第3話 幸せの形
「ごめん……」
頭を下げ謝るサトル。
ずっとサトルが好きだった。そんな私の告白に対する彼の答がこれだった。
「私こそごめんね。彼女がいるってのに、こんな事言って」
それだけ告げ、サトルの前から立ち去ろうとする。だけど最後、後ろからもう一度サトルの声が届いた。
「ほんとうにごめん。だけど、お前の気持ちが聞けて、好きだって言ってくれて、嬉しかった!」
そんな彼の言葉を背に受けて、私は今度こそその場を後にした。
「よかったの? やろうと思えば、今からでも彼と付き合うことはできるよ?」
いつから見てたんだろう。いつの間にか隣にはスイが立っていて、私が失恋の余韻に浸る間も無くそんな事を言ってくる。
確かに彼の力を持ってすれば、それも可能かもしれない。だけど私は、すぐさま首を横に振る。
「それはダメ。本当に好きなら、それは絶対にやっちゃいけない事だから」
「理解できない。君は確かに、彼と付き合うのを望んでいた。より幸せになる方法があるのに、なぜそれを選択しないのか。それに……」
幸福メーターなる物を取り出し、困惑した顔をするスイ。
「どうして、フラれる前よりわずかに幸福度が上がっているんだ?」
「えっ、そうなの? もしかして、その幸福メーター壊れてるんじゃない?」
そう言いながらも、実は理由は何となく分かってる。
確かに私は、サトルと付き合いたかった。そして、そう望んでいながら、何もできないでいた自分が嫌だった。
今の告白は、そんな弱い自分への別れの儀式。叶わなかった初恋に対する、私なりのけじめ。それが叶えられた今、寂しくはあっても、どこか晴れやかな気持ちになっている。
「幸福ってのはね、そう単純な物じゃないのよ。あなた、私を幸せにしてくれるんでしょ。だったらついでに、何が幸福かも自分で考えてみたら。そしたら、ナントカ星人だって自分で喜びを生むことができるようになるかもよ」
「自分で喜びを。そんなことができるなら、それはきっと素晴らしい事なんだろうな」
困惑しながらも頷くスイ。何故か、その顔が少しだけ笑ったように見えた。
「あなたには思いきり付き合ってもらうわよ。ちょうど、今日から夏休みで時間もたっぷりあるからね。とことん付き合ってもらうんだから」
何しろこっちは、ケジメをつけたとはいえ人生初の失恋をしたばかり。ちょっとやそっとで、彼の求めるくらいの幸せが得られるとはおもえない。もしかすると、夏休みいっぱいかかるかも?
「もちろん。それが、僕の役目だからね」
失恋から始まって、宇宙人と一緒に過ごすと決めた、2020年の夏。きっと、忘れられない夏になるんだろうな。
幸せってなんだっけ? 無月兄 @tukuyomimutuki
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