薄い瞼の藍色
すい
薄いまぶたの藍色
今日は学校で進路説明があった。部屋は熱くて、もう夏だね、とかクーラーないの?という不平不満が聞こえる。
高校生活も後半に入り、みんななんとなく自分の将来や進路を思い描き、期待や不安の入り混じった、でもどことなく他人事かのような顔をして話を聞いていた。
私も同じような顔をして、また帰り道には友人と一緒に実感わかないねーなどとふざけて笑いながら帰ったものだ。
でも本当はもう今まで自分の人生に引かれていたレールが途切れようとしているのをひしひしと感じている。
友人との会話に少しだけ引きつってしまう頬。なぜそんな楽観的でいられるのかと嫌になり、そんな自分を何よりも嫌いになる。
はじめはゆるやかな不安だだったはずのそれは、周りの将来の夢の話なんかを聞きながら焦りに変わり、今では恐怖とそれに重なった苛立ちさえ感じる。
時々私はなぜみんなどうせ死ぬのにそんなに必死に考えなければならないのだろうと本気で考え、そのうちそんなことを考えている自分の心を疑い、どうせ消えるならいま…なんて、良からぬことが頭をよぎるのだ。
もちろんこんなちっぽけで気弱な私に死ぬ勇気なんてないのだけれど。
学校からの帰り道。もう日が暮れて暗くなり、人通りのない道を歩く。電車に乗っても時間のかかる、学校から遠い我が家が近づいてきて。
どうせ、家に帰っても進路の話。わかっているのだ。みんなが通る道だし、悩んでいるのは私だけじゃないはず。なのに、もうここでパッとなくなってしまえば楽だろうな、なんて、ずるいだろうか。
家の近くにある小さな、階段と言えるのかわからないような段差。そこから靴のほんのつま先だけをはみ立たせて立つ。目を閉じて、想像する。昔からありもしないことを想像することだけは得意だった。
私は今崖の上に立っていると思いこむ。周りは真っ暗で、何も見えない。前に重心をかければつま先は不安定に揺れる。鋭い風が頬の横を掠め、髪は後ろへなびく。
そっと右足を前に出すと、もう踏むところのない足は震え、目の前にある死を拒もうとした。足を少し下にやると、何もない空に沈み込む。怖さで左足が震えて、バランスを崩しそうになり、一層強く吹いた風に押されるようにして、私は身を投げた。柔らかな風の中を重力に逆らえず、内臓が浮くような恐怖。
どさっ。という音とともに私は地面に倒れ込んだ。周りから見れば小さな段差で転んだだけの私は、もともと崖なんてなかった静かな住宅街の中でただ、涙を流しながら誰もいない路地を睨みつけ、たおれこんでいた。
透明な涙に溶かされて、あたりの暗闇は少しだけ薄くなっているように感じた。
家に変えればやはり進路の話をされたし、私はいつもどおり不安にかられながら布団の中に入った。想像の中で一度死んでみたところでどうせ何も変わらない。
起きてしまえば今日も学校だ。いってきまーすと声をかけ、私は早足で歩く。頬を撫でるぬるい風に、昨日の風を重ね合わせて、
少し前に見える陽炎のゆらぎの中に、昨日死んだ自分が見えたような気がした。
私はニヤリと笑ってそれを踏みつけ、今日も暑いなと思いながら電車に乗った。
薄い瞼の藍色 すい @suiyomu27
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