5ページ目 屋上開放作戦1日目

翌日、今日は朝の会議がないようなので始業の10分前くらいに俺は教室に到着し、自らの席に着いた。そしていつも通り読むかわからない文庫本を広げながら、周囲の人間の会話に僅かばかりの意識を向けた。俺よりも幾分かコミュ力が高い理高会メンバー3人はすでに実態調査に乗り出しているようだった。


「なぁお前らって屋上使えるようになったら、使いたいか?ほら、昨日屋上の話をしてるのを聞いたからよ!」


大介が朝から高めのテンションでそんな話をしているのが聞こえてきた。すると周りの男子連中が答えた。


「ああーそれか!いやー高校行ったら屋上行けると思ってたんだわ。けれど鍵かかってて入れなかったんだわ」

「昼飯屋上で食べようと思って数人引き連れていってみたんだけどね。もし使えるようになったら僕はそこで昼飯食べたいかな」

「屋上で友達と語り合うっていうのが俺のイメージしてた高校生活なんだわ。使えるもんなら使ってみてえな」


明るめの茶髪をしたやつ、爽やかイケメン、プラスetc.がそう答えた。何で最後のやつだけetc.かだって?だってあんま特徴ないもんな・・・。え、名前?そんなの知らねぇよ?高橋とか橋本とか京田だなんて。知ってるんだよな・・・人の名前を覚えるのは別にそんなに苦手ではないんだよ、俺。

 今度は碧の方に意識を向けてみると・・・


「ねぇっ!屋上って使いたいよねー!屋上でお昼とか憧れてたんだけどなぁー」


碧が周囲のやつらに輝くような笑顔でそんなことを聞いていた。男子諸君が息をのむ音が聞こえたわ。見事にだまされてやがるな。碧の言葉に周囲の女子たちも「碧さんわかってますねー!」とか「私もー!というか松山さんってそういう夢見がちなところもあるんだね!」などと返事をしていた。

 さて、次は緑谷だな。


「わたし、学園小説とか読んで屋上使える高校あこがれてたんだけど、うちは使えなくて残念だよね」


と大人しめの女子数人とそんな話をしていた。なんかあそこだけ空気がほんわかしてると感じるのは気のせいだろうか。多分それは緑谷が春に咲くたんぽぽのようなほんわかオーラを出しているからに違いない。うん、間違いない。恐らく彼女たちも同じ本好きなんだろう。「うん、私もー」とか「だよねー」などと相槌あいづちを打っていた。


 この感じだと少なくともこのクラスの生徒たちはどうやら屋上を使えるようになったら喜んで使うようだ。俺も誰かには聞いてみないとな・・・。と視線を巡らせてみたところ、なんということでしょう!自分の席で本を読んでいる少年を見つけました。ということで俺はゆっくり席を立ってそいつのもとに近づいて話しかけた。


「な、なぁ。お前って屋上使いたいと思うか?ほ、ほら、あそこらへんでそんな話してるだろ?」


俺は精一杯の笑顔でそう切り出した。相手は俺の目と不気味な笑顔に一瞬気圧されたようだったがそれでもちゃんと答えてくれた。


「あ、ああ。まぁな。ゆっくり本読める空間って図書室か誰もいない教室くらいだからな。というかお前、葵だよな?青山からお前も本好きだと聞いたぞ?何読んでるか今度教えてくれよ」

「お、おう。そのうちな。約束だ」


さっすが大介。こういうやつにも声かけてるし、しかも俺のこともちゃんと話してくれてるなんてな。心の友よー!なんてな。そういえば彼の名前聞いてなかったな。今の席はあいうえお順だから後で座席表で確認しとくか。


担任が入ってきたので俺は再び席へ戻った。はぁーたった1回のコミュニケーションでめちゃ体力を使っちまったぜ。しかし、具体的に何人が使いたいと言っているかアンケートのようなものをしなけりゃいけないのではないだろうか。生徒会や教師たちと話し合う説得材料として必要だと思う。数字が何よりも証拠になるときもある。その方法を考えないとな。そんなことを考えながら朝のホームルームを過ごしていた。


