第38話 夜斗と桜音と装甲車

桜音が遠隔操作する装甲車が、夜斗の目の前を通過して襲撃者を蹴散らした

あとからあとから何台も襲撃者たちを蹴散らし、無力化していく



「桜音…」


『…早く乗って。時間は限られている』


「おう。行くぞアイリス」


「え?う、うん」



店の入り口すぐに横付けした桜音操る装甲車に乗り込む二人

乗り込むと同時に急発進し、アイリスは夜斗の上に倒れ込んだ



「きゃあ!?ご、ごめんね夜斗」


「これは仕方ないだろう…。桜音、安全運転で頼むぞ」


「余裕はない。現時点で結構危ない橋を5本ほど渡っている」


「大問題だな…」



夜斗は運転席に桜音の隣に腰を下ろし、一番左にアイリスを座らせる

前席3人、後部座席はソファーのようなシートだ



「どういうことだ、これは。なんか知ってるのか?」


「肯定。主…黒淵夜暮に仇を成すものと、天血澪を愛する者たちが手を組み、白鷺が繋がっていた裏組織と手を組んだ。そして天才ハッカーであるアイリス・アクシーナ・アンデスティアを誘拐するため、こうした手口を決行している。今日は冬風夜斗と一緒にいてくれて助かった、迎えに行かなくて済む」


「わーお、桜音史上一番長いセリフだ」


「ま、待ってよ夜斗!この子AIなんじゃないの!?なんで実体があるのさ。まだアンドロイドは研究段階のはずでしょ!」


「肯定。研究しているのは黒淵家だから。この体はプロトタイプで、未完成品。ただ今回は必要であるため、無理を言って借りてきた」



桜音はそう言いながらサイドブレーキを駆使したドリフトで、追手の車を混乱させる

背後から追尾させていた装甲車を別ルートに回すことで、より一層混乱させていく



「…一時的にシェルターに連れて行く。冬風にいる私の妹が先に到着しているため、あとはそっちに説明を聞いてほしい」


「は?冬風にお前の妹が?」


「肯定。正確に言うなら、私は初號。妹と言っているけど、実際にはプロトタイプだから先に作られている。起動が私より遅いだけ」


「そうじゃねぇよ。なんで冬風にいんだよ?」


「不明。少しだけ聞いたのは、冬風夜斗に彼女ができなかったときの家事役」


「誰だそんな予測したやつ」



夜斗はそう言いながら実家に連絡をとっていた

父は電話に出ず、紗奈も出ない。夜刀神の二人にかけても出なかった



「…実家はどうなってる?」


「既に保護済み。携帯の電波は届かないようになっているから、電話はつながらない」


「先に言えよ。天血とか黒淵もか?」


「順次回収中。ただ、緋月は既に回収してある」


「良好だ。で、シェルターまではどれくらいかかるんだ?」


「残り一時間。あと、口を閉じておかないと下を噛むから気をつけて」


「はい?」



顔を見合わせた夜斗とアイリス

答えはすぐに判明した

トンネルに入るとほぼ同時に、道路が抜けたのだ



「うぉぉおおおおお!?」


「きゃあああああああああ!」


「それだけ叫ぶことができれば上々。あと十分はこのままだから」


「何してんだ黒淵はぁぁぁぁ!」



夜斗の絶叫が、落下していく装甲車の中で木霊した

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