白磁の「白について」

木谷日向子

第1話

 「朝鮮美術」という言葉を聞いた時に真っ先に思い浮かべるのが、幼い頃から目にしていた韓国の大河ドラマの作中に登場する宮廷の衣服や工芸品である。私達に馴染深い「朝鮮」は今ではテレビ局から配給されるドラマの中に登場するモノとなっている。高校時代に視聴していたNHKの戦国時代を舞台にしたアニメーションである「へうげもの」という作品がある。豊臣秀吉に仕えた茶聖である千利休の弟子である、織部焼の創設者、古田織部を主人公とした日本美術を題材とした山田芳裕原作の漫画で、その作品中に古田織部が朝鮮に向かい、朝鮮の陶工たちと交流する話がある。そこで私は朝鮮の白磁器について初めて知ることとなった。本レポートではその白磁器に関して論じていきたいと考える。

 白磁は朝鮮半島では高麗王朝の末期ごろから作られるようになった。高純度の白陶土を使い、透明の釉薬をかけ、高温で焼成したやきものである。当初は青緑色を帯びた青磁などもともに作られていたようだ。しかし次第に廃れ、当時は白地の上に鉄絵具などで絵付けされた時期も作られていたようだが、それも廃れ、けっきょく色も形もシンプルなものばかり愛されるようになった。朝鮮の血を持つ姜尚中教授によると「陶芸の伝統を持つ国は世界に数々あるが、彼らほど白い器を好んだ人々はいないのかもしれません。」と述べている。私も昔から色彩豊かなものよりも白や黒など一つの色で全体が統一された物を見たり使用したりするのを好む人間であった。青磁茶碗は自宅で2椀所持しているが、白磁茶碗は持っていない。青磁の事を知ったのは小学館の雑誌「和楽」の写真で青磁の二重貫入の美しさについて知った時であった。朝鮮では、青磁と白磁、どちらが国民に馴染深く愛されているのかと考えていたが、以上の記述を読む限りでは、やはり白磁が愛されているように感じる。韓国ドラマ「キム・タック」を視聴していた時に、主人公のライバルの少年の祖母が亡くなり、自宅で葬式を行うシーンがあった。その時に喪主であるライバルの少年の父親が着ていた喪服が日本と正反対の上下真っ白の衣服で、真っ白な帽子をかぶっている全身が「白」で覆われた姿であったことにとても驚いた。朝鮮では白磁もそうであるが、「白」という色自体が民俗的に深い意味を抱いているのではないだろうか。民芸家である柳宗悦は朝鮮白磁のことを「朝鮮民族の悲哀の美」と呼んでいるが、姜尚中はこの事に対して反論を述べている。「彼がそのように言ったことには、当時の朝鮮半島が日本の統治下に置かれていたことが関係すると思われますが、わたしには何か悲劇的な感情に引っ張られすぎな感じがして、抵抗感がありました。」その中で、ドイツに行く機会があり、朝鮮白磁について新しい考えを知ったという。「ドイツといえばマイセンが有名です。その歴史は18世紀のはじめ、ザクセン州の王が『白い黄金』と呼ばれた東洋の陶磁器(チャイナ)に憧れ、錬金術師を雇って制作を命じたことに始まります。マイセンには王立の磁器工場が造られ、職人たちは、中国の景徳鎮、朝鮮の白磁、日本の柿右衛門などを参考にしながら切磋琢磨を重ね、素晴らしいレベルの陶磁器を作り上げました。」「マイセンのような寸分の狂いも許さぬ完璧さ、絢爛を極めた装飾性も、わたしは決して嫌いではありません。その圧倒的な技には感嘆します。しかし、やはりどこかにストンと抜けたところのある朝鮮白磁が好きなのです。」「韓国では、慶事の時も、忌事の時も、白を着ます。彼らにとっては、白というのは、喜びも悲しみも超えた、すべてがきわまったときの色としてあるのです。一方、日本では喪のときは黒一色と決まっていて、白は避けられます。しかし、花嫁の衣装は白無垢ですし、死者を送る時も白装束ですから、やはり俗的な要素が排された場面で白が用いられることは共通しているのではないでしょうか。」「韓国では慶意も弔意も白で表されます。ということは、白は始原だると同時に終末も表し、誕生であると同時に死を含み持っているということです。それが、広大無辺な白の世界です。その理解が正しければ、白というのは、哀愁や悲劇の色であるはずがなく、情け深く、同時にどこか磊落さにつながっている色であると考えるべきなのです。」とある。つまり、姜尚中が感じてい白磁の白は、悲劇の色ではなく、生も死も包み込んだ広大無辺さを感じさせるものであると捉えていることがわかる。

 以上のことから朝鮮にとって白磁が愛されている理由がわかった。朝鮮人にとっては、「白」という色自体が特別な意味を持っている。祝い事も弔い事も全て白で表明される。その事は、人生の大切な出来事にはいつも「白」を用いているという事とつながる。「白」という色は朝鮮人の一生と関わり続ける伝統的な色なのだ。したがって朝鮮人が青磁よりも白磁を愛する理由も知ることが出来る。今年の2月に台湾の故宮博物館を訪れた際にも沢山の白磁器を目にすることが出来た。その時から感じていた朝鮮の白磁への愛について、本レポートでうかがい知ることが出来たことを嬉しく思う。今後もさらに白磁への興味関心を抱き白磁以外に朝鮮で愛されている伝統工芸についても見識を広げていきたい。


参考文献

・姜尚中「あなたは誰?私はここにいる」集英社新書 2011年





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白磁の「白について」 木谷日向子 @komobota705

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