放課後。俺は少しだけあいつらを集めて、アンケートのことやその方法について話した。


「いいんじゃねぇか!」

「悪くないんじゃないかしら。今頃の若者に対しては特に有用ね」

「うん。いいと思うよ!」


ということだったのでさっそく実行することにした。しかしこれには先輩たちにもご協力をお願いする必要がある。それについては彼らがこれから所属する部活動の先輩方にみんながお願いしてくれるらしいのでそこは彼らに任せた。解散した後、みんなはそれぞれの部活に行くようだった。大介はバスケ部、碧は陸上、緑谷は美術部に。実は緑谷は小さいころから絵をかくのが得意だった。よくコンクールとかで入選してたっけ。

 俺はというと、学校の歴史やらを調べるため図書室へ向かった。そういえば俺、図書委員なんだよな。これから昼休みとか放課後とかも調べるのに使ってみるか。

1階に降りて図書室の扉を開けると、そこには数多くの新聞や資料が収蔵されていた。そしてその奥の扉を開けて進むと、椅子が置かれた読書スペースがあり、さらにその奥には所狭しと本棚が置かれていた。


「おお、すげぇな」


俺がそう感嘆の声を漏らすと、不意にカウンターの方から声をかけられた。


「こんにちは。何か用かな?」


俺が振り向くと、そこには少し青みがかった黒髪ロングの眼鏡をした美人がいた。校章バッジや上履きの色からして先輩のようだ。うっ、めっちゃきれいな人やん・・・じゃなくて。


「あ、あーちょっと訳あってこの学校の歴史を調べてるんですよ。それで、そういうのが載った本ってどこかなぁーって」

「ああ、それなら入り口入ったところと、一番右奥の棚にそれ関連の本があるよ。それにしても・・・どういう訳があるのかなぁ?聞かせてよ」


そう言って先輩は興味ありげに上目遣いで聞いてくる。しかもちょっと距離近くないですかね・・・


「い、いやちょっとこのことを話すのには承認がいるというか、なんというか」

「んー?そんな怪しげなことをしているのかいキミは?」

「そんなんじゃないですって。そ、その・・・」


散々渋ってみたのだが・・・。結局話してしまった。俺は親友と美人の先輩に弱いんです・・・。美人の先輩ってちょっと憧れるんですよねぇ。


「そっか。面白そうだね。私にできることがあったら言ってくれたまえ。この先輩が助力するから」

「あ、ありがとうございます。」


俺はそう言い残して調査を始めた。そして2時間ほどかけた後、カウンターの先輩に軽く挨拶あいさつをして帰宅した。あの先輩と委員会できるのか・・・やったぜ!


家に帰って自室に戻り、作ってくれた夕食を済ませるとさっそく仕事を始めた。まずラインとツイッターのサブアカウント、通称サブ垢を作った。アカウント名はもう分かっているだろうが「理想の高校生活実行委員会」の略称「理高会」である。この二つのアプリにはともに投票やアンケート機能がある。そう、思いついた方法とはこのことである。今や高校生なら誰でも知っているこの二つのアプリを使わない手はないだろう。メンバーのみんなには「これらのアカウントをフォローしてアンケートに答えてもらうようみなさんに頼んでほしい」と伝えてある。俺はラインでメンバーのみんなにメッセージを送り、その後アンケートを作成した。もちろん「屋上は使えるようになったら使いたいですか?」が質問である。


あとは経過を待つだけだ。ちなみに調査の方は特に重大な自殺事件などは見当たらなかった。これにはひとまず安心した。それにしても・・・


「ふわぁー。」


今日はいろいろありすぎて少し疲れた。ということで寝ることにした。明日は朝に会議をするしな。


時間はもう夜の11時をとっくに過ぎていた。俺は明日の準備をした後、ベッドに潜って就寝した。何だかんだでもうすぐ12時だった。

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俺たちは青い空の下で青臭く笑う 蒼井青葉 @aoikaze1210

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