信仰という夢

銀礫

信仰という夢

 あら、珍しい。

 こんなところにまで、ようこそ。


 ここですか?

 そうですね、あなたの知識の枠組みで言うならば、この世とあの世の境目とでも言いましょうか。


 いいえ。死んだわけではありませんよ。

 あなたのように、夢を通してここまで来る人が、たまにいるのです。


 いっそ死にたかった?


 辛いことがあったのですか?

 ……そうですか。それは、辛いですね。


 いえ、別に死ぬのは止めません。そもそも止められません。

 ただ、その前にひとつ、お話を聞いていきませんか?



 死んだらどうなるか、考えたことはありますか?


 天国へ行く?地獄へ落とされる?

 あるいは、輪廻転生する?

 もしくは、消滅してしまう?


 どれも正解です。

 正確には、あなたが信じていることが、正解です。


 死して魂となった者は、どこへでも行けて、どのようにでもなれるのです。


 なぜなら、魂とはエネルギーだから。

 それも、とびきり純粋な、時空を超越するエネルギー。

 その魂を核とするあなたには本来、その能力に制限はありません。


 魔法が使いたい?できますとも。

 モテたい?もちろん。

 自分の意のままに操れる世界そのものを創造することだって、造作もないことですから。

 実際、そうやって天国や極楽浄土は創られました。


 ですから、天国や極楽浄土に行くのもいいでしょう。信仰する者が多い世界はご近所ですし、すぐに行けますよ。

 輪廻転生をして、何度でも生まれ変わることもできるでしょう。

 どれも嫌なら、完全に消えることだって。


 いずれにせよ、あなたが死をもって、その肉体から離れ、宇宙というちいさな箱庭から出たとき、可能となります。



 あ、いま、「だったらさっさと死にたい」と思ったでしょう?

 別に責めてる訳じゃありませんよ。いや本当に。

 ただ、その前に少し考えてみてください。


 なぜ、あなたは今、この世界にいるのでしょうか。

 死後の魂が思い通りなら、生前の魂も思い通りだったはず。


 すでにお察しでしょうが、地球という、いえ、地球がある宇宙という狭い箱庭の中では、とあるルールが存在します。

 特殊な時空間がもたらす一定の数式に従って……などといった、小難しいことは省きます。


 まず、すべてが思い通りになるわけではない、ということ。

 そして、やり直しがきかない、ということ。


 どうやら心当たりがおありのようで。



 なぜ、このようなルールがあるのでしょうか。

 それは、ここでしか生まれないものがあるから。


 思い通りにならない世界で生まれるもの。

 それは「感情」です。


 テレビゲームを思い浮かべてみてください。

 制限された動作で、敵や難所をくぐり抜け、みごとクリアする。

 特定のルールの中で作戦を立て、ときに臨機応変に対応する。

 その結末や道中では、実に様々な感情が生まれるはずです。


 宇宙という箱庭で生きるというのもそういうこと。

 物理法則というルールの元で、クリアを目指し、感情を揺さぶる。


 これが、とんでもないエネルギー源でして。

 この感情の振れ幅によって、魂のエネルギーは増幅していきます。

 俗な言い方をすると、ピストン運動で発電するエンジンのように。


 実は、さきほど例に挙げた、魔法やハーレムと言った欲望も、宇宙という箱庭が生み出した、奇跡のエネルギー源なのです。


 そして、魂は高エネルギー体として輝きを増していくのです。

 結果として、その魂と繋がる「すべて」が成長していくのです。



 甘い戯言と言われればそれまでですが、ありえないことではありません。


 望み通りにならない世界を、あえて望んだのです。

 夢を見るために、夢のない世界を、望んだのです。


 だから、あなたが宇宙という箱庭にいることは、決して無駄なのではなく、むしろチャンスとも言えます。

 せっかくならば、その思い通りにならない世界で、魂からの想いを貫き、大いに感情を揺さぶってみるのも面白そうじゃないですか。

 死ぬのはその後でもいいでしょう。



 ……お話、どうでしたか?

 もしかしたら、何の役にも立たないかもしれません。

 それどころか、あなたをより悩ませることになったかも。


 ですから、ここで聞いたことは、ひとつの夢程度に思ってください。

 今までの話が本当だとも限りませんからね。


 だって、そうでしょう?


 あなたの真理を決めるのは、あなた自身ですから。

 どれだけ夢物語であっても、その真理は、あなたが信じる限り真実となります。

 真実と決めた夢物語。これが「信仰」です。


 今回のお話は、あなた自身の「信仰」を見つけるきっかけになればと、そう思ったからお伝えしたに過ぎません。


 さあ、このあとは、どうぞ、あなたの夢を見てください。

 あなたの夢は、必ず、あなたの中にあります。


 まだまだ、夜は長い。

 どうぞ心ゆくまで、おやすみなさい―――。

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信仰という夢 銀礫 @ginleki

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