第39話 シェルター

十分と言いつつ、2分ほどでフリーダウンは終わった

桜音は何食わぬ顔をしているが、横目で抱きしめ合う二人を眺めている

アイリスは気絶しており、夜斗も満身創痍といった風貌だ



「おめでとう。これで熱いハグを達成した」


「できれば…もう少し、まともな理由で抱きしめたかった…」


「そう。とりあえずシェルターまであと一時間ほど走る。彼女の体を弄るなら後ろでやって」


「やんねぇよ!」



そこから到着まではこれといって話題もなく、また電波もないためスマホをいじるわけにも行かず、アイリスと寄り添うようにして眠っていた夜斗

到着直前に目が覚めた二人は、周囲の景色に目を疑った



「ここは、地下鉄か…?」


「肯定。廃線となった、静岡地下鉄道東部地区ライン」


「こんなの、見たことも聞いたこともないぞ…?」


「当然。これは昔、私が生まれるより前に作られたと言われている。当然製作者はいないし、目的も不明」



桜音が運転するこの装甲車と、他の装甲車が合流して駅ホームの線路に並ぶ

中から降りてくるのは、全員顔くらい合わせたことのある人だ



「雪音。あとの説明は任せる。私は主を助けてくるから」


「はい?夜暮さん捕まったんですか?」


「肯定。回収したら連絡する」


「わかりました。念の為、風音もインストールしておきます」



雪音と呼ばれた雪のように白い髪をもつ少女が、桜音に向けて手を振った

そして夜斗に向き直り、スカートを両手で持ち上げながらお辞儀する



「私はノイズシリーズ第零號機の雪音と申します。冬風夜斗様の護衛及びお世話を担当するため作られたアンドロイドです」


「…えーと、冬風夜斗だ。知ってるみたいだけど」


「アイリス・アクシーナ・アンデスティア・風華です」


「データベース登録完了しました。アイリスさんが、主様の伴侶ということでお間違いないですよね。とりあえず奥に案内いたします。そこで皆様にご説明を…」


「待て。伴侶で登録するな。そこに至るまでに何枚壁があると思っていやがる」


「その程度、主様にしてみれば半紙を重ねただけに過ぎません」



そう言いつつ雪音はホームのような場所からエレベーターに乗り込み、一階層上へと上がった

そしてそのエントランスのようになっている場所に集まる知人たちに一礼し、声をかけた



「ノイズシリーズ第零號雪音です。この度皆様を急遽この場所に集めさせていただいたのは、黒淵・天血・冬風・風華・時雨桜一族を狙うテロ組織から守るためだとご承知くださいませ」


「…あれ?緋月関係なくね?」


「緋月は全ての家に通ずる、いわばイレギュラーに該当します。なので万が一にも誘拐・殺害されてしまう恐れがありました」


「マジかよ…俺らとんだとばっちりじゃねぇか。まぁ慣れてるけど」


「だいたい俺のせいでな」



夜斗はそう言ってエントランスを見渡した

天血家の零と澪、黒淵の冥賀と流華、そして夜架

さらに冬風の紗奈と夜刀神の二人

それにプラスして時雨桜一族の面々と、刼華や美羽がこの場にいる



「…なぁ雪音」


「なにか御用でしょうか、主様」


「一つ聞きたい。なんでテロリストが動いたことがわかったんだ?」


「4箇所の襲撃を確認しました。それと同時に、冬風・天血・黒淵に犯行声明が届いております。黒淵に届いたのは、『黒淵夜暮とその兄妹を差し出せ』というものです」


「何故流華と夜架まで…」


「当然、商品価値があるからでしょうね。というように書かれていましたし」


「理解した」



夜斗は雪音が乗ってきた装甲車の荷台からライトマシンガンを取り出した

霊斗にはサブマシンガンを二つ渡し、夜暮と冥賀、零は同じように銃を持っていたアタッシュケースから取り出す



「冬風として臨時許可しよう。銃器を用いて、テロリストを鎮圧する」



思い思いの返事を聞いて、雪音に装甲車を運転するように言った



「ダメです。現在自衛隊がここに向かってきています。救助までおとなしく待っていてください」


「待っていたところで意味はない。こちらの戦力を示す必要がある」


「あと、俺らが外に出ればターゲットがこっちくるやん?つまり、他の市民は俺らよか安全になる」



霊斗が笑いながら言う

はじめからこうなることがわかっていたかのように



「…それでも許可できません。桜音に、外に出すなと言われてますから」


「なら誰がこれを止めるんだ?ショートバレルロングマシンガンドットサイト…これだけのオプションがついたアサルトライフルってことは白兵戦を想定した装備だろう。つまり、市民を殺すことに躊躇いはないだろうな」



シェルターのモニタに映ったテロリストを示す

これは黒淵がもつドローンが撮影している映像だ

地上の様子が手に取るようにわかる



「殲滅は任せろ。なぁ、霊斗」


「少し使うけどな。まぁ、やってやるよ」



夜斗どころか霊斗さえも、殺しに躊躇いがない

冥賀と零は元々なのだが…



零の運転で発進した装甲車は、途中で夜暮を拾い、零以外の四人でテロリストを撃ち抜く

一般人や警察は撃たないよう気をつけながら、殲滅していく



「終わったか?」


「まぁ、なんとか」



夜斗たちは、ふうっ…と息を吐き出した

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Chocolate Days 本条真司 @0054823

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