タヌキのお金
ふうりん
第1話 タヌキのお金
むかしむかしある山のふもとに、タヌキの小さな村がありました。
その村のタヌキのほとんどは働き者で、それぞれが小さな畑を耕して、芋を作って何代にもわたり豊かに暮らしていました。
タヌキの村では、みんなから選挙で選ばれた一匹の村長(むらおさ)だけが、木の葉をお金のお札に換えられるという決まりがありました。そして、村長のタヌキは畑仕事をしなくても木の葉のお札で、村のタヌキ達から芋を買って食べることができました。
食べる芋が少なくなってくると、タヌキ達は、木の葉のお札を持って、湖の近くのキツネの村に魚を買いに行きます。キツネ達は、冬に漁に出られずに魚がとれないときには、その木の葉のお札を持って、タヌキの村に芋を買いに来ます。
こうして、タヌキ達もキツネ達も永い間幸せに暮らしてきました。
ある夏が涼しくて芋の成長が普段より少し悪かった年のこと。
一匹のタヌキは風邪をひいてしまい、畑仕事にも出られずにあまり芋が作れませんでした。そのタヌキはお腹が空いてどうしょうもないので、「木の葉のお金を少しくださいな。」と村長にお願いに行きました。村長は、最初は断りましたが、涙ながらにお腹が空いたとうったえるので、かわいそうになって、お金を1枚あげました。
お腹の空いたタヌキは、隣に住むタヌキにわけを話してお金を1枚差し出し、芋を2本分けてもらいました。これまでも永い間お札1枚と芋2本の交換というのがタヌキの村の習慣でした。おなかの空いたタヌキは大喜びです。隣のタヌキは、この話を3匹の友達タヌキに話しました。一匹の友達タヌキは、「僕らも去年より芋が少ししか取れなかったのだから、村長にお金をもらいに行こう。」と言い出しました。みんなも、そうしようということになり、4匹連れ立って、村長の家に行きました。
4匹に囲まれた村長は困ってしまいました。手元にお金はありません、木の葉を集めてきて呪文を唱えなければなりません。それに、また他のタヌキ達が貰いに来たら大変だとも思いましたが、来年も村長に選んであげるからとも言われたので、仕方なく木の葉をお札に変えて、4匹にお札を1枚ずつあげてしまいました。
4匹のタヌキは、近所のタヌキの家に行き、わけを話して1枚ずつお金を差し出し、芋を分けてくれと言いました。近所のタヌキの家にはそんなに多くの芋はないので、「家には、4本しか余裕はありません、1本ずつでよければお札と交換してあげますよ。」と言いました。4匹のタヌキは、2本ずつ貰えると思っていたのですが、そもそもただでお金を貰ったのだから1本でも貰えるだけましだと思い、渋々1本ずつ持って帰りました。
次の日になると、村中のタヌキにこの話が広まりました。俺も俺もとみんな村長の家に押しかけて、お金をくれと言い出しました。もう村長は断れません。木の葉を一生懸命集めて、呪文をかけてお札に換えました。そして、みんなに1枚ずつ配りました。タヌキ達はみんな大喜びです、「俺たちはいい村長を選んだ、来年もあの村長にお願いしよう。」と、口々に言いながら家に帰っていきました。
家に帰ったあるタヌキが、さっそく隣の家に行ってお金を差し出して、「芋を分けて下さいな」と言いました。でも、となりの家のタヌキも、お金は持っています、自分も芋の方が欲しいと思っていました。2匹連れ立って、その隣の家に行きましたが、やはり同じです。3匹連れ立って、そのまた隣の家に行きましたが、やっぱり同じでした。
とうとうタヌキ達は、このお金では村で芋は譲ってもらえないことに気付きました。でも、どうしてなのかわかりません。「今まで、このお札1枚で芋2本と交換できたじゃないか?なんで、今年は、芋が貰えないんだ?」みんな不思議でたまりません。「どうしてだ?どうしてだ?」と、あちこちで話し合っています。
そこに、若い一匹のタヌキが、魚を2匹抱えて通りかかりました。それを見つけたタヌキが、「その魚どうしたんだい?」と尋ねると、若いタヌキは「キツネの村に行って、お札と交換して貰いました。」と答えました。そばにいたタヌキ達は、一斉に若いタヌキの方に振り向き、その手があったかと、若いタヌキの機転に感心しました。そして、何匹かのタヌキがお札を握りしめて、キツネの村に向かいまいした。
キツネの村では、今年は、少し時季外れに、タヌキ達が魚を買いに来るなと、最初は少し訝りながらも、いつもの年と同じようにお札1枚と魚2匹を交換していました。でも、少し経つと、キツネの村でも魚の余裕が少なくなってきました。何かおかしいとキツネ達は感じだしましたが、タヌキの村とは何代もの永い付き合いなので、交換を断るわけにもいかず、一生懸命朝から晩まで漁に出て魚を捕り、お札2枚と魚1匹とを交換し続けました。タヌキ達は、思ったより貰える魚が少ないので、がっかりしましたが、もともとただでお札を手に入れたのだから何も貰えないよりましかと思い、我慢して魚を分け合いました。
冬になって、キツネ達は漁に出られなくなり魚の貯えもなくなりお腹が空いてきました。こういう時の為に貯めた大量のお札を抱えて大勢のキツネが、タヌキの村に芋と交換してほしいとやってきました。でも、村長に頼めばお札が貰えるから、タヌキ達は畑仕事を一生懸命やらなくなっていましたので、村にはキツネに分けてあげる程芋がありませんでした。激怒したお腹を空かせたキツネ達は、タヌキ達を煮て食べてしまいましたとさ。
タヌキのお金 ふうりん @akagioroshi
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