復る


 地の霜に鳥が落ちる冬。虫の卵が眠る空。黒い線から安らかさが届くまで、この生活は止まっている。葉と共に落ちた陽の隙間に溜まる向う雲が、木立の先々で水のように明るく横切る短い一日。戦いの絶えた土地に、微かに訪れる停止場の音。ひとつに音が射てば、呆然とする老境の若者となる。泡で腑抜けた私の断念は、失う程に隔てられる旧時代を遠くした。

 


 醒めた山肌で持つ米俵は、池の底に沈めた懐かしい品の感触。扇を落とす鏡の水路は、黄金色の季節を限って閉じたように。

 古い記憶が別れを告げた。衰えた身体の節だけへ。

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