第5話神竜
二つのことを思い出したエヴァンは王都から故郷を目指しました。
道中は何も襲っては来ませんでした。
それもそのはず、エヴァンが出会った魔人は誰一人生きてはおらず、魔獣もエヴァンから溢れている嫌な気配を感じ、怯えていたからでした。
そのせいで、エヴァンの食事は木の実やたまに魚を食べる程度でした。
けれど、空腹など気にせず一直線に故郷へ向かったおかげで、一か月程度で戻ることができました。
近くのお墓に寄ることは忘れずに、ステラに向けてこう言いました。
「どんな手を使ってでも強くなって、魔人を滅ぼす。君がこんな僕を嫌ったとしても、やり遂げなければ僕の気が済まないんだ。ごめんね」
それから、自分の家に向かいました。
家に着いて、瓦礫をどけると、なんとか居間の姿が見えてきました。
畳を上げると、昔見たままの階段がありました。
意を決して、階段を下りていきます。
階段を下り終わると、地下にもかかわらず、そこは明るかったのです。
そのおかげで正面に道が伸びていることが分かりました。
道の両脇には水脈が通っていました。
地下が明るかったのは所々で鉱石が光っており、その光が水に反射していたからでした。
その光は青白く、地下にとても神秘的な光景を作り出していました。
更に奥へ進むと暗く広い部屋に出てきました。
「・・・誰だ」
エヴァンは急に声を掛けられ、驚きはしたものの、その問いに答えます。
エヴァンは名乗ると、暗かった部屋が明るくなり、声の主が姿を現しました。
エヴァンはその姿に畏怖と同時に歓喜しました。
そこにいたのは、紛れもなく神竜でした。
エヴァンは自分の願いを神竜に言いました。
もっと強くなりたいと。
すると、神竜はその必要はないのではないか、と言ってきました。
エヴァンはどういうことか尋ねます。
お前はもう私に守られている。寿命以外で死ぬことはないだろう。なのに何故強さを欲する必要があるのか、そう神竜は言いました。
意味が分からなかったエヴァンの様子を察し、神竜は説明しました。
「お前の父親は魔人が襲来したとき、私の元に現れた。息子を守って欲しいと。そのための代償に自らの命を差し出してきた。その程度の代償で人一人を守るには軽すぎたが、私はそれを受け、家を崩壊させ、お前を命を守った」
エヴァンは父の命が軽く思われたことに怒りました。
それを見て、今度は神竜がエヴァンに尋ねます。
どうして、人の願いを叶えるために代償が必要か知っているのか、と。
エヴァンは答えることができませんでした。
神竜は話します。
「願いを叶えるためには力が必要だ。そのための力を代償としてもらっている。私は自分を守る力も必要なのだ。だから、人一人の命だけでは足りなかったのだ」
その理由は合理的だったので、エヴァンは冷静さを取り戻していきました。
納得したところで、エヴァンに疑問が湧きました。
それなら何故父の願いを叶えたのか。
聞くと、神竜は何故か母のことを尋ねてきました。
しかし、エヴァンは母の顔など覚えてはいませんでした。
幼いころから母はいなかったのです。
分からないと答えると、そうかと言って少し黙った後、気まぐれと答えました。
Lv1不可説不可説転の少年 ぱるぱす @yakusokunoyoru
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