第18話 銀の幸福
私は幸福だ。
おそらくこの世界で1番幸せな女性だろう。
彼の全てを手に入れた。
これからはずっとずっと、死が2人を別つまで、一緒にいられる。
なんて幸せなんだろう。
♢♢♢
王国から彼の返還を要求は続いている。
お父様を含めた皇国上層部は頭を抱えている。もう返した方がいいのではないかという声も日に日に増えているらしい。
この強引さからしておそらく、第1王子を取り戻すということに政治的以外の理由があるのだろう。
王国で感じたあの視線、あの女がなにかしているに違いない。
燃えたぎるような怒りから無意識に歯ぎしりをしてしまう
冗談じゃない
これは私のだ。
感情が爆発してしまいそうになるが、なんとか理性で押さえつけ、彼女は冷静な思考力を取り戻す。
かと言ってこのままだと彼の返還が現実的になってきてしまう。
彼自身も帰りたがっている。このままでは城を抜け出して国へ戻ろうとしてしまうかもしれない。
そんなのはダメだ
彼の失踪だけは避けねばならない
…
…
失踪?
もし…もし彼が私たち皇国の意図とは関係なく失踪してしまったならば
もちろん皇国は総力をあげて捜索するだろう。王国にもこちらの自作自演と疑いはかけられるかもしれないが、いないものはどうしようもない。次第に疑いの目は弱まるはず。
更には共同捜索隊などを組織すれば国家での連携をとることになるため、懐を晒しているように見せれば信用を得られ、協力関係の構築によって貿易問題に関しても改善の兆しが見える。
まぁ、私は彼が見つからなかったら自殺するだろうが現状の問題が一気に片付くのは事実。
ならば
彼を失踪させてしまえばいい
彼が自分から脱走し、行方をくらませたということにして私のトクベツな部屋に閉じ込める。
さすがに王族を長期間隠しておくことは出来ないだろうが問題は無い。
限界が来る前にあの女の入る隙間を私で埋めてしまい、私なしでは生きていけなくしてしまえばいい。
いくらあの女が彼に近い存在で、彼の中にも憎からず思う気持ちがあろうともうどうすることもできないだろう。
それから皇国で結婚式を挙げる。私の人脈を総動員して盛大なものにするのだ。そして、夫婦として王国へ向かう。
現状を把握し、問題を解決、偽王を含めた邪魔者みーんな殺して王国で2人仲良く、幸せに暮らすのだ。
子供は何人産もうかな?
男の子がいいかな?
女の子もいいなぁ
あ、でも私の子だから、お父様と結婚する、とか言い出しかねかないかも
でもでも…
…
…
短くない時間、幸せな
テルミス様に脱走の決意をさせるため、ある程度情報を彼に流し、追い詰める。
機を見て、夜間見回りの兵士やメイドに暇を出す。これは色々とお金やコネを使わないといけない。
それが終わったら偽の馬車を用意して、テルミス様を誘導、捕獲♡
また逃げたいと思われても困るから精神的にも縛っておかないと
うーん、工程が多い。迂闊なことをすると私が疑われてしまうから慎重にやらないと。完了するまでかかる時間は……
…
…
そして決行日、5回目の国書が届いたタイミングで私は行動を起こした。
テルミス様に馬車のことをそれとなく伝える。
ちゃんと判断力が残っていたならばなにかおかしいとテルミス様も気づけたかもしれないけど、今の彼にそれはできないでしょう。
夜になって彼が行動を起こすのに先回りし、馬車の御者台で待つ。
「すまない、少しいいだろうか?」
愛おしい声が聞こえる。私は計画が順調に進んでいることを確信しながら彼に応答する。
そして馬車に乗り込もうとする彼の首筋に気絶程度に済むよう加減して当身を入れる。
斯くして、彼女の計画は結実した。
気を失い、彼女の腕の中で無防備な姿を晒す婚約者。
その愛おしい彼の唇にそっと口付けして彼女は呟いた。
「これで私たち、ずっと一緒にいれますね」
誰もが見惚れてしまうような笑みを浮かべる彼女、然してその目は情欲と独占欲によって暗く、黒く澱んでいた。
檻の中から 四野之乃 @ituwanokamisama
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