第2話:シンデレラを○○○が書いたら

 その女はシンデレラだった。


 ぬめるような艶かしい白い肌。

 日の当たらぬ場所に生きる蛇を思わせる白さであった。

 美しい女である。

 しかし、それにそぐわぬ粗末な服を身にまとっていた。


 部屋の中、暖炉の前であった。

 継母はすでに間合いに入っていた。

 シンデレラの持つ重力に引き寄せられるかのように。

 自然な速度で歩を進めていた。


「掃除をしろっていうのかい? この俺に」


 シンデレラは呼気とともにその言葉を吐いた。


 一気に周囲の空気が固形化する。

 ぎちぎちと軋むような音が聞こえそうだった。


「いやだって言うのですか? シンデレラ」

「ああ、嫌だね」

「その言葉……」


 キュッと継母が口の端を上げる。


「もう……、取り消せないのですよ」

「取り消す気はないよ」


 シンデレラはすっと腰を沈めた。


 継母はただ立っていた。しかしその肉体から溢れ出る気が異様であった。

 彼女だけがぽっかりと空いた闇のような気をまとっている。

 底の無い暗黒を常にあふれさせている。

 その様にしか見えない存在であった。

 たまらぬ継母であった。


「へぇ、やる気なんだ」

「シンデレラ、あなたがやるのはかまどの掃除です」

「そうかい」

「そうです」


 ふたりは言葉を交わしながらもじりじりと身の内の気を高めていた。

 その内圧の限界は唐突に訪れた。


「けひぃぃぃ!」

「あひゃぁぁ!」


 怪鳥の叫びとともに、ふたつの肉体がぶつかり合った。

 勝負は三秒でついた。

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