番外編⑰ M阻止会議
「では、これより第123回帝会議を始めます」
それは皇子山の号令から始まった。
一之宮帝は、たくさんの人間を魅了する。
それは老若男女問わずで、そして本人は無意識なのだから質が悪かった。
魅了された人間は憧れレベルで済むのならばいいが、時には面倒なレベルにまで発展することがある。
ストーカー、誘拐、監禁、殺人。
帝の周りは常に危険が潜んでいて、それは気づかれないうちに処理されている。
そして帝会議というのは、あまりにも事件が起こりすぎるせいで、定期的に開かれるようになったものだった。
しかし現在、その会議の内容は変化を遂げていた。
「一週間前、生徒会で仕事をしていた際、帝がスマホを見て微笑みました。内容をバレないように盗み見したところ、Mでした」
「ちっ、だからあんなに機嫌が良かったのか。もちろん対処したんだろうな?」
「当たり前です。俺が一之宮家を通じて、きっちりと御手洗さんに仕事を追加しておきました。しばらくは帝に接触出来ないんじゃないですか」
皇子山が提案して、そしてそれに対して獅子王が唸った。
不穏な空気が流れかけたが、正嗣が良い笑顔で言ったおかげで何とか戻る。
「さすがだな。この調子で、どんどん邪魔していくぞ」
「ええ。もちろんです。兄さんとみた……Mをくっつけるわけにはいきませんから!」
Mと言って名前を伏せているはずが、完全に御手洗の名前を出してしまっている。
それに誰もツッコまず、話が続けられた。
「ていうか、最近さー。調子に乗りすぎじゃない?」
「そうそうー。この学園にも来すぎでしょー」
「この前のことがあってから、余計にだよね。ちょっと目に付くかも」
朝陽と夕陽、伊佐木は頷き合うと、宗人がすっと手を挙げた。
「確かにそこらへん目に余るところがある。せっかく帝が龍造寺の別荘に来てくれたのに、あの人が付いてきたせいで帝を堪能出来なかったんだよね。しかも二人だけの空気を醸し出したりして。帝のことを知っているのは自分だみたいなマウント取ってくるし、本当迷惑。だから龍造寺家として、抗議しておいた」
「それ西園寺家もしたー」
「したしたー」
「伊佐木家からもしておいたよ」
名だたる家から抗議が来てもなお、御手洗がクビになることは無かった。
それが帝のお気に入りだからという理由があることに、ギリギリと嫉妬の心を燃やしていた。
「……親父は帝を気に入っているから、あの人を抹殺しようと刺客を送ったみたいなんだけど、全員返り討ちにされているみたいだ……」
それまで黙っていた仁王頭自身は、御手洗に対して敵意を向けていなかった。
しかし家に帝が突撃訪問をした件で、気に入った龍が御手洗を消そうとしてた。
送られた刺客は決して弱くは無いのだが、その全員が何も出来ずに終わった。
「無駄にチートですから、そのくせ兄さんに対して最近は激甘対応をするからムカつくんですよ。この前、後ろから覆いかぶさるようにして一緒に書類を読んでいた時は、二度見してしまいました」
「そんなことがあったんですか……ますます目に余りますね」
「本当だよな。帝を手にするのは俺だ」
「……何をいっているんですか。帝は私と一緒になる運命ですが」
「二人とも落ち着いてください。兄さんは俺のものです」
「「弟君こそ何言ってるの? みかみかは僕達と三人でいるのが一番なんだけどー」」
「いやいや。俺と一緒にいた方が楽しいからねー」
「俺と部屋でずっと2人きりでいる方が、ハッピーエンドで終わるから。帝のために部屋もリフォーム中だし、こっちは一生養っていく覚悟ですけど」
「……俺も、帝と、ずっと一緒にいられるのなら幸せだな……」
123回も続いている会議だが、いつも最後は帝を自分のものにするという言い合いの収拾がつかなくなり、これといった結論が出ないまま終わる。
それでもまた時間が経たないうちに会議が行われるのは、帝の周りにいる人間の行動、特に御手洗の行動に全員がうっぷんをためるせいだった。
当たり前だが、この会議の存在を帝は知らないし、今後知ることも無い。
BL王道学園でリコールされないために 瀬川 @segawa08
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