思う。わたしが作りたいのは心地よい世界なのだ。そんな場所があると想像するだけで楽しくなる、夢の世界。それを取り戻したいだけなのだ。

 落下して地面に直撃する少女。そんなものは要らない。どうしてそんなひどいものを、わざわざ作る必要があるのだろう?

 でも、それならなぜ、読み終えたあと得体の知れない不安に取り巻かれるのだろう?


  *   *


 最初は体調不良を訴えて学校を休む日が、ここのところ少し続くな、という程度の認識だった。

 兆候。

 息子は控えめに言っても体の丈夫なタイプではない。熱を出したり腹痛を起こしたりはしょっちゅうで、学校を休むことも、早退をすることも珍しいことではなかった。

 だから、見落としてしまっていた。確かに熱が出たりお腹が痛かったりしたのは事実だった。それを訴える息子の目に偽りの色はなかった。でもそれは、いっぽうで自ら望んで引き寄せていたことでもあった。息子の望みに体は応えた。そのことを見抜けないまま、何も手を打たず、事態は致命的なところまで行ってしまった。一週間学校を休み通したとき、わたしは初めて気がついた。何が起こっていたのかを。

 何度も学校を往復した。いじめのようなものは見当たらない。そんな担任教師の言葉を信じられず、自分で聞きまわってみたりもした。しかし何も見つからなかった。具体的な、確固とした原因のようなものはそこにはなかった。息子の体調はとっくに戻っていた。学校へ行きたくないと彼は言った。どうして? わたしの問いに、目をそらしたまま息子は答えた。意味がない。

 意味がない? わたしは腹を立てた。一日中部屋にこもってゲームで遊び続けていることに、それじゃどんな意味があるって言うの? 息子は目を潤ませて自分の部屋に戻った。内側からかかる鍵の音。その日は夕食も取らず部屋を出なかった。わたしはノートパソコンを開いてひとり画面に向かった。こんなことをしているときじゃない。何度も頭の中で繰り返しつつ、わたしの指は物語を紡いでいた。夢の世界。楽しいことの詰まった世界。誰にも邪魔されない別世界。

 翌朝息子は部屋を出て、朝食を食べながら小さな声で言った。おれ、今日学校行くよ。でも結局、登校時刻間際になって激しい腹痛が彼を襲った。目に涙を浮かべていた。無理しなくてもいいよとわたしは言った。大丈夫、無理しなくてもいいんだよ。


  *   *


 午後十時二十七分。ドアの開く音がする。軽いスリッパのステップとともに、息子がダイニングルームに入る。

 わたしの向かいの椅子に座る。そこが息子の定位置だ。手には携帯型ゲーム機。それに集中している振りをしている。でも本当は、声をかけてもらいたがっている。

 お腹でも空いた? ノートパソコンの画面から視線をはずし、横向きに座る息子を見る。別に。ゲーム機のボタンをカチャカチャ鳴らしながら、気のなさそうな声で息子は答える。でも内心、息を飲んだことがはっきりとわかる。小さな体がわずかに硬直する。ゲームを切る口実を探している。ああもう! 短く叫んで、顔をしかめる。ゲームの中でミスをしたことを大げさに示す。失敗を取り戻そうと、さらに忙しない指使いでボタンを鳴らす。でも結局ダメ。苛立たしげに電源を切る。全部演技。その手順を経てようやく息子はわたしと向き直る。午後十時二十九分。

 午後十時三十分。わたしはまたノートパソコンの画面を見つめる。白い背景に浮かぶ文字の列。何を書いてるの、と息子は尋ねる。小説。それに熱中している振りをして、わたしはポツリとそれだけつぶやく。どんな? 身を乗り出して問いただそうとする。わたしは小さく息をつく。ドラゴンが出てくるよ、と秘密を囁くように言う。主人公の友達で、その背中に乗っていろんなところへ冒険する。そんな話。

 椅子から立ち上がり、息子はわたしの隣へ歩み寄る。肩と肩をくっつき合わせて、ノートパソコンの画面を覗き込む。文字を目で追う。夢に現れた少女と初めて出会うシーン。少年が従えるドラゴンに少しも物怖じせず、少女は少年の目を見つめて夢と同じことをつぶやく。いつまでここにいるつもりなの? 外の世界は広い。あなたたちは旅立つべきなんだよ。

 ノートパソコンの画面を伏せる。少女のつぶやきを、息子が目にしたかはわからない。爽太も書いてみたら? すぐ間近の息子に声をかける。小説っていいよ。なんでも好きなことを書けるんだよ。

 おれには無理だよと息子は言う。ママは頭いいから書けるんだ。おれ、馬鹿だから、書けないよ。無理だよ。

 わたしの首に両手を回す。首筋に額をつける。ひんやりと冷たい。書けるから書くんじゃないよ、楽しいから書くんだよ。息子の髪を指で梳きながら小さくささやく。細くて、でも芯の通ったようにピンとした体温のない髪の毛。もしかしたら爽太も、書くのが楽しくなるかもしれない。

 おれはママの書いたものが読みたい。息子の声は不思議なほどよどみなく明瞭に響く。いいよ、わかった。その澄んだ声音に押されたというわけではないけれど、わたしはややためらいがちにそう答える。でも、明日まで待って。まだ完成してないから。明日になったらちゃんと完成してる。でもいまはまだ未完成の状態だから、見せられないんだよ。

 あるいは、どこかに間違いが潜んでいるから?

