最後の告白

 月曜日の朝。

 抜けるような青空の下を遥は学校にひとり向かう。

 足取りは重く、顔は下を向いている。

 校門前まで来て、足が止まりかける。


 その時だった。

「遥ちゃん、大変なの、早く屋上に行って!」

 顔を上げると深刻な顔の広阪先輩がいた。

「え? 先輩、もう登校しないんじゃ」

「それどころじゃないのよ、急いで!」

 先輩の勢いに押されて思わず進んだ背中をさらに押される。

「時間がないわ!」

 訳がわからないままに遥は走り始める。

 先輩は後ろ手に隠していたビデオカメラを構えてついていく。


 遥は校舎に入り、上履きに急いで履き替えて階段を上る。

 二階、三階、屋上。

 屋上への扉は鍵が開いていた。


 遥は息せき切って扉を開き、屋上に出る。

 眩しさに目がくらみ、落ち着いてくると、高志とレフ板を構えた映研部員たちが遥を取り囲んでいた。

「どうして」

 後ずさろうとした遥の背中を押しとどめる手。広阪先輩だ。ビデオカメラで遥を捉えている。


 撮影から逃げようとした遥を高志の右腕がさえぎり、反対に逃げようとしたら左腕が伸びて、遥は壁際に追い詰められた。遥を囲う両腕が壁に当たって、トンと音を立てる。


「聞いてくれ遥」

 思いのたけをふり絞る高志の声に、遥は目を上げて高志を見た。

 高志の頬は紅潮している。いつもの告白できないときの顔。だが高志は遥を見つめながら続けた。

「本当の世界は嘘でいっぱいだ。信じても裏切られる。どんなに誠実な言葉だって本当は嘘かもしれない」

 遥の身体が震える。顔を伏せる。

「映画はなにもかも嘘だ。だけど映画の中では、嘘こそが本当なんだ」

 震える遥の肩を高志は優しくつかんだ。

「遥、俺は君が好きだ」

 高志はそっと告げる。

「映画の中での告白シーンなんて信じられない嘘かもしれない。だったら俺は一生かけてお前の映画を演じ続けてやる。ずっと撮影されてやる。俺の人生はお前の映画だ」


 遥は顔を伏せたまま言う。

「あたし、いつでも撮影しちゃうよ」

「いいとも」

「映画なんて嘘ばっかりだよ。本当のことなんてどこにもないよ」

「そこがいいんじゃないか。だって……」


 遥が手を伸ばす。

 高志が遥を抱き締める。


「「カメラの嘘はすべてを許す」」

 二人の言葉が重なった。




 スクリーンに映った二人の姿に「終」の文字が重なる。

 スタッフロールが流れ始める。

 拍手、それに歓声。

「高志、やるじゃないか!」

「かっこよすぎるぞ!」

 あちこちから上がる同級生たちの声。


 文化祭の映研上映会、その席で高志は顔を真っ赤にしていた。

「まさか、全部、そのまま使うなんて」


 映研部員がアナウンス。

「出演者たちによる舞台挨拶を行います。出演者は前へ」


 立ち上がった高志は会場から逃げ出そうとして、両脇から腕をつかまれる。

 左右に広阪先輩と遥。

 二人とも笑っている。

「後生だ、離してくれ!」

「往生際が悪いわよ高志君」

「ずっと演じてくれるって約束したでしょ」


 遥がビデオカメラを構える。

 高志は観念して前に出る。

 スクリーンには映画のタイトルが映っていた。


 毎日告白


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毎日告白 モト @motoshimoda

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