ざまぁ系ラーメンの話

久近久遠

ほぼ実話です。

 私が、ラーメンを食べていた時の話です。


 そこは東京環七沿いにあるマグロラーメンで有名なお店。


 私はその店の常連で、その日もそこで夕食を食べてました。


 ラーメンが有名なお店ですが、いわゆる通はみんなタレそばを頼みます。


 ラーメンから汁を抜いた、油そばみたいなやつです。


 私の隣の席にカップルが来て、イチャイチャしながら彼氏さんが言います。


『ここ、ラーメンが有名なんだけど通はタレそば頼むんよ』


『えー そーなのー? じゃー私もタレそばにしようかな?』


『甘いなあ! タレそば食べてる通はまだ素人よ。一周回ってラーメンに行ったヤツが本物の常連なわけ』


 彼の言うことは正しい。


 かく言う私はまだタレそばの段階ですが。


 そして、イチャイチャするカップルに私は若干イラついていました。


 彼氏さんの言動もさることながら、何故か私にガシガシ肘をぶつけてくるからです。


 私は思いました。


 死ねばいいのに。


 宣言通り、彼氏さんはラーメンを頼んで、それが着丼。


 カウンターと厨房を遮る、一段高いところにラーメンと水が置かれました。


 彼氏さんがそのラーメンを自分の手元に置き、水を取ろうとした時、私の呪詛に神が応えました。


 彼氏さんの水を取った手が滑り、ラーメンの上に落下したのです。


 その時、私は思いました。


 ざまあ!!!


 しかし、神様という方はいつだって、誰にだって、救いを齎すのです。


 彼氏さんの水はラーメンの丼の淵にぶつかり、バウンドして元の位置に戻りました。


 私の逆隣に座ったサラリーマン風の人が、ラーメンを啜るのも忘れ、麺をくわえたままの状態で成り行きを見守っています。


 店の人間みんなが、その奇跡を目の当たりにしました。


 しかし、神様はいつだって優しいけれど、いつだってその悪戯心もまた、忘れることはないのです。



 彼氏さんのラーメンの丼。

 その、水のグラスが直撃したところが、



 ──パカっ



 と、割れたのです。


 スープは丼の中から我先にカウンターの上に逃げていきます。


 彼氏さんは唖然としたまま、


『どうしたらいいの? どうしたらいいの?』


 なんて慌てます。


 私は思いました。


 一周回った通はそういう時にどうするのか教えてよ。


 ねえねえ、通はどするの?


 ねえねえ、ねえ!


 そして、麺をそのまま残して、全てのスープが逃げ出してしまった丼を見つめて彼氏さんは言いました。




『いや、タレそばやん』




 私の隣のサラリーマンが、くわえたままのラーメンを吹き出しました。

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ざまぁ系ラーメンの話 久近久遠 @KuonKuGon

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