 首に巻きつけていた腕をほどいて、息子は起き上がる。わかった。じゃあ明日、学校から帰ってきたら読ませて。わたしは息子の目を見る。息子もわたしを見つめている。しばらく互いの目が合って、無言のまま見つめ合っている。


  *   *


 午後十時四十七分。ひとりきりのダイニングで、わたしはもう一度読み終える。固く繋ぎ合わされる少年と少女の手。それを察知し急上昇をするドラゴン。その背の上で、青ざめながらも笑い合うふたり。その手はまだ握り合わされている。

 これでいい。何度も自分に言い聞かせる。この結末でいい。これがわたしの望むものだ。そのいっぽうで声が聞こえる。嘲弄する声。これは真実じゃない。これは現実を書いていない。

 でも、嘘でもない。わたしは心の中で反論する。確かにこれは現実の世界じゃない。それでもわたしは、この世界を知っている。この世界の存在を、確かにわたしは知っている。

 現実を見なさい。その言葉が骨董品のように蘇る。思い出す。わたしは声優になりたかった。そのためにずいぶん練習も重ねた。荒唐無稽なファンタジー。あの世界がわたしの夢見る世界に一番近い気がした。そこに現れる登場人物たちに声を重ねること、声を授けること。夢の世界の最接近ポイント。そこにたどり着くためならなんでもできる気がした。わたしは夢見ていた。わたしはまだ少女だった。

 現実を見なさい。その言葉はさまざまな声音で、さまざまな人の口から吐き出された。わたしは戦った。でも十分じゃなかったのかもしれない。わたしは結局自分の成績に合わせた大学へ進学した。それは、世間の人が誉めそやしてくれるには十分なレベルの進学先だった。でもちっとも嬉しくなかった。わたしは工学部を専攻した。少しでも現実的な知識を得ようという、わたしなりのささやかな反抗だった。女子生徒は少なかった。その場所でわたしは、ほかの誰よりも現実的な知識というものを蓄えていった。

 いまではその現実的な知識が支えとなっている。研究室の指導教官が推薦状を書いてくれた研究職の勤め口は、息子を育てるのに十分な収入を与えてくれる。学生時代、夢をあきらめたわけではなかった。でもそれが実を結ぶことはなかった。その経験が、息子との生活の助けになるようなこともひとつもなかった。就職してしばらく経ち、わたしはノートパソコンに向かった。小説を書いてみよう。夢中になって書き進めた物語は、ひたすら何かの模倣だった。それでもわたしは、満たされるという感覚を久しぶりに味わっていた。

 声優はもう目指さない。現実も嫌というほど見つめている。

 そしてわたしは小説を書く。息子が生まれてもそれは変わらなかった、むしろ加速した。出来上がったものはあまり重要じゃない。夢中になってそれを書いている時間が、わたしには心地よかった。空を飛ぶ島、魔法使いの少女、古びた地図、幽霊船、超古代文明、邪悪な獣、伝説の勇者、何でも癒す薬草、魔界の帝王、果てのない洞窟、その奥に眠る秘宝。わたしは戯れていればよかった。その手触りを、心ゆくまで楽しんでいればよかった。

 それで何が悪いんだろう?

 静かなダイニングルーム。洗い物はすでに済んでいる。時計の秒針の音だけが、気づけば正確にこの静寂を刻んでいる。午後十時五十四分二十七秒、二十八秒、二十九秒。わたしはボタンを押す。夏祭り競作小説企画投稿フォーム。吸い込まれるようにわたしの作り上げたテキストデータは投稿される。八月三十一日。期限は今日。明日の一斉公開で、わたしの作品は特設ページにアップロードされるだろう。

 小さく息をつく。これでいいんだと言い聞かせる。飲み込めない不安の塊を胸のどこかに残したまま。


  *   *


 短い叫び声を聞く。

 立ち上がる。耳を澄ませる。秒針の音。午後十時五十四分四十九秒、五十秒、五十一秒。声はもう聞こえない。廊下へ出る。息子の部屋の前。ノックする。どうしたの、大丈夫? 返事はない。ドアノブに触れる。鍵はかかっていない。

