4ページ目 屋上って使いたいよね

 そう言えば碧と大介の委員会について触れていなかったな。あいつらはともに運動神経抜群なので体育委員を選んだ。体育委員は体育大会の企画や運営をやるのであいつらに任せておけば平均くらいの運動神経しかない俺でも楽しめるものにしてくれるはずだ。まぁ中学時代に碧は陸上でその名をとどろかせていたし、大介はバスケ部のエースだったし。その選択に何の疑問もない。

 そして、その日の昼休み。俺は緑谷に聞きたいことがいくつかあったので外にある自販機前に呼び出した。呼び出したと言っても一緒に外に出たわけではないぞ?またクラスのやつらからあらぬ誤解をされても面倒だからな。


「そう言えば緑谷はどんなクラスにしたいと思っていたんだ?ほら、聞いてなかったからさ」

「あー、それね。決定自体にはそこまで異論はないよ。けれどね、」

緑谷はそこで言葉を一旦切って、そしてまたゆっくりと話し始める。

「わたしはね、葵くんが目立たなくなるようなクラスは望んでないんだよ?」

俺は一瞬驚いて目を見開いたが、またすぐに普通の顔に戻った。

「葵くんが人見知りしちゃうタイプだとかコミュニケーションが苦手なことも知ってる。けれど、誰より人のことをしっかり見ていたり、人の気持ちを考えすぎちゃうことも知ってるよ。でもね、だからこそわたしは葵くんのことをみんなに知って欲しい。いつも暗くて目つきが悪いだけの子なんかじゃないってことをね」


参ったな・・・。緑谷がここまで俺のことを考えてくれていたなんて。でも目つきが悪いは余計ですよ?何度も言うけどこれは生まれつきです!


俺は少し照れ臭くなったが、なんとか平常心を保って言葉を紡いだ。


「あ、ありがとう・・・。コミュニケーションに関しては俺もできる限りは頑張ってみるわ。」

「うん。わたしはね、会話が苦手な子がクラスで浮いちゃわないようなクラスにしたいんだよ。葵くんにも少しは頑張ってほしいけど、わたしたちも頑張るから。きっと碧ちゃんも青山くんも同じ気持ちだと思うよ」


そう言って緑谷はにっこり笑った。俺って幸せ者だな、と思わずにはいられなかった。多分、今の俺も少し笑っていると思う。ふと空を見れば、雲はまばらにあるものの、それでも十分にきれいな空模様だった。


ところで・・・


「そういえば緑谷、ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・いいか?」

「うん。何?」

「ちょっとだけ、髪、短くしたのか?」

俺がそう言うと、緑谷は顔をぶわっと赤くして早口に言った。

「べ、別に高校デビューとか、そんなんじゃないから!ほんとに。ただ・・・そう!気分だよ、気分!」

「お、おう・・・そうなのか」

今の俺の顔は気持ち悪い苦笑いを浮かべていることだろう。それにしても、そういうことなんですね。ええわかりましたよ、僕。緑谷・・・やっぱめっちゃ可愛いよな。


そして、その日の放課後。誰もいなくなった教室にて。多分、恒例になっている会議を始めた。


「えー、クラスの件はこれから頑張っていこうぜ!それで、今日は次のテーマなんだが・・・」

「ちょっといいか?」

「お、どうしたカズ?」

「屋上って・・・使いたくないか?」

俺がそう言うと、碧のやつが哀れな小動物をさげすむような目をして言ってきやがった。

「あら、もしかしてあなた・・・『あわよくば屋上で告白されたいな』なんて妄想を抱いてしまっているのかしら。本の読みすぎで現実とフィクションを混同してしまっているのね」

こいつ!まぁ確かにそんな願いがなくはないこともないわけではない。つまりあるんですよね・・・。しかしそんな願いからこの話を切り出したのではない。

「違うっつーの。今日の昼、飯食ってるときとか休み時間本読んでるときに小耳にはさんだことがあってな」


俺の持つクラススキル「人間観察」によって周囲の人間の動きを見たり、会話を少し耳に入れたりしていたのだ。これはクラススキルなので常時発動してしまっているのです。あと俺、観察者だし?


「『屋上でお昼ご飯たべたくなーい?』とか『屋上で遊ぶのって、なんかロマンがあるよな~』みたいな会話が聞こえてきたんだよ。正直言って俺も同意見なんだわ。お前がルーズリーフに書けって言った理想の高校生活の具体案?あれにも書いてある。けどうちの高校屋上立ち入り禁止だろ?」

「なるほどな。確かに屋上は気持ちよさそうだよな」

「そうね。私も一人になりたいときはあるからそういうときに一息つけるプライベートスペースとしては屋上は最適だと私も思うわ」

「うん、実はわたしも屋上に少し憧れちゃってるんだよね。屋上で本読めたら気持ちよさそうだなぁ」

「もしかして、全員理想の高校生活に屋上は必要って考えてるのか?ちょっと全員書いてきたルーズリーフ見せてくれ!」


大介がそう言ったので俺たちはお互いに書いてきたルーズリーフを見せ合った。そこには個々人の理想や願望がたくさん書き連ねられていたのだが、まぁそれはともかく、やはり全員の願望は同じようだった。


「けれど、屋上が立ち入り禁止になっているのには多くの理由があるはずよ。安全面の問題だったり、そもそも人が出入りするために作ってあるかどうかの建築上の問題だったり、そういうものがあるでしょうね」

碧の言葉に俺はうなずく。

「ああ、俺もそれは思った。これから屋上開設に向けた動きを進めるなら生徒会やらなんやらと話し合ったり、過去の自殺事件はなかったかを調べたりとやることは多いとは思う」

ちょっと・・・いやかなり面倒くさい。

「となると、まずは実態調査が必要だな!どれくらいの生徒が屋上を使いたいと思っているか。先輩たちも含めて聞いてみないとな。ただ・・・カズ、お前ちゃんと聞けるか?」

「ああ・・・まぁ大人しそうなやつら何人かには・・・聞いてみる。そこらへんのことは多分お前らにほとんど任せきりになっちゃうと思う。悪い。ただ調査の方は俺が頑張ってみるから」

「私はあなたの性格については熟知しているつもりよ。無理はしなくてもいいから私たちに任せておきなさい」

碧は常よりも穏やかな口調でそう言って、薄く微笑んだ。そしてその言葉に俺以外の二人も穏やかに微笑んだ。


「よし!じゃあみなさんそういうことでよろしくっ!今日は解散!」


大介がそう言って会議をしめると、みんなそれぞれ部活動の見学に行くようだった。俺は特に入るつもりないしな。


「帰るか」


太陽はすでに西へ傾きつつあるようだった。そして明日から屋上開放作戦が始まるのだった。

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