小説は読者の頭の中に立ち上がっていくものだけれど、映像をなんとなく思い浮かばせることはできても、音や匂いを本当に思い起こさせることはとても難しい。でも、この小説の中ではちゃんとあのギターリフが鳴って、団地の暮らしの匂いがする。「デデッ!!!」という記号でしかない文字が、音として立ち上がって耳をつんざく。団地棟の壁に音がはね返って、「どっちから鳴ってるんだろう?」と思ったら、僕らもすっかり物語の中にいる。
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