森の民の地
三人の目の前には周りと何ら変わりのない景色ではあるがメアリーが進むと突如としてその姿が消すとその空間がまるで波紋のように歪んでいた。またもや摩訶不思議な現象にあわてふためいているアルバートだったがレオンに急かされると意を決して一歩踏み込む。
「モヤシ、なに目なんか瞑っているのよ? もしかしてビビッてんの? 本当になっさけないわね~。大丈夫だから目、開けてみなさい」
アルバートは恐る恐る瞼を持ち上げた瞬間、視界に飛び込んできたのは何とも美しい世界だった。
眼前に現れた巨大な池、降り注ぐ木漏れ日が水面や水中の魚の鱗に反射し銀、時に七色に輝く。掛かる大きな橋が里の入り口であろうか。その先には通ってきた森と同等の高さくらいだがうねり曲がった木々が何本も池から多く伸び更に橋を架ける事で木々を繋いでいる。上空にはその太い幹に取り巻いたり、太い枝の上に立てられた建造物が森の民の住まいの様だ。そして上空でも更に橋を架け木々を繋ぎ、宙を浮く足場で森の民達が行き来をしていた。
”狭間”にて初めて人類が誕生した地。永い時をかけて人類は世界に散らばっていったが、その中で選ばれたこの一族は木々の声を聞き取り、観察者、調律者として狭間の均衡を保つ。そして世界に危機が迫る時、彼らは動き始める守護者とされた。その狭間の守護者”森の民”が住まう土地こそ”森の民の地”である。
そんな狭間において伝説と言っても過言ではない神の使いの領域へ足を踏み入れる事自体、アルバートはゆめゆめ思いもしていなかった。そうして一行が橋を渡り幻想的な光景を進んでいると行く先より何やら賑やかな幼い声が聞こえてくる。
「あれ? もしかして! おい! あっち見てみろよ!」
「なぁに? あ! メアリーだ!」
その声の主は木々から池の大岩を繋ぐ橋を駆け下り近づいてくる。そしてメアリーに抱き付いて来たのは10歳もしないだろうメアリーと同じ黄緑色の髪を持った少年と少女だった。
「おかえり! メアリー! お土産は!」
「お帰りなさい」
「はいはい、ただいま。エディ、ちょっと待ってってば。コッコ、ちゃんとババ様の言う事聞いてた?」
エディと呼ばれた元気溢れる少年とコッコと呼ばれた大人しい少女。キャリバンのカヴァとレラ同様、すこぶる懐いている様で、メアリーに頭をぐしぐし撫でられているとレオンの存在に気が付き驚いた。
「あああ!? レオン!? お前レオンだよな!?ひっさしぶりじゃん! 2年ぶりくらいか!?」
「ホントだ、レオンだ」
「相変わらず礼儀を知らない口だな。元気だったか?」
更に喜んだ二人はレオンに飛び付きメアリーは解放された。まるでついさっきにキャリバンで見たような再会だ。そして最後、アルバートと目が合うなり、コッコはレオンの後ろに隠れ、エディは睨みをきかせる。
「コイツ誰だ。外の人間の匂いがするぞ」
「怖いよぉ」
「大丈夫だ、悪いヤツじゃない。アルバートと言って旅を共にしている」
「は、初めまして。僕はアルバート。よろしくね」
アルバートはぎこちない笑顔を作り挨拶をしたが、二人は黙ったままで心を開く事はなかった。
「まぁアルバートとはまた仲良くしてやってくれ。ところでババ様は神殿にいるか?」
「いるよ! ピンピンしてる!」
「今日ね、ババ様にお話してもらったの」
「良かったね。だけど、ごめん。私達これからババ様と大切な話があるから今は二人で遊んでいて」
「ええ〜そんな〜外の世界の事聞かせろよ〜」
「聞きたい、聞きたい」
それからもエディとコッコは遊んでもらう事を食い下がったが叶わなかった為諦めて「終わったら絶対に遊べよー!」と言い場を後にする。振り返りざま、エディはアルバートに向かい舌を出し嫌悪感を丸出しにした。
ババ様なる人物の下へ向かう中、戻った二人に声を掛けてくる者が多かったが何か視線を感じたのかアルバートはふと上を見てみると、じっと刺すように見つめる者がいるのに気が付きたのと同時に警戒しているに違いない事を悟った。旅をしている中でよそ者として忌み嫌われる事は慣れていたものの気落ちている彼を察してか、「気にするな。俺もそうだった」とレオンが話しかける。その言葉に対して気持ちが少しばかり浮くアルバートであった。
それと"俺もそうだった"と言うのはレオン自身は森の民ではない事を示しているのか。森の民は先程のエディとコッコを含め全員が黄緑色の髪を持っているのに対してレオンは深い緑色だ。少なからず彼だけはこの地において関係性が異なるのではないか。そうアルバートは考えつつも口に出そうとはしなかった。
いくつかの橋を越えて見えてきた最深部、一際巨大な樹木が生え、その前に神殿ような物が建てられている。集会所とされるらしい池に浮かんだ巨大な水浮葉を通り過ぎ、角度がついた橋を”ギシギシ”と上がると、神殿前にたどり着いた。
「二人はそこで待っていて、ちょっと行ってくる」
メアリーが神殿に入ろうとした際、「メアリー」とレオンは読んだが、彼女は「分かってる」と言って奥へ入っていった。それから二人は数分時間を弄んでいるとアルバートは先ほど考えていた事をレオンに尋ねた。
「レオン、君はここの人間ではないのかい?」
「そうとも言えるな」
「? どう言う事?」
それに対してレオンは少し黙った。
「ごめん、話したくない事は話さないんだったよね」
「………いつか嫌でも知る時は来るだろうな」
「え、それは一体
聞き返そうその時、メアリーが戻ってきて神殿に入るように言うとレオンは先に行ってしまった。煮え切らない気持ちのままにアルバートも遅れて中へと踏み入れる。神殿内部は広い空間が広がっており、左右から日の光が弱く差し込んでいて薄暗い。そしてその奥に誰かが敷物の上に座っていた。
「ご無沙汰しております。長老」
レオンに長老と呼ばれたのは顔の大きさと同じくらいで印象的な冠を着けた、小柄な女性の老人だった。彼女も黄緑の髪を持っている。
「おお、帰ったかレオン。無事で何よりだ。そしてアルバート」
「え? 何故、僕の事を」
森の民の長老はその細い両眼を薄く開ける。感じるその圧力にアルバートはたじろぐのであった。
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