第2話 宇宙人の力で幸せに

 私を幸せにする。意味が分からず困惑する中、スイは順番を追って説明してくれた。


「僕達の星は、科学力が発達しすぎたせいで、大抵の事なら苦もなく叶えられるようになりました」

「はぁ、なるほど」


 ずいぶん凄い事を言うなと思ったけど、さっき部屋を一瞬で直したのを見ると、決して嘘とは思えなかった。


「だけど何でもできるようになった分、僕達には達成感や感動といった大きな喜びを感じる機会が失われていったんだ」

「それって、世の中楽勝過ぎてつまんないってこと?」

「そうなるかな。そこで、僕達は考えた。文明が未発達、かつ感情豊かな生命体に幸福な体験をさせ、得られた喜びの感情を少しだけ分けてもらおうと」

「ちょっと待って。その、幸福な体験をさせる相手ってのは──」

「そう、君だよ。対象となる人間は無作為に選ばれるけど、今回は迷惑をかけてしまったと言うことで、お詫びをかねてってことで。さあ、君はどうすれば幸せになれる?」


 そんな事言われても、すぐには信じられない話だ。いや、宇宙人って時点で既に信じられないんだけどね。


 だけどもしスイの言っている事が本当なら、ただで幸せにしてくれるって言うんだから乗らない手はない。元々失恋で悲しみのどん底にいるんだ。せっかくだから、憂さ晴らしに思いきり幸せになってやろうじゃないの。


「ほ、ほんとうに、幸せにしてくれるの?」

「僕にできる事なら。と言っても、ボッヘリト星の科学力に不可能なんてほとんどないけど」


 よーし、言ったね。じゃあ、遠慮なく願いを言うよ。


「ケーキの食べ放題がしたい!」





「ふぉぉぉぉっ!」


 スイと出会った翌日。私の家のリビングには、生クリーム、チョコ、モンブラン、チーズといった様々な種類のケーキが並んでいる。しかもスーパーやコンビニで売ってあるような安いやつじゃなく、フランスだったりホテルニューなんちゃらだったりのパティシエが作った超高級品だ。


「これ、どうやって持ってきたの? 盗んだの?」

「まさか。我々は現地の星の方に迷惑をかけるような事はしないよ。対象者の幸福実現を円滑にするため、この星の通貨は予め用意してある」


 そっか。最初思いきりこの家を破壊したのは迷惑以外何者でもないけど、それについてはもはや何も言うまい。

 しかも、嬉しい事はこれだけじゃない。


「これ、いくら食べても太らないんだよね」

「ああ。僕達の技術で君の体にある○○を××して▽▽を……」

「いただきまーす! おっ、おいしい!」

「それはよかった。他にも望む事があれば、なんでも言ってね」


 最初は胡散臭いと思っていたスイだけど、こんな事になるなら大歓迎だ。しかも、まだまだお願いを聞いてくれる気満々らしい。

 口いっぱいにケーキを頬張りながら、次なる願いを思い浮かべる。


「クレーンゲームを取れるまでチャレンジしたい」

「分かった」


「生のパンダに思いきりハグしたい」

「いいよ」


「空を飛ぶ事ってできる?」

「お安い御用」


 凄い。理屈はさっぱり分からないけど、こんな無茶なお願いも何の苦もなく叶えてくれる。

 さんざん空中飛行を楽しんだ私は堂々と街中に下り立ったけど、どういう仕組みか誰もこっちに気付いていない。


「どう、少しは幸せな気分になった?」

「うん、サイコー」


 だけどそれから、スイは何故かちょっぴり浮かない顔をになり、ポケットから何かの機械を取り出した。


「おかしいな。この幸福メーターを見る限り、今の君はそれなりに幸福を感じているようだけど、今一つたまりが悪い。もしかして、まだ言っていない願いがあるの?」

「えっ、そんなことは……」


 ない。そう言おうとしたその時だった。

 ふと、視界の端に見知った姿を見つける。サトルだ。そしてその隣には、一人の女の子がいた。


『彼女ができたんだ』


 昨日、そう言っていたサトルの姿が蘇る。 あの子がサトルの彼女なんだ。そう思った瞬間、ズキリと胸が痛む。

 するとそれを見ていたスイが、何だか納得したように呟く。


「ああ、そう言うことか」

「なにが————?」

「今まで集めた地球人のデータでは、幸福の条件に恋愛の成就を求める人は少なくない。あの人と付き合うのが望みなら、叶えることは可能だよ」


 そう言って、スイは私の答を待った。

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