終幕
最終話
人は、自分だけを見つめた時、その瞳が果たして正しいものか、それとも間違っているものか余り深く考えないもの。
己の都合の良いように。
己が一番になるように。
何よりも自分が、誰よりも自分が。不幸で幸せで。
そういう思いが生まれ、広がる。
己を優れていると、驕ることは悪いことじゃない。
己が劣っていると、嘲ることは悪いことじゃない。
そう、「ない」には様々な事がある。
他人を見下してはいけない。
蔑んではいけない。
罵ってはいけない。
盗んではいけない。
自分が存在し、この世界に生きているのであればそんな気持ちがうまれないことは無いだろう。生まれたそのとき、その気持ちと自分が見つめあえるか、向かい合えるか、ただそれだけ。
君は、自分が誰よりも不幸だと思っている?
アナタは、自分が誰よりも優れていると思っている?
残念だけどそういう時、君の目の前にはきっと、見たことも行ったこともない街並みが見えるだろう。
ことさら紅く、既に太陽は沈んでいるにもかかわらず、空にその紅い存在を残していった夕焼けと、夕焼けに焼かれた黒い街。無数の店があるにもかかわらず、街を訪れた君はただ一軒にしか立ち寄ることは出来ない。
君と言う存在を待ち構えているその店には、必ず一人の店主が居るだろう。
「いらっしゃいませ」
その一言から、君の君による物語が始まる。
店はきっかけ、一つの鍵を与えるに過ぎない。
その鍵でどのドアを開いて、どの道を進み、どこに行き着くのか、舞台の幕は上がる。脚本を書くのは君。演じるのも君だ。しかし、演出するのは……。
いつかどこかで出会えるかもしれないアナタへ。十字街、全ての店主を代表して仮面屋を営む私がご挨拶申し上げましょう。
「私どもはアナタ様のお越しを心よりお待ち申し上げております。良い黄昏時に出会いましょう」
十字街。 御手洗孝 @kohmitarashi
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