第2話

扉を開くと暖かな風が彼女の頬をかすめ、髪を揺らす

だけど、当の彼女は神経を張り詰め周りに意識を拡散しているため全くそのことに気づかない

ただ、音には敏感で草の揺れる音が聞こえれば反応し

人の足跡など聞こえれば冷や汗が頬を伝う


路上で談笑している人たちを見ればそちらに意識を飛ばし

草葉で遊ぶ蝶の様子にはまるで気づいていないよう

彼女の通う学校は、畑と田んぼで囲まれたのどかな一本道の先の

歩道橋を超え、その先の路地を抜けた先にあった


風は心地よく、空は澄み渡っているけれど

それに反して彼女の心は徐々に重苦しく、どんよりと曇り始めていた

負けじとさらに神経を張り詰め、目を吊り上げ

いきんで一歩一歩前へと進む


歩道橋には既に人だかりができ、生徒たちで埋め尽くされている

彼女も意を決し、下腹に力を込め、その中に溶け込もうとした

だけどふと彼女はあることが気になった

それはほんの小さなことだった

目の前は制服の白と黒とで埋め尽くされているのだけど

そのわずかな隙間から見慣れぬ姿が彼女の目に飛び込んだ


それは遠目からも小さく、まるで少し大きめの風呂敷包みで何かが包まれているような

そんないでたちをしていた

それが生徒の流れの向こう側に見えては消え、見えては消えしていた


燈子は構わず生徒の流れに乗り、歩道橋の階段に足をかける

だけど次の段に足を踏み出そうとした時だった

彼女の足はぴたりと止まり、まるで地面に張り付いたかのように動かない

そんな彼女の様子を知る由もない周りの生徒は

彼女にぶつかり、けげんな顔をして過ぎ去っていく

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人が人であるということ ~対人恐怖症克服者の手記~ ユウ @yuu_x001

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