1話.顔も知らない人たち

僕は知らない場所で目を覚ます。目を覚ました場所は僕の部屋。


意識が曖昧で、記憶も曖昧な状況でぼんやりしていると眠る前の事を


徐々に思い出す。そうだ、僕は知らない男に車に乗せられたんだ。でも


今いるのは自分の部屋。僕は眠っている間に助けられたのかな。


良かった、連れ去られたまま行方不明とか嫌だもんね。お母さんと


お父さんは心配したと思うし、目が覚めたって伝えに行かなきゃ。心配


かけてごめんねって謝らないと。


「あれ…?家じゃない?」


扉を開くと長い廊下が見える。廊下には10部屋以上の部屋の扉がある。


僕の家って1戸建てだけど、さほど広くない。家全体で10部屋あるか


無いかなのに僕が今見ている廊下には確実に10部屋以上はある。


僕の家じゃないなら僕の寝ていた部屋は何だ、丸っきり僕の部屋と同じだ。


言い表せない不安感を胸に抱き、僕は部屋から一歩出る。部屋から


出た瞬間に腕のあたりが震える。今まで気が付かなかったが左腕には時計が


付いていた。普通の時計ではなく、モニターのついたハイテクな時計。


「やあ、お目覚めだね!」


聞いた事無い声だな。ピエロに扮しているけど何か意味は無さそう。


「この映像が切れたら時計には地図が表示される。その地図に表示される


 場所に向かってね。」


僕へ一方的に指示をすると映像は切れてしまった。僕を勝手に知らない


場所に連れてきた挙句にこんな扱いは少し腹が立つな。でも指示を


聞かないと何をされるか分からないし行くか。


「おい、誰だお前。」


後ろから声を掛けられ吃驚する。バスに乗った時に居た他の人達かな。


いや、ピエロ側の人かもしれない。どうしよう、反応したほうが


良いかダメか分からない。


「なあ声聞こえてるんだろ?無視すんなって。」


後ろから伸びてきた手に肩を掴まれる。条件反射で後ろを振り向くと、


至って普通の男性が立っていた。明朗快活といった感じの男性で、


学校にいれば絶対人気者だろうなという雰囲気が漂う。


「ごめんなさい。無視するつもりは無かったんですけど、ピエロ側の


 人間だったらと思って。」


僕の目の前にいる男性は少し考える素振りを見せてから笑顔で僕に


返事してくれた。


「そうだな。俺もお前がピエロの仲間かと思ってつい怒鳴っちまった。


 悪かったな。」


気さくそうに話してくれて僕も心が少し落ち着く。彼に色々聞いて


みようかな。名前とか知らないし。


「あの、名前とか教えて貰えませんか?」


「俺の名前は水鳥 真翔だ。よろしくな。それと敬語は必要ない。


 仲良くしようぜ。真翔って呼べよな。お前の名前は?」


優しい人だ。何だか安心できる人に会えてよかった。先行きが不安で


仕方なかったけど、強張っていた心が緩んだ。


「僕は神崎 昇太だよ。」


僕が自己紹介をしてから、一緒に目的地に行こうと言って歩き始める。


僕の部屋に続く扉がある廊下は長く、学校の廊下以上に長く感じた。


「部屋の数を一応数えてみようよ。」


僕が言うと真翔くんは笑顔で了承してくれた。僕は廊下の左側にある


扉の数を調べた。ネームプレートが掛かっており、名前は


男の人ぽかった。扉ごとに形状など違っていて、手が込んでいる。


数え終わった頃、真翔くんが僕に駆け寄ってくる。


「こっちは数え終わったぞ。扉は7つだ。昇太は?」


僕の方も7つだった。互いに扉の数を伝えていると近くの扉から物音が


する。僕も真翔くんも身構えていると、扉から出てきたのは女性。


しかし、僕と真翔くんは身構えたままだった。扉から出てきた女性は


非常に背が高かった。僕は背が低い。真翔くんもお世辞にも背が高いと


言えない。180cmはあろう人を前にして硬直するのは不自然な


事では無かった。


「あんた達だれ?かなぴっぴに用でもあるの?」


一人称が謎な人だな。自分の名前が一人称の人は少なくない。


○○ちゃんとか自分で言う人もいるけど、かなぴっぴは初めて聞いた。


「あの、貴方は一体?」


僕は巨体に怖気付きながらも彼女に聞いた。きょとんとした後、


名前を教えてくれた。


「かなぴっぴの名前は極賭 金美。行く所があるからばいばい。」


階段の方へと歩いていってしまった。何というか自由な人だな。


今この状況であの振舞い方は中々出来ない。


「俺らも目的地に行くか。時計に表示されてる目的地は3階の


 最奥にある広い部屋だな。ここは5階みたいだ。」


極賭さんの歩いていった方の階段から3階まで降りて歩いていく


感じになるかな。エレベーター無いのが不便だな。今のご時世、


5階建てでエレベーター無い建物は役に立たないよ。2階建ての


事務所ですらエレベーターあるしね。


「それにしても広い建物だな。」


真翔さんの言う通りだ。普通のホテルでもここまで広くはない。


僕は自分の部屋があったからてっきり宿泊施設の類だと思ってた。


4階に来て見てみても、5階より少し狭いだけで中々に広い。


4階も少し探索してみるか。

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懺悔のクイズデスゲーム ゆうり @nononoeimaaaa

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