 息子は歯を食いしばってベッドの上に横たわっている。顔をしかめ、両手はお腹のあたりを支えている。額に汗がにじんでいる。小刻みに震えている。何かを必死に耐えている。

 お腹が痛いの? とわたしは尋ねる。大丈夫だから。息子は振り絞るような、それでいてか細い声で答える。新たな痛みの発作に顔をしかめる。ベッドの空いたスペースに腰を下ろし、息子の髪を撫でる。温かい。少し湿っている。かける言葉を見つけられない。

 おれ、大丈夫だから。弱々しい声で息子は言う。こんなの、我慢してればそのうち収まるから。慣れてるから。朝になったら治ってるから。

 学校へ行かなくてもいいんだよ。できるだけ落ち着き払った声を心がけてわたしは言う。嫌なら無理して行かなくてもいいよ。

 ベッドに横になったまま、息子はぐりぐりと首を横に振る。大丈夫だから、おれ、学校に行くから。痛みの発作に体を震わせる。大丈夫。わたしは息子の腕に手を置く。明日学校へ行かなくても、ちゃんとわたしの小説は読ませてあげるから。

 おれ、ママを守らなくちゃダメだから! よく通る声で息子が言う。勇ましくもあり、痛ましくもあり、引き絞った弓の弦のような声。わたしの思考は少し止まる。そんな言葉は初めて聞いた。甘えることが仕事だと思っていた息子の、心底意外なその言葉。息子は芋虫のように丸くなる。痛みのためかはわからない。

 ちびすけさん。わたしは心の中でつぶやく。まだ逆でしょう。まだ、わたしがあなたを守らなくちゃならない時期だよ。わたしは軽く唇を噛む。それがいつ来るかはわからない。案外すぐに来るのかもしれない。男の子はきっとすぐに大きくなる。でもいまは、まだ、わたしがあなたを守るとき。

 物語が逆転する。

 少女は少年を助ける。バランスを崩した少年がドラゴンの背から滑り落ちる。全力で追いかける少女とドラゴン。地面は近い。少女と少年、ふたりの伸ばした手が固く繋ぎ合わされる。少年は助かる。少女の手によって。

 まだ、そういう時期でしょう?

 爽太のお腹が戻るまで、お話をしてあげようか。息子の手を握る。それに反応して、苦しげに顔を歪めながらも息子はわたしの顔を見る。その世界にはドラゴンがいました。わたしは話し始める。ある村に木こり見習いのジョルジュという少年がいて、彼の無二の親友は一匹のドラゴンでした。立派な翼を持っていて、とても大きくて、ジョルジュを背に乗せて飛ぶことができます。まだジョルジュがもっともっと小さかった頃、森の中で怪我をして動けなくなっている彼を見つけたのです。言葉が通じるわけではありませんが、ジョルジュはよく彼と話をしました。返事はできなくても、彼はちゃんとジョルジュの言っていることがわかるのです。悲しいときも、嬉しいときも、ふたりはいつもいっしょでした。


  *   *


 あなたを助けることができて良かったとカミアは言った。青ざめて、肩で息をして、その手はまだしっかりとジョルジュの手を握り締めている。もうダメかと思った、このまま墜落して、ぺしゃんこになっちゃうかと思った。怖かった。あなたを助けることができて、本当によかった。

 ありがとう、とジョルジュは言った。ジョルジュも肩で息をしていた。それでもカミアと違って、その表情は恐怖よりも悔しさが勝っていた。おれ、まだまだだな。こいつの背中から滑り落ちちゃうなんて。ずっといっしょにいて、いつも背中に乗ってたはずなのに。こんなんじゃ立派なドラゴンライダーになんてなれやしない。危うく死んじゃうところだった。

 ドラゴンは首をひねってジョルジュの顔を盗み見る。

 でも、カミアのおかげで生きている。ジョルジュはドラゴンの首を叩きながら力を込めて言った。だからもっと練習して、もっといいドラゴンライダーになるんだ。今日のやつらなんて簡単にやっつけられるし、もっと面白い場所にも探検に行ける。そして今度は、おれがカミアを守るんだ。今日のお返しをしてあげるんだ。

 まだ先のことになりそうだけどね。ようやく笑みを取り戻して、カミアが言った。でも、期待しているよ。ジョルジュはきっと、立派なドラゴンライダーになる。


  *   *


 あなたはきっと立派なドラゴンライダーになる。

 午後十一時二十三分。寝息が聞こえる。あなたの寝顔は安らかだ。もうじき九月一日がやってくる。墜落しても大丈夫。わたしが必ず助けてあげる。

 音を立てないように部屋を出る。ダイニングに戻り、ノートパソコンの画面に向かう。残り三十分と少し。テキストファイルを開き、文章に向かう。キーボードを鳴らす。まだ間に合う。

 静かな部屋に、その音だけがささやき声のように小さく響く。

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ドラゴンライダー あかいかわ @akaikawa

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