予言

「何故って………それは………」


 アルバートは ”ごくり”と唾を飲み込んだ。


「さっき、メアリーに教えてもらったから」

「………」

「ババ様、変な所で凄めるそのクセやめて下さいよ」

「ふががが」

「仕切り直して、この方が森の民の地の長、レヴ様よ」

「は、初めまして。アルバートです」

「よろしく、アルバート」


 拍子抜けしたのか、アルバートはガクッと肩の力が抜ける。レヴは優しい口調で先ほどの凄みや威圧も消えた。


「ここまでご苦労。さ、腰を下ろしなさい。何から話そうか。そうじゃそうじゃ、この前沢山のキノコが取れてな、鍋にしたんけどそれが何とも美味くてなぁ」


 ………


 一体どのくらい時間が経ったのだろうか。世間話は湧水の如く延々と続きその全てはどうでもいい事だ。疲れを感じてきたアルバートは顔を歪め、横に座る二人をチラチラと見て”まだ終わらないのか”と言うように訴えかけてみるが、真っ直ぐに前を見つめ、どちらも変わらない凛と澄まされた表情。そうして悟ったアルバートは耐える他ないと挫折し深いため息をついた。

 そろそろ小一時間ほど経ったくらいか、レヴが「ふぅ〜」と一息入れると、ここだ言わんばかりにレオンの口が開く。


「ババ様、相変わらずで元気で良かった。楽しい話はまた今度聞かせてもらう事にして本題。今回、俺とメアリーを呼び戻した訳だが一体何が起こったのです?」


 先程から流れていた和やか空気が少し変わった。


「そうじゃな………メアリー、先ずは長い間の調査ご苦労。お前がこれまでに見てきた事柄を教えてくれるか」

「私が一任されたイコルの森は怯えていて以前とはまるで違う空気を肌感で感じられ困惑しました。そして異変を確信させたのは突如として森に現れたの存在です」

「ありがとう………今、各地に同胞を送り調査をしているのだが、あらゆる場所でイコルの森の様な異変が起こっているようじゃ。異変が起こっているのは母である自然だけではない様で。人類側ではこの大陸の三大国家であった”軍事国家ペトロシアン” ”グラハム王国” この二国の度重なる謎の崩壊。今、狭間全体に異変が起っている」


 アルバートの全身から汗がぶわっと噴き出すと目を下に伏せた。


「それではやはり予言は正しかったと?」

「限りなくそれは実現しつつある………詳しくは場所を変えて話そう」


 レヴは立ち上がり部屋の奥へと進んで行く。周りと同じく何の変哲もない壁に触れボソボソと何か詠唱のような物を唱えると壁一面、緑色に弱く光る紋章が浮かび上がり一角の壁が消え通路が現れた。


「さぁ着いてきなさい」

「ちょっと待ってください。部外者も連れて行くのですか?」

「勿論連じゃ。来なさいアルバート」


 レオンとメアリーはすぐに立ち上がりレヴの元に行く。


「もたもたすんじゃないわよ、早く来なさいよ」


 メアリーは例の如く煮え切らない表情でアルバートを急かす。アルバートも例の如くあたふたするが重い腰を上げ三人を追った。

 暗い通路を抜けると晴れた場所に出た。ここは先ほど神殿に入る前に見えた巨大な樹木の中の空洞のようで天からは光が降り注ぐ。一段と神々しくなんとも幻想的な空間だ。足元から掛かっている橋の先には蔦が絡み付き天高く聳え立つ巨大な石柱。


「何年振りかしら」

「そうだな」


 二人は淋しい表情をする。過去に何かがあったのか物思いに耽る………

 

 橋を渡り石の塔の側面には螺旋階段が見えると上がり始め天を目指す。恐らく永い時間は誰も出入りがない様だったが辛うじて螺旋階段は石質が露わとなっていて進む事自体はさほど苦では無い。


「レオン、メアリー、久しぶりだろう、あれから7年。も成長しました。分かっていると思うけどくれぐれも失礼ないように」


 螺旋階段は終わり塔の頂上に着いた。空に近く光をより強く感じる。苔が生い茂る広い場所で奥には一本の樹が立っていてその幹の中で何やら光を放っていた。樹の方へ近づいて行くとその幹の中にあったのは巨大な水晶体の様な物が鎮座している。圧巻なその景色にアルバートは見惚れながら更に近づいていくとその下に誰かの後ろ姿があるのに気が付いた。


 その人物の背後の前で止まったレヴは膝付き頭を下げた。


「お連れしました」


 ゆっくりと振り向いたその人物は黒髪の少女だった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

双頭の獅子 九十九 少年 @999boooy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