自分らしく。〜The way of life’s variety.

@gontarou

♯1 プロローグ

「……行ってきます」


 僕は、スニーカーの靴紐を結び終わると、大きな溜息を吐いて、何も入っていない鞄を肩に掛け、鏡を見て自分で自分を睨んだ。そして、重い玄関の扉を開けた。午前8時前。すでに陽は昇っていて、暖かな日差しが僕を照らした。でも、僕はうざったく憂鬱だった。










 

 僕は、堀田遥。性別違和を抱えている。

 僕には兄がいたこともあって、小さい頃から、遊び相手は男だった。遊びの内容も男っぽかったし、スカートだって履くことはなかった。両親も、男とばかり遊んでいた僕にたいして、男の子と遊びなさいと言うことはなかった。だから、違和感を感じなかったんだろう。

 自分の心の違和感に気づいたのは、小学4年生の頃だった。父親の仕事の都合で転校した。転校した先の小学校は制服を着ることになっていたから、店に買いに行った。店員から女児用の制服を渡された時に、僕は、どうしてもそれを着たくなかった。そんな拒否する僕を見て、店員も母親も戸惑っていた。

 結局、その日は何も買わずに家に帰った。

 夜になり、父親に「どうして女の子用の制服を着たくないんだい?」と、尋ねられた。



「僕は、男の子だから」


 どうやら僕は、性同一性障害、というものらしい。その頃は、障害って付いてるから、悪いものなんだろうなとしか、思っていなかった。


 小学校の間は、体格にそれほど差が出ないということで、学校に話を通して、男児用制服で通うことになった。スカートを履いて大人しくしてるよりも、半ズボンを履いて走り回る方が性に合っていた。居心地が良かった。水泳の時間は、適当な理由をつけて休んだ。


 中学生になると、学ランで学校に行くと言うわけにもいかなくなり、仕方なくセーラー服を着て学校に行くようになった。初めて履いたスカートだった。心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだった。学校にいる時の僕は、僕じゃないみたいだった。自分で精一杯だった僕は、友人を作るどころか、誰かに話しかけることすら出来なかった。それに、ずっと俯いていた僕に話しかける物好きはいなかった。だから、唯一の心の支えは、母親と父親、そして兄だった。


  

   そして、この春。

      僕は高校生になった。











 学校へと続く道を歩いていると、急に頭を後ろから叩かれた。


「……何」


「何じゃないだろ。俺をおいてくなよ。行き先は同じだったのに」


「僕がおいていったんじゃない。あんたが来るのが遅いだけだよ」


「意味は同じだろ。……後、今はいいけど、他人と話す時は、私、な」


「……分かってるよ、そんなこと」


 僕は、自分らしく生きることが出来ない。多分、この先もずっとそうだ。実際、今までもそうだった。男として生きたいと願ったって、僕の周りを鳥籠のように囲み、閉じ込める社会は、認めてくれやしない。

 春の、普通なら優しく感じるはずの太陽の光が、普通じゃない私には更に、うざったく感じた。









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