思考が散漫な猫

千木束 文万

思考が散漫な猫

 ボクは猫だ。

 いつも思うけど、人間は何に関しても意味を求めがちだと思う。

 別にそれが悪いとは思わないけれど。

 でもちょっと、ボクは普通の人間とは違うことをしてみたい。

 だから、既に明確な意味があるものに対して、別の意味を与えてみるという試みをしてみよう。

 あれ、でもそれって結局意味を求めているから、やっぱり普通の人間と変わらないや。やっぱや~めた。

 いや、待った。ボクが普通の人間と変わらないって、なんかおかしくないかな。

 ボクは猫であって人間じゃないんだから、人間と変わらないのは猫として普通じゃないんじゃないか?

 でも、ボクは他の猫たちとはコミュニケーションが取れないから、普通じゃないかどうかはわからないね。他の猫とは喧嘩するかじゃれ合うかしかしないから、そんなに細かな事は伝えあう必要はないんだもの。

 うん? そんなこともないか? だって他ならぬボクが猫だもの。

 猫であるボクがこの思考をできるんだから、他の猫たちも出来てトーゼンだね。

 ボクは猫。ボクは高度な思考ができる。だから猫は高度な思考が出来る。

 こういうの、人間は「だんだんノッポ」って言うんだっけ。

 でもこれってあんまり信用できないよね。

 だって、「ボクは猫。ボクの毛は茶色い。だから猫の毛は茶色い」ってことにもなっちゃうもん! そんなのアホみたい。まぁ人間なら「前提条件がうんちゃらかんちゃら~」って言いそうだけど。

 でも、全ての猫がボクみたいな考えが出来るとなると、今の猫界隈の問題はコミュニケーションのレベルが低過ぎるってことになるね。なにせニャーしか言えないんだもん。そりゃあ何言ってるかわかんないよ。

 あ~あ、人間みたいに自由に喋れないかな~。

 でも、猫が今のコミュ力のまま発達しないってことは、このままで問題ないってことなのかな? だって、おびえてるとか怒ってるとか、対猫の時は雰囲気で解るもんね。毛逆立ってるし、シャーシャー言ってるし。

 所詮猫は猫なんだ。考えてることは人間と同じだったとしても、喋れないから全身で表せることしかやれない。一種の縛りプレイだよね、これ。

 そんなこと考えてたらお腹すいてきたな。

 おい、そこの人間、メシくれメシ! なんか持ってんでしょ!

 いや、かわいいねぇ~じゃなくて。撫でなくて良いから。

 あ、どっかいっちゃった。まあいいや。こういうときは寝るに限る。

 そういえば、猫って日中ほとんど寝てるよね。猫のボクが言うのもなんだけど、寝過ぎじゃない? 人間に比べて効率悪いなぁ。人間なんていつの時間帯でも常駐してるのに。

 にしても人間は夜行性でもないのに、夜起きて何をしているんだろう。

 お喋りかな? ボクもお喋り出来たらいいな。ボクの思考が他の猫に伝えられないなんて、とても残念だよ。

 なにせ、だんだんノッポで他の猫も高度な思考ができることがわかってるからね。

 ……待てよ。それって、ボクが猫じゃなかったら成り立たないんじゃないか?

 ボクがもし猫外だったら、人間と同じ思考が出来るのはボクだけって事になるな。もしかしたらボクは猫じゃなくて人間なのか?

 でも肉球はあるし、毛もふさふさだし……。

 ハッ!そういえば人間は前世って概念があるって聞いたことがあるぞ。

 ボクの前世はもしかしたら人間だったのかも。

 って、そしたら今はただの猫じゃん。

 やっぱりボクはただの猫なんだ。

 でもよかった~、なんか安心した。

 そしたら、なんだか眠たくなってきた。

 ……ごろごろ…Zzz


―――――――


 ハッ! なんだか自分が猫になったみたいな夢を見ていた気がする!

 でも肉球もあるし毛もさらさらだし、やっぱり俺ってただのライオンなんだな。なんか安心した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

思考が散漫な猫 千木束 文万 @amaju

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