第2話 VSゴブリン

「「「ギャヒ―――――――――!!!」」」

 と、奇声を上げながらソイツらは飛び出して来た。


 濁った緑色の肌。野生的な鋭い瞳、牙に爪。手には棍棒を持ち、二本足で立つ、小柄な鬼のような風貌。

 それはRPGなどのゲームで序盤に出てくる雑魚モンスター、


「「ゴ、ゴブリン!?」」

 俺はびっくり仰天驚き後退った。

 対して先輩は大変嬉しそうにしていらっしゃる。


「ギィ~~~…………」

 俺達を品定めするように眺めているゴブリン。


 正直あんまり強そうには見えないが、どうする?逃げるべきか?戦った方がいいのか?

 ゆっくりと後ろに下がりながら隣の先輩を見れば、

「ハァハァ……大丈夫。刺すだけ……。心臓か目玉を刺せば一撃で……ハァハァ」

 包丁の布を解きながら、鼻息荒く、ブツブツと物騒な事を呟いている。

 100%殺るヤル気だった。


 マジかこの人。普通は躊躇するもんだと思うのだが、俺がおかしいのか?怖いとかヤバいとか以前に、相手は普通(?)の生き物だぞ?食用でも無いのに殺していいのか?

 そんな疑問がふつふつと湧いてくる。

 いや、確かに正当防衛と言えばその通りなのだが、逃げて済むならそっちの方が良いのでは?


 ……うん。そうだな。よし、

「センパ――」

 俺は先輩を止めようと、声を掛けようとしたのだが、時既に遅し。


 先輩は気合一閃、

「ち、ちちちち、ちぇすと―――――!!!!」

 見るも無惨なへっぴり腰で包丁を付きだした。


 しかし、それは当然のように、

「ヒギャー!」

 ガキン!

 と、弾かれる。

 唯一の武器である包丁は呆気なく飛んでいき、遠くの木の幹に突き刺さった。


 攻撃手段を速攻で失った先輩はこちらを振り返り、無言で、されど視線だけで雄弁に語りかけてくる。

「…………(ど、どどどどどどうしよう太郎君!?)」

「…………(逃げるしかないのでは?)」

「「……よし!」」

 ダッ!!!(全力ダッシュの音)

「「「!? ヒギャー!!!!」」」


 こうして俺達とゴブリンのリアル鬼ごっこがスタートした。


 のだが、

「ちょ!先輩!まだ一分も走ってませんよ!?」

「カヒュー、ハヒュー、ム、リ、もう、ム、リ……死ぬ、しぬぅぅぅ……」

 既に過呼吸気味な先輩は今にも倒れ込みそうだ。


 しかし背後には棍棒を振り上げたゴブリン達が迫ってきている。

 さすがにボッチ……は関係無くて、引きこもり気味の魔眼使い(笑)と普段からお外で生活する野生動物ゴブリンでは体力差がありすぎるようだ。


 相手は小柄とは言え未知の生物三匹。

 正直嫌だが……、

「たろうくぅぅん……ハァハァ、もうムリぃ、死んじゃうよぉぉ」

「…………はぁ」

 さすがに幼馴染を置いて逃げる訳にもいかない。

 俺は溜息を吐きつつ立ち止まり、ゴブリンを迎え撃つべく振り返った。


 一応俺は格闘技の経験がある。

 ヘンテコとはいえ、先輩は見た目だけは可愛い。なのでまあ、よく絡まれるのだ、ちょっと調子に乗ってる系統の人達に。だからあれだよ俺が守ってあげなきゃ的な感じで。あ、勘違いしないで欲しいのだが、別に俺が先輩を好きだから、とかじゃなくて彼女のお母さんに頼まれてるからだから。マジで、本当に。


 と、そんな誰向けでも無い脳内言い訳をしている間に、ゴブリンは目前に迫っている。

 先輩はいつの間にか俺の背後に回って、

「ハァハァ、やってやりなさい、勇者太郎君。ハァ、ハァ、今こそ、あの技を使うのよ!」

 息を切らしながら意味不明な応援(?)をしてくる。

 てかあの技って何だよ。ゴブリン雑魚相手に使うフレーズじゃないだろ、それ。


「ヒギャー!!!」

 ゴブリンは三匹横並びに立っている。様子見なのか、その内真ん中の一匹がまず、俺に向かって突っ込んできた。


 相手の体重は見たところ二、三十キロ程度。手足は細いが、筋肉は俺なんかより大分あるだろう。

 弱点……というか付け入る隙は身長差か。奴等の上背は、俺の腰下までしか無いのだ。


 つまり、

「先手必勝!アゴキ――――――ック!!!」

 ミシィッ!


 人体――いや、相手はゴブリンだが――の弱点は色々あるが、一番楽に相手を無力化するには、脳を揺らして意識を飛ばすのが良いらしい。

 二足歩行してるゴブリンにも多分効く、事を祈って、俺は奴のアゴ先を蹴り上げる。


 突っ込んで来ていた勢いも相まって思ったより重い、が何とか足を振り切った。

 ゴブリンはそのまま後ろの木に頭から激突し、

「ぎ、ギィァぃぁぃ……」

 格ゲーで言うところのピヨった状態になった。つまり、気絶はしてないがフラフラはしてる。


 一対一ならそれで勝ち確なのだが、

「「ギギィ――――!!!」」

 相手は三匹いるのだ。

 今度は残った二体が同時に向かってきた。


「が、頑張れ負けるな太郎くーーん!」

 こっちの背後には小学生じみた声援を送ってくる高校三年生。


 これがスーパーマンだったら二匹同時に撃墜出来るのだろうが、俺は凡人だからな。

 先輩がいるから避ける訳にもいかないし、どっちかの攻撃は受けるしかないだろう。

 最悪骨を折られるだろうが仕方無い。


 よし!、と覚悟を決めた俺が再び必殺のアゴキックを放とうとした瞬間、

「【フレイム】!」

「ヒギャ―――――!!!!!」

 背後からゲームの魔法みたいな呪文を叫ぶ声が聞こえ、ゴブリン三匹が一斉に発火した。

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チート先輩(厨二)と俺(凡人)の英雄譚 五味葛粉 @m6397414

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