甦ら



 息苦しく残った時代の香りには、錆が半世紀前から混ざっている。忘れられた想いは集い、古の教えは多く流れ偲ばれた。


 汗の寒さが来る。老いと病いを恐れた夜長の気分は、何者にもならずに影として消えていった。花を絶やした庭先に、障子で霞む灯籠の輪郭が、砂を崩すように明滅する。針を磨り潰す喉の奥は、底へ繋ぐ縄が肉へ変わる黄色い液に汚れつづけた。


 骨に染み込む雨は去り、ただ月だけが残る空。痛めた身体と微かな熱に倒れると、柳は風を押して私を襲う。布で隠した籠の中では、小鳥が小さく鳴いていた。

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記憶の散乱 フラワー @garo5

